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シンガポール発Edtechカンパニー「Manabie」。元EdTech起業家のVCキャピタリストが期待する凄さとは?

こんにちは、千葉道場ファンドです。

千葉道場ファンドは2022年4月、教育機関のDXを推進するプロダクト開発・サポートを提供するグローバルEdtechスタートアップであるManabieに対して、シリーズAラウンドで追加出資しました。本ラウンドにより、Manabieの累計調達額は約29億円(22年9月現在)となりました。

Manabieは2019年にシンガポールで設立。元々はベトナムでオンラインとオフライン両方の教育を融合させた学習塾を運営していましたが、パンデミックの影響で日本の学習塾のDXニーズが高まり、現在では教育事業者に特化した教育DXプラットフォームも開発・提供しています。

今回は、Manabie代表の本間拓也さんと、自身もEdtech領域で起業経験を持つ千葉道場ファンド・パートナーの石井貴基が対談。教育DX化の趨勢や教育ビジネスならではのファイナンス事情など、同じ領域で起業した者同士だからわかるEdtech領域の悩みや理想形について語っていただきました。

ベトナムから日本の教育モデルを広げる ーー Manabie の挑戦

ーー本間さんが代表を務めるManabieは、ベトナムを中心とした東南アジアに日本の教育モデルを導入すべく立ち上げたとうかがっています。まずは起業の経緯や事業内容について教えていただけますでしょうか。

本間:2010年にイギリスで、教育スタートアップの「Quipper(クイッパー)」を共同創業したころからずっと教育事業に携わっています。リクルートに48億円でM&Aされたのが2015年。現在、日本ではスタディサプリ、海外ではQuipperのブランド名でオンライン教育サービスを行っています。現在200万人ほどの生徒がいます。私は4年ほどそこでプロダクト担当を務めていました。2019年にリクルートを辞め、シンガポールでManabieを起業しました。

ーー具体的にどのような事業を行っているのでしょうか。

現在はベトナムで展開している小中高生向けオンライン学習アプリの提供、OMO型(オンラインとオフラインの融合)のデジタル学習塾の運営に加え、日本の学習塾・学校・大学などの教育機関に向けて、教務・校務などスクール教室運営に必要な機能を網羅したDXプロダクトを開発しています。さらに、業務効率化やデータ活用の推進サポートなど、包括的なDX支援をグローバルに展開しています。

例えば、こちらはベトナムで行っているサービスのイメージです。

ベトナムは東南アジアのなかでも教育への投資が多い国で、世帯年収の20%が教育に支出されています。しかし起業当時はオンライン・オフラインともに規模の大きいEdTechのプレイヤーがほぼ見当たらず、Quipperで培った経験と築いたネットワークを活かして戦えるんじゃないかと思ったんです。

ベトナムでは、スマホやタブレットで、どこでも学習できるオンラインサービスと平行するかたちで、リアルで学べる場を提供しています。

つまりオンラインとオフラインのハイブリッドで、教育機関としては日本で言うところの塾に近いサービスを提供しながら、そこで利用するLMS(学習教務システム・生徒アプリ・先生アプリ・保護者アプリなどの学習・教務システム)も自社で手掛けています。

こういったオンとオフの教育は、それぞれサービスの提供者が別のことも多いのですが、私たちはあらゆる教育の形態に必要な機能を一気通貫で提供できるよう、システムを自社開発しています。

日本では基幹システム・校務システムも手掛けており、エンジニアなどプロダクトチーム総勢130人ほどでしっかりつくりこんでいます。

システムは自社で使用するだけでなく、学習塾や高等教育機関などに幅広く提供し、DX化を含めたコンサルティングまでサポートすることが提供価値であると考えています。

パートナーに提供しているDXソリューションの事例がこちらです。

DX化の中長期戦略立案、新規事業の立ち上げサポート、業務オペレーションの改善コンサルティングと、業務の幅はどんどん広がっています。単なるオペレーションだけではないストラテジックな部分のサポートを通じて、私たちのプロダクトを使っていただけるような事業展開を行っています。

この部分は現状、日本の教育機関のニーズが多いのですが、将来的にインドネシアやインドなども含めグローバルに展開していくことを目指している会社です。

元・EdTech起業家だからわかったManabieの凄み

ーー千葉道場では2号ファンドからManabieに投資をはじめ、今回のシリーズAでも新しいファンドから投資を行っていますね。

石井:そうですね、シードラウンドが最初の投資で、プレシリーズAでも大きく投資させていただきました。今回のシリーズAプラスでも更に投資させていただいたので、もう3回目になりますね。

ーーそもそもManabieについては、どのようなかたちで接触を始めたのでしょうか。

石井:ジェネシア・ベンチャーズの鈴木隆宏さんからのご紹介です。鈴木さんは東南アジアのスタートアップ事情に詳しいのでManabieさんにもエンジェルラウンドから投資されていました。シードラウンドで投資するにあたり、私がもともとEdTechで起業経験があったこともあって、お声がけいただいた次第です。

ただ当初は、自分が投資家になってもEdTechには投資しないだろうなと思っていたんです。領域にもよるんですが、教育のマーケットはサービスが普及するのに時間がかかります。ベンチャーキャピタルが求める成長の時間軸と合うのかという意味で、エクイティファイナンスは難しいのではないかと実感していました。

ですが鈴木さんからManabieの概要を送っていただいて、オンラインだけでなくオフラインも併せたハイブリッドな教育事業を進めているのを知って、これは間違いなく上手くいくと確信が持てました。

ーー確信が持てた理由はなんでしょうか。

石井:ベトナムでいわゆるOMOの学習塾をされていて、オンラインサービスの方は前職で私が手がけていたビジネスモデルにかなり近しいなという印象がありました。ただ動画を配信するだけではなく、チューターによるサポートも手厚いため、生徒の学習継続率を大きく向上させられます。

しかも、Manabieが展開している東南アジアは、教育投資が大きく急成長しているマーケットです。2020年4月にお会いするまでに、もうサービスの型ができていて、もちろんそれからすごい勢いでアップデートされてはいますが、その時点でも有望な、すばらしい事業だと思っていました。

本間:ありがとうございます。お会いした当時もコロナ禍で、オフラインの教室を急拡大するフェーズではなかったのですが、代わりに教育機関にシステムを提供していくことに力を入れ始めていました。

ManabieのビジネスはBtoBtoCですが、BtoCの部分はキャピタルインテンシブなところがあるうえ、教室を増やしたりマーケティングしたりと、マーケットを成長させるのに時間もコストもかかります。世の中の流れを見極めながら、どの事業をどう広げていくか考えていきたいと思っています。

教育事業は時間がかかる。でも、ゴールは描けている

ーー石井さんは、Manabieが東南アジアですでに事業の基盤を築いている点にも、かなりの優位性を感じたわけですね。

石井:ええ。ベトナムにリアルの教室を持ちながら、日本の学習塾とコミュニケーションが取れる会社自体が少ないんじゃないかと思います。

さらにベトナムに開発拠点を持っている。それが圧倒的な強みですね。しかも優秀なエンジニアが100人以上もいる。これはManabieくらいの規模の会社が抱える数としてはありえない数字です。日本のEdTechで活躍するスタートアップのなかでは一番エンジニアが多い会社かもしれないですね。

本間:そうですね、エンジニア数はかなり多いほうだと思います。でも、プロダクトのレバレッジを効かせるために、私たちも引き続きエンジニアを増やしていく必要があると考えています。

また、私たちの事業はカバー領域が広いので、一緒に中長期戦略を描ける仲間も必要です。これから成長していくために、教育ビジネスの知見のある方も、どんどん増やしていきたいですね。

ーーEdTechは国や自治体も大きく関わってくる領域なので、グロースさせるのは大変だと耳にします。本間さんは、Manabieの持続的な成長には何がポイントになると思いますか。

本間:やはり教育事業は時間がかかるビジネスなので、その上でやりきる覚悟があるかですね。戦略を立案してコンサルティングする以上、パートナーさんがDX化を完遂するまで徹底的にサポートする実行力が問われているのだと考えています。つまり、気合いと根性が必要です(笑)。

石井: ひとつ旧世代のEdtech起業家の私から見て、本間さんが私と圧倒的に違う所って、パートナーのことを諦めないことですよね。

私世代のEdtech起業家は、コンシューマー向けのプロダクトのみ、みたいなケースが多くて、当初からBtoBtoCモデルを志向してる人って少なかったんです。おそらく、少なくとも私はそうだったんですけれども、日本の教育機関にはデジタルの導入をしていただけないだろうなと諦めてしまっていたんですよね。だから私は、Bの方にはほとんど行かなかった。そういうところは振り返って反省してるところなんですけれども、本間さんとチームの皆様はそこを絶対に諦めない。そのスタンスが 僕は素晴らしいなと思ってます。何より自分ができなかったことなので。

ーー本間さんが諦めずにモチベーションを保っていられる理由ってなんでしょうか?

本間:デジタル化を実現した「理想の教育機関」、つまりゴールのイメージを強く描けているからだと思います。

Quipperをやっていた2010年ごろは、デジタル化がどこまで進むかは未知数でしたが、その後、中国やアメリカでは教育のデジタル化が急速に進みましたし、少なくとも同じレベルまでは引き上げられると思っています。

バーティカルSaaS全体で考えるとファイナンスやインダストリー、リテールなどいろんな領域でデジタル化が進んでいますし、教育だけデジタル化できない理由は、もうどこにもないはずです。

例えば、リモートワークも最初は抵抗のあった人が多いと思います。でも一度やってみたら、もうやめられなくなる。実行までのハードルは高くても、使ったら離れられなくなることってありますよね。オンライン教育もそのひとつだったんじゃないでしょうか。

まずは日本で、私たちの描いたイメージを3年かけて実現していきたいなと考えています。

必要な知見は千葉道場コミュニティで揃う

ーー千葉道場コミュニティにはバーティカルSaaSの起業家も多く所属しています。本間さんはコミュニティーのメンバーと、どのような関わり方をしていますか。

本間:私はアドバイスを積極的に求めるタイプなので、領域が似ている方と意見交換したりしています。

例えばカケハシさんは同じバーティカルSaaSですし、代表の中尾さんや中川さんとは同い年で話しかけやすいこともあり、よくヒアリングさせていただいています。他にも、アメリカで1000人以上のエンジニアをグローバルでマネジメントされていた元楽天の安武さんからアドバイスをいただいたり。

起業家に聞く姿勢があれば、千葉道場コミュニティにはあらゆる知見とリソースが揃っていると思いますので、これからも活用していきたいですね。

ーー合宿には参加しているのでしょうか。

本間:はい、もう4回ほど参加しています。全てオンラインだったのですが、こちらから質問すれば答えてくださる方ばかりで、いつも楽しく参加させてもらっています。

合宿中のセッションでも本当に貴重な知見が得られます。例えば、ウェルスナビの柴山さんが会社をどのようにグロースさせ、資金調達を成功させたか。IPOまでの道のりなどを事細かに説明いただける。その後に個別でフォローアップしてもらえて、学びにつながりました。やはり、ファイナンスの話ってなかなか表に出てきません。他ではなかなか味わえない貴重な機会だと思います。

石井:そういえば、次回の合宿では本間さんが幹事ですね。

本間:はい、次回は英語でのグローバルセッションをやりたいと考えています。千葉道場が掲げる「Catch The Star」の実現、つまり時価総額1兆円を目指していくためには、グローバルでの資金調達もやっていかないと難しいと思いますので。

ーー千葉道場のキャピタリストとはどのような関わり方をされていますか。

本間:ぼくはアドバイスを非常に求めるタイプなので、ハンズオンというか、メンタルも含めていろいろサポートしていただけるのは非常にありがたいです。石井さんは、ものすごく励ましてくださる。

石井:(笑)

本間:それだけか、って思われるかもしれません。でも、起業家を励ますのは、なかなか難しいことなことなんです。投資家が事業戦略について意思決定を後押しするのは、大きなリスクを背負うことにもなりますから。結局、いいのか悪いのか、プッシュしてくれているのかよくわからないケースもある。この点、石井さんは明確にプッシュしていることを示してくれるのでありがたいですね。もともと起業家ですし、自身が意思決定することの大変さとか重みを把握した上でプッシュしてくれているなと感じます。

それが、大きな選択をするにあたって、これ以上ない励みになるんです。シリコンバレーでエリック・シュミットやスティーブ・ジョブズをコーチングしていたビル・キャンベルを描いた『1兆ドルコーチ』という本がありましたが、こういったコーチングは起業家にとってとても重要だと感じています。

石井:私が実際に経験したことや躓いたこと、「そこに落とし穴があるかも」といった情報はお伝えするようにしています。

とはいえ、Manabieをどう成長させていくかは本間さん自身が一番考えていること。なので、基本的には「進みたい未来に向かってください」というスタンスです。それに、本間さんはすでに私がたどり着けなかったところに踏み出していらっしゃる。だから期待を持って見守っているような状況ですね。

本間:その期待を追い風にがんばって行きたいと思っています。

日本の教育を、DX化で世界へ

ーーありがとうございました。それでは最後に、Manabieの最終的な目標について教えてください。

本間:やはり、世界のあらゆる教育機関のデジタル化を実現することですね。そして、その実現に一緒に取り組む仲間が重要になってきます。

多様性あるグローバルな環境ではコンテキスト(文脈)のシェアが難しくなります。だから、仲間のそれぞれが自身の情報をシェアして、自身でオーナーシップを持ってもらう必要がある。そんな圧倒的な当事者意識を持つ組織をつくっていくのが足元の課題だと考えています。

ーー石井さんの側からは、Manabieが掲げる目標達成のために何が必要で、どういった支援をしていきたいと考えていますか。

石井:そうですね、すでに私が経験したことをはるかに超えているところまで到達してるので、私がこういうのも大変おこがましいなと思ってるんですけれど。

あえて短期でというなら、日本のチームがすごくレベル高く採用できていると思うんです。これは本当にすごいなと思っています。次の国にいく礎を、どれだけ早くクオリティ高く作れるか。日本でできた成功例を海外に、いかに横展開できるかというところがうまくいけば、あとは型化していきやすくなると思います。

本間:日本は高等教育くらいまでのオペレーションに関しては、世界的にも洗練されていると思います。

東南アジアでは、オフライン教育をすっ飛ばしていきなりオンライン教育の普及が進んだので、海外ではオフラインの塾は、あまり事例がないんです。オンラインだけで言えば中国とかインド、インドネシアがすごく進んでいるんですが、オフラインが抜けている。ただ、結局オンオフのハイブリッドになると思うんですよね。そう考えると、まずはオフライン教育が充実している日本で成功事例をつくっていきたいと思います。

オフラインの教室を運営しながら日本の教育機関にどんどん入らせていただいている中で、プロダクトにフィードバックできているので、ハイブリッド型を広げる蓋然性みたいなのは高まっているんじゃないかと思います。

今回の資金調達で得たお金は、そのためのプロダクトチーム拡大に充てたいと考えています。私たちが掲げる「世界の教育を良くする」というビジョンに共感し、教育のデジタル化に挑戦したいエンジニアやプロダクトマネージャーの方がいれば、ぜひご連絡いただければ幸いです。

文:渕上 聖也
編集:西田 哲郎

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