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不思議な出来事

もう何年も前になるが、仕事の移動時に説明がつかないことがあった。
10年くらい前、一日に5〜6件、訪問介護の仕事をしていた。あまり自動車が通らない畦道を、次の仕事に間に合うように走っていたときのことだった。
しっかり前を見据えて自転車をこいでいたのだが、前方から走ってくる自動車が迫ってきて道路の端に寄って来ていた。
「あぶない」と思った瞬間、目の端に茶色いフワッとした塊が見えた。車より、その茶色いものを避けなければ、と咄嗟にハンドルをきった。そして、懐かしい匂いがした。かつて実家で飼っていた秋田犬の匂いだった。

とっくに天国に旅立った愛犬が、春になったばかりの畦道にいるはずがないけれど、私は車に轢かれずにすんだ。
急いでいたにもかかわらず、驚いて自転車を降りて、周りを見渡した。いつもと同じ景色。
遠くに小さな山並が広がった、田園ののどかな風景。

春になろうとする頃、必ず思い出してしまう。
「まだこっちに来なくてもいいよ。誰かのためになりなさい」と秋田犬のチビに言われた気がした。心が辛いときには、救われた命を大事にして、精神を鼓舞しながら生きようと思い直す。

物事に理由があるのなら、誰もが生まれてきた理由があって、それを簡単に奪われてはならない。

理不尽な死があってはいけないし、世界中の人が誰かのために生きたいのは、当然のこと。
自分が健康でいないと誰も助けられない。誰かのために考える。何ができるんだろう。
考えて、感じたことを記憶して、いま出来ることの最善を尽くしたい。

見えない誰かの努力によって、私たちは生かされているから。

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