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【架空の本棚】零光時司『寄木の國』

ボンチノタミ、ジョーカーです。

今日は零光時司(れいこうじ・つかさ)著『寄木の國』(よぎのくに)を紹介したいと思います。

※架空の本棚は、実在しない本の紹介文や感想を書く記事です。作者も本も実在しません。

零光時 司『寄木の國』表紙

あらすじ

人が生まれたとき、寄木と呼ばれる木が芽生える。
寄木と人はともに成長し、その人が寿命を迎え死ぬとき花を咲かせる。
寄木は神聖なものとされ、人の生死の象徴として大切にされてきた。
しかしある研究者は気付く。
寄木は人の生命を吸い取って成長しているのではないかと……。

『寄木の國』あらすじ

ジャンルとしては、ミステリーというよりホラーに近いかもしれません。
零光時司といえば、当時は新進気鋭のミステリー・ホラー作家として有名で、少し後味の悪さが残る作風で知られています。

今作は、人々が疑うことなく信仰し続けてきた〈寄木〉に対し、ひとりの研究者が疑問を抱いたことから始まります。
主人公はタカキという少年で、その少年がある日、研究者であるヨソイという男に出会うところから始まります。

家の庭でタカキの成長とともに育ってきたタカキの寄木、遠い実家に置き去りにしたままのヨソイの寄木、タカキの村に住む村人たちの様々な寄木。

果たして、寄木の正体とはなんなのでしょうか。

登場人物

タカキ

本名は千堂貴樹(せんどう・たかき)といい、舞台となる村に住む男子中学生。
厳格な祖父や父、穏やかな祖母と優しい母に育てられた、明るくまっすぐな少年。
寄木は生家の庭に生えており、現在は青々とした葉の茂る若木。
少し前に祖父が他界し、そのときに美しい白い花が満開に咲いたのを見たばかり。
フィールドワークに訪れていたヨソイと偶然出会い、彼の寄木の研究に興味を持つ。

ヨソイ

本名は余所一郎(よそ・いちろう)といい、寄木を専門に研究している。都会の大学の研究員。
幼いころ、隣の家の老婆が亡くなった際に咲いた赤い花を見てから、寄木を神聖なものというより気味の悪いものとして捉えるようになってしまった。
以来、寄木について興味を持ち、現在に至るまで調査研究を続けている。
自身の寄木は遠く離れた実家の庭に生えており、現在は傷むこともなく伸び伸びと育っているらしい。

印象的なシーン

ヨソイの幼少期の記憶

 隣のおばあさんが亡くなったとき、悲しみに暮れる一人息子の傍らで彼女の寄木は真っ赤な花を咲かせていたのをよく覚えている。
 血のような赤色が鮮やかに咲いて散っていた。まるでそれは、彼女の生き血を全て吸い取って咲いたような、そんな色だった。
「きれいだね、母さん」
 一人息子の言葉が、自分にはなぜかひどく恐ろしく感じた。

『寄木の國』13頁より引用

ヨソイが寄木に恐怖を感じるようになったきっかけのシーンです。
ヨソイにとって身近な人の死に対面したのはこれが初めてであり、寄木の花が咲くのを見たのも初めてでした。
そのときに感じた恐ろしさが、この先の彼の人生にずっと付き纏うこととなるのです。

タカキとヨソイの出会い

 見慣れない男が庭を覗き込んでいる。
 よれよれのシャツ、大きな肩掛け鞄、汚れたジーンズとスニーカー、大きなつばのついた帽子。
 泥棒の下見だろうか、と一瞬タカキの体に緊張が走ったが、しかし、泥棒にしては目立つ格好だ。
 よそものであるのは間違いないであろうが、一体自分の家に何の用事があるというのだろう。

『寄木の國』25頁より引用

学校から帰ったタカキが、自分の家の庭を覗いているヨソイを見つけるシーンです。
タカキのような少年でも、よそもの、という発想が出てくるあたり、閉鎖的な村なのだろうなというのがわかります。
実際、タカキの住む村は小さな村で、中学校の生徒も20人ほど。住民はほとんどが高齢者です。
このときソノイは、最近亡くなったばかりのタカキの祖父の寄木の痕跡を調べようとしていました。
最初は不審に感じたタカキも、やがて、ヨソイの研究に興味を持つようになっていきます。

凸凹コンビの何気ないやり取り

「ヨソイさん、手出して」
「なんですか」
 首を傾げながらも、ヨソイは素直に右手を差し出してきた。頭のキレる人なのに、こういうところは純粋で、不思議な人だなあとタカキは思う。
「はい」
「はい。うわあ!?」
 予想どおりの反応に、タカキは声をあげて笑った。ヨソイの手のひらでは、カマキリが元気に両手の鎌を振り上げている。

『寄木の國』69頁より引用

全体を通して暗くて不気味な雰囲気が漂う作品ではあるのですが、タカキの明るさやヨソイのちょっと抜けているところがときどき見えるシーンがあり、ちょっと和みます。
このふたりが楽しく過ごしているだけの話があったら、それを読みたいなと思う程度には、良いコンビだと思います。

まあ、実際には、そんなわけにはいかないんですけどね、この作品。
他の零光時作品同様、まあまあ後味の悪い作品ですので、こういうシーンは貴重です。

架空の本棚

というわけで、今回は零光時司著『寄木の國』を紹介しました。
興味のある方は読んでみてくださいと言いたいところですが、こんな本もそんな作家も存在しません。
ありがとうございました。


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