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江戸時代に学ぶ循環型社会

みなさん、こんにちは。牛ラボマガジンです。牛ラボマガジンでは「牛」を中心としながらも、食や社会、それに環境など、さまざまな領域を横断して、たくさんのことを考えていきたいと思っています。

今回は、サーキュラーエコノミー(循環型経済)を文字って「サーキュラーエド(江戸)ノミー」と呼ばれることもあるほど循環型社会を実現していた江戸時代の暮らしに迫ります。

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医療の発達や科学技術の進歩によって、人類はこの数百年で寿命をのばし、望むものをつくり出し、行きたい場所へ行き……と大きく進化を遂げたように見えます。しかし、同時に地球温暖化、人口増加、食糧危機、資源不足など、世界規模の問題が年々増え続けているのも事実です。
長距離の移動には化石燃料が使用され、日本へやってくる食べ物には傷まないように防腐剤などの添加物が加えられるように、国を横断して人や物の行き来が可能になることで、恩恵と共に影ももたらされることとなりました。
短期間で起こり続ける産業や社会の仕組みの変化ですが、その流れのなかで、私たちの生活が「自然と切り離されてしまった」と言われることがあります。


循環する暮らし

いまの時代、生産者の顔が見える食べ物を食べている人はそう多くありません。理由は、安定した生産や加工、長距離輸送が可能になり、いつでもどこでも好きな食べ物を自由に食べられるようになったからです。ひと昔前であれば地元でとれた魚や野菜を食べるのが当たり前で、「お隣の田中さんがつくった白菜」や「家でつくった味噌、漬物」などが食卓に並び、もっと食と生活は密着していました。


しかし、今では誰がどこでつくったかわからない食べ物を口にしています。生産の仕組みが向上したことで、スーパーマーケットには年中同じ食材が並び、季節感も失われてしまいました。どの野菜がどのように作られ、どのような魚がどのように獲られるのか、そういった想像力が入り込む余地もなくなっています。もちろんそういった仕組みが生み出した豊かさも確かにあります。ですが、私たちがこのように自然から切り離されてしまうことについて、少し向き合わなくてはいけないような気がしてます。

現代がこのように変化する一方で江戸時代はどうだったかというと、まさに「循環型社会」と言えるような仕組みが存在していました。江戸時代は鎖国の真っただ中ということもあり、資源が少なく倹約に努めるほかなかったとも言われていますが、その分あらゆる物を大切にしていた様子がうかがえます。

着物を例に見てみましょう。着物は元々、身長や体形が変わっても丈や幅を調整して長年着られるつくりになっていますが、着られなくなってからも大活躍していました。

① 子ども用に着物を小さく仕立て直す
② 端切れや糸は業者に売る
③ 小さく切って雑巾にする
④ かまどや風呂釜の燃料として燃やす
⑤ 燃え尽きた灰は肥料として利用する

このように、着物には豊富な使い道がありました。着物は麻や綿などの自然素材からできているため、灰になっても肥料として十分使うことができたのです。つくったものをさまざまな形で活用し、燃え尽きた後まで利用できる。一切無駄のない循環です。よく「自然界にはゴミという存在はない」と言いますが、江戸時代の着物の使い方はまさにそれを体現するような存在です。

循環する菌と私たち

そして、江戸時代で肥料といえば、もう一つ忘れてはならないものがあります。それは、人糞やし尿からできた「下肥(しもごえ)」です。

幕府が下肥の確保のために大きな便槽を設けるよう指導したことで、下肥は都市部でも農村部でも利用されていました。
また、当時は、各家庭や屋敷から人糞やし尿を集めてまわる専門業者が存在していました。身分が高いほどいいものを食べているとされていたため、どこから出た人糞やし尿かによって買取価格が変動したそうです。

下肥のつくり方はとても簡単です。肥だめに藁などを加えて蓋を閉め切ると嫌気性細菌の代謝作用によって、糞尿が有機酸、アミノ酸などに分解されます加えて、メタン菌によって炭酸ガス、メタンガス、水素、窒素などが生成され、これによってし尿が安定し、発酵の際に生じた熱で回虫などが死滅するため、肥料として使うことができるようになります。当時はこの下肥や着物の灰などを畑に撒き、文字通り「肥やし」としていたわけです。

数十兆個の腸内細菌が便に姿を変え、肥料となり野菜を育て、またその野菜を食べるという循環に菌は欠かせませんでした。多種多様な菌が存在するおかげで、人間や他の生き物、自然が調和を保って生きていくことができるのです。

元祖ダウンサイクルは江戸時代から?

使い終わった物をそのまま活かしたり、価値を高めて利用したりする「アップサイクル」という言葉があります。アップサイクルには、「破れたジーンズを別の服にリメイクする」「不要になった部品を集めてアート作品にする」など、さまざまな取り組みがあります。
そして、アップサイクルに対して「ダウンサイクル」という言葉もあります。先ほどの江戸時代の話はまさにダウンサイクルです。着られなくなった着物を雑巾や灰に変えて利用することや、人糞やし尿を下肥として撒くことなどが、ダウンサイクルです。
この「日本流ダウンサイクル」を数百年も前から実践していたと思うと、日本人には昔から「最後の最後まで大切に使う」という精神が根付いていたことがわかります。

鎖国などの状況が作用した部分もあるかとは思いますが、江戸時代の暮らしの大きな特徴は、循環する社会であったことかもしれません。リサイクルされずに廃棄されるリニアエコノミー(直線型経済)と違い、資源や経済が循環するサーキュラーエコノミー的な暮らしが普通だったのです。世界規模の問題を多く抱え、地球温暖化が待ったなしの局面を迎える現代に必要な解決策は、案外身近なところにあるのかもしれません。

このように、自然の力を借り、共に生きていくことがいまの私たちに求められているように思います。「物を大切にする」、そんな当たり前のことを考えることが、これからの社会をつくっていくことに必要なのかもしれません。

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(執筆:松本有樹、編集:山本文弥)