見出し画像

一粒のビワ

5月に入るとスーパーマーケットには早くもビワが並び始めた。

ビワも私の好物の一つだが、イチジク同様に子供のころ食べたビワの方が
味が濃くてもっと甘かったような気がする。
当時ビワは美味しいわりに安価で気軽に買える庶民の果物であった。
庭にビワが鈴なりに生っている家も珍しくはなかった。

ところが今は高級フルーツの仲間入りをしたらしく、綺麗な化粧箱に入って贈答品として売られている。
多分それはハウス栽培の早生ビワであり、子供のころ食べていたのは
露地栽培の完熟ビワだったのだろう。
味の違いはその辺りにあるのかも知れない。

しかしネット上の好きな果物ランキングではまさかの27位とふるわない。
イチジクに至っては何と38位であった。

ところで我が家にも20数年来の大きな枇杷の木がある。
息子が食べたビワの種を面白半分で庭に埋めたところ芽が出て
すくすく育ったのだ。
しかしいくら経っても実が生る気配は全くない。
そもそも花が咲いているところも見たことがない。

そのわりに成長が早いので切っても切っても枝や幹はどんどん伸びて
葉は生い茂る一方だった。
枇杷の木にも剪定の時期はあるが、夫はいくら言ってもお構い無しに
切ってしまう。
せっかく花芽が付いたとしても全部切り落とされてしまっているのだろう。
結果、花が咲くはずもなく実も生らないわけである。

先日そんな我が家の枇杷の木の葉陰に、豆粒ぐらいの青い実が
3個並んでいるのを見つけた。
思わず眼を疑ったが何度見直しても、それは間違いなくビワの実だった。
まさにビワの赤ちゃんなのだ。
何せ20数年ぶりに初めて実をつけたのだからまるで奇跡のようである。
私は文字通り小躍りして喜んだ。

よく「桃栗三年柿八年・・・」と言うが、そのあとに「枇杷は早くて
十三年」と続くそうだ。
13年と言うのも随分長いが、我が家の枇杷はその倍はかかっている。
それだけに、いとおしさも ひとしおなのである。

ところが翌日楽しみにして見に行くと、あろうことか3個の実が1個に
減っているではないか。
慌ててその辺に落ちていないか探したが、周りはツワブキの大きな葉が繁っていて分からない。 あるいは鳥が食べたのかも知れない。
以来私は朝に夕に一粒になったビワの無事を確認することが日課となった。
どうかこのまま大きくなって色づきますように。。
それはもう祈るような思いである。

露地ものの旬は6~7月だが、我が家の一粒のビワは果たして天寿を
全うしてくれるだろうか。
                         イラスト (顔彩)







この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?