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短編:「妖怪たちの鬼ヶ島」


(約1,400字)



 あるところに子供に恵まれないお爺さんとお婆さんの夫婦がおりました


 夫婦は「どんなに訳の分からない素性でもいいから、可愛らしい子供を育てたい」と願いました

 夫婦は柴刈りや洗濯をする前に、毎朝、熱心に神社へ通いました

「お百度参り」です

 夫婦がお百度参りを成し遂げた日に、家に帰る途中のドブ川に桃が流れてきました

「あれあれ、こんな所に桃が流れて来ましたよ、お爺さん」

 お爺さんは柴刈りで使うカゴを上手く使って、ドブ川の桃を引き上げました

 桃を大切に持ち帰り、洗ってから仏壇に供えました


 次の日。

 それは見目麗しい男の子が仏壇の前に座っていました

 その手には、しっかりお鈴を抱えていました

「ぼくは昨日、拾われた桃だよ。お腹が空いたから、コレを売って饅頭を買って来てもいいかい」

 言うことは可愛いが、お鈴を売って自分の腹を満たすとは、なかなか賢い子供だとお婆さんは目を細めました

 お爺さんは桃から生まれたという男の子に、お鈴を両手でさすってから売ることを了承しました

「可愛らしいが、この家の子になってくれるか怪しいもんじゃなぁ」

「あの子を『ももた』と名付けましょうか、太郎をつけると今っぽくないから」

 お婆さんはすでに、息子として『ももた』を受け入れているのでした 

「なぁ、桃から生まれた子供だから、『ももた』でいいかい」


 お爺さんが艶のある髪を撫でると、ももたは嬉しそうに微笑みました


 小一時間経ち、桃から生まれた『ももた』は、饅頭屋の紙袋を抱え、団子を食べながら歩いていました

 お鈴は金が含まれていた為、良い値段で売れました


 そこに団子の匂いに鼻をひくつかせたイヌが現れました

 イヌは見目麗しい男の子に近づき、尻尾を振りながら声を掛けました

「私にも、一つくださいな。代わりに友達を紹介します」

 ももたは、友達欲しさに吉備団子をイヌに一つ分けてあげました

 また一丁ほど歩いて行くと、変わった風体の子供に会いました

 肌が赤く、毛が全身に多めでしたが、ももたはニコリと笑い、赤い子供に吉備団子をあげて、家に招きました

 赤い子供は、キジムナーと言いました

 山の麓で、ケーンと鳴く声が聞こえました



 そろそろ家が見えそうな山道を歩いていると、前髪の長い猿が現れました

 イヌは前髪の長い猿を、
「この子はわたしの友達よ」と紹介し、
ももたに吉備団子を分けてあげるように促しました

 入り日の頃、ようやくお爺さんとお婆さんの待つ家に着きました


「おや、なにやら体が大きくなったようだねぇ」

 お婆さんは嬉しそうに男の子を迎えました


 ももたは、お爺さんとお婆さんを幸せにしたい気持ちがわいてきました

 一緒に暮らすイヌとキジムナーと前髪の長い猿は、親代わりのお爺さんとお婆さんの言うことをよく聞きました


 そして2週間後のある日、鬼ヶ島に遊びに行くことにしました


 実はイヌは、「イヌガミ」という妖怪

 赤い子供は「キジムナー」という、これまた妖怪

 前髪の長い猿は、「三目猴猿[みつめこうえん]」という三つ目の妖怪でした



 『ももた』は、よく出来た子供です

 「お爺さん、お婆さん、僕たちは力を合わせて、鬼ヶ島に行ってきます。そして、鬼たちと仲良くなって、僕ら人間に悪さをしないように話をしてきます。彼らが一緒だから、大丈夫です」

 2週間で青年にまで成長した『ももた』は、鬼ヶ島へ旅をすることになりました


 これが、世間でいうところの鬼退治です


 妖怪が三者もついていますから、ももたの鬼ヶ島制圧は成功することでしょう



             おしまい





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