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どちらがよいかは簡単には比較できない『仕事を続けることと辞めること』

  (約1,100字)

「Bさんが秋には仕事を辞める、って夜勤のときに仰ってました」
前職の仕事では信頼できる先輩ができて、今でも交流がある多才な男性がいる。

当時はまだ、やっと仕事をひと通り覚えて、あちこちのユニットのサポートをしていた。
夜勤時には他のユニットの担当をすることがあり、夜中に個人的な話をしてくる同僚がいた。

「あぁ、あの人ね、もう5年以上、それ言ってるから、気にしなくていいよ」

「本気の辞めるではないんですか」

と聞くと、その先輩はタブレットを確認しながら細かく頷いていた。

「そう、口癖みたいなもんだから。
辞める辞める詐欺だよ。仕事、好きだしね、色んな人に言ってるから、心配ないよ」

私は、夜勤のときに延々と聞かされた愚痴のような相談が無意味であったことを、そのとき初めて知った。

結局、辞める辞める詐欺のBさんは、その会社に今でも勤務している。

私やその信頼できる先輩の方が、会社を辞める時期は早かった。

Bさんは基本的に優しい人柄で、シフトを変わって欲しい要望があれば、他の人と変わってあげたり、要領よく立ち回っていた。

体調が優れないときは、隣りのユニットで働く私を呼びつけて、身体介助を手伝わせた。

「今、足が曲げられないから、座って(ズボンを)履かせる仕事が出来ないのよ」
と言って、簡単な業務だけしていたことがあった。体調不良なら休めばいいのにと内心思ったが、人手不足でそんなことは言っていられない現実があった。

悩みが深刻なら、他人はなかなか本音を話さないものだ。
私が辞めるときは誰にも言わなかった。

辞める辞める詐欺の人は、引き留めて欲しかったのだろう。

「いま、Bさんに辞められたら困りますよ。クリスマスのイベントとか、時期的な作業は長く
経験がある人でないと分からないですから」

と、私はBさんを引き留めるような話をした。

相手が話す内容を分かったうえで、ひとは相談する人を選ぶ。
長く社会人をやっていると、そういうやり取りを嗅ぎ分ける能力が身につく。

「体調が悪くてツライようなら、辞めたらいいじゃないですか」

と言いそうな人には、Bさんは「辞める辞める詐欺」を発信していなかった。


長く同じ仕事を続けるひと。

短いスパンで仕事を変えて、人生を楽しむひと。

家を守り、家族に尽くすひと。

どの人生も、アリだと思う。


今の職場で知り合った、昔上司だった人が話したことが忘れられない。
私が結婚について悩んだときのこと。

親になるのに、資格はいらないんだから。
子どもが出来たら、無資格で親になるんだよ。
子どもの自分が分からないまま親になって、やってるうちに資格を持ったような経験者になっていくの。
だから、仕事より人生が長いって分かるときがくるから、今は焦らなくていい」

そんなことを聞いた。

自分に必要な能力。
あって便利な資格。

得られるときに選択したらいい。

今が、自分にとって最適なときかなんて、
誰にも分からない。




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