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時価総額を100倍にするために――スペースマーケット重松大輔が語る、起業家コミュニティ界の先駆者「千葉道場」の未来

こんにちは、千葉道場ファンドです。このnoteは千葉道場ファンドの投資先起業家でつくるコミュニティ「千葉道場」のカルチャーを伝えるべく、道場内のヒトやモノ、コトにフォーカスにして発信していきます。

今回のインタビューに登場する、株式会社スペースマーケットの重松大輔さんが創業したのは2014年1月。会議室や古民家といった空きスペースを時間単位で貸し借りできるプラットフォームサービス「スペースマーケット」を展開する同社は、2019年12月には東京証券取引所マザーズ市場に上場しました。シェアリングビジネスを推進する立場から、重松さんは300社以上が登録しているシェアリングエコノミー協会の代表理事にも就任しています。

サービス立ち上げのきっかけは、平日の結婚式場はガラガラなのにまったく使われていないのを知ったこと。

一般的なオフィスはもちろん、野球場や映画館など、それぞれの施設に必ずアイドルタイムがあることに気づいた重松さんは、遊休スペースをもっと有効活用できるのではという見立てから、約100件のスペースを集めてサービスを始めました。貸し手と借り手、双方を増やし続けないと成り立たない時間のかかるビジネスではあったものの、5年後の2019年には黒字化に成功、12月にはIPOを果たしました。

IPOまでに3度の資金調達を行っていますが、サービスをリリースして1ヶ月の時点で「エンジェル投資したい」と名乗り出たのが千葉功太郎でした。

今回はその重松さんに、時価総額100倍のインフラビジネスに成長させるためのプロダクトづくりや、高い視座を維持するために千葉道場をいかに活用しているかについて伺いました。

IVSから始まった千葉功太郎との縁

2015年の第1回千葉道場合宿。重松さん(写真中央)も参加しました

ーースペースマーケットの創業期から、千葉との関わりは深かったとお聞きしています。

「私は2014年1月に起業しまして、同じ年の5月に開催されたベンチャー企業のカンファレンスのIVS(Infinity Ventures Summit)に参加したときにお会いしました。まだサービスを開始して1ヶ月くらいだったんですが、ピッチイベントの『IVS LAUNCHPAD』に登壇して、結果は準優勝だったんですね。そのとき審査員のひとりが千葉さんで、『エンジェル投資をしたい』と言っていただけたところからご縁が続いています」。

「なぜ千葉さんにお願いすることを決めたかというと、理由は大きく2つあります。ひとつは実績で、コロプラという当時時価総額で数千億という規模の会社を創業した起業家であり、かつサイバードやKLab、リクルートなど複数の組織で結果を出されているプレイヤーでもあること。さまざまな事業の成功に再現性のある方だということが挙げられます」。

「あともうひとつは人柄。私と2歳くらいしか離れていないのですが、とてもギブの精神に溢れている方で。千葉さんは興味分野がとても広い上に好奇心がめちゃくちゃあって、もちろんその深堀りもすごい。常に新しいことにチャレンジし続けていて、その知識や経験をギブするのを惜しまない。千葉さんは不動産投資もされていて、当時海外ではAirbnbのようなサービスも生まれていましたから、その流れで興味を持っていただいたと聞いています」。

「千葉さんはその頃まだコロプラにいらっしゃって、エンジェル投資はちょうど始めたばかりくらいです。そもそもエンジェル投資家って、当時はまだ層に厚みがなかったんですね。当時、当社の投資家は千葉さん以外はベンチャーキャピタルだったので、投資だけでなく経営者としての目線でアドバイスしていただけたらありがたいという思いもあり、投資をお願いすることに決めました」。

起業家がもれなく陥る「組織づくり」問題

千葉道場の第1回目の合宿より

ーー千葉にアドバイスをもらいたかったのはどんなことですか。

「やっぱり組織の作り方についてですね。どんな業種でも同じだと思うんですが、スタートアップを起ち上げるにあたって軸となるのは『人』です。幹部にはどんな人が必要なのか、そもそもどうやって採用すればいいのかなど、事業は違っても同じ問題にたどり着きます。たとえば謙虚な人を採用するとか、ストックオプションで釣りすぎないとか、そういった細かい話もしましたね(笑)」。

「千葉さんは人事だけでなくエンジニアリングやPR、営業の仕事などもされていましたし、なにより起業家としてスタートアップを起ち上げて成功させていますから、そのあたりの課題解決を一通り経験されていることもあって、本当に頼りになりました。長くスタートアップのど真ん中にいらっしゃるので、ご相談の機会が授業のようでした」。

ーー間近で千葉の仕事を見ていて、すごみを感じるのはどういったところでしょうか。

「いかにFMV(First Mover Advantage = 先行者優位)を取りに行くか、そのために設定する視座の高さでしょうか。投資の世界に入られてそう長いわけでもないのに、これだけの確率で投資先を成功させているというのは、やはり千葉さんが目利きと言われるゆえんみたいなものだと思います」。

「スタートアップの事業って、はじめて聞いたときは『いや、それはどうなんだろう……』と思うものばかり。最初から『これはすごい』と思えるようなものは、そうありません。しかもまだプロダクトができていないタイミングで見極めることになりますから、投資するかしないかを決めるセンスのようなものが問われます」。

「そのためには、事業そのものが成り立つかの見立てと、マーケットを間違えていないかという市場選択、そして最後までやり抜けるチームなのか、という3点セットが重要だと考えていますが、勉強して学べるのはほんの一部。やっぱり自身で起業して苦労するなかで培った人を見る目とか、マーケットの風の流れとか、その嗅ぎ分ける力が必要になってきます」。

「千葉さんが投資した先には、画像解析のニューラルポケットやロボアドバイザーによる資産運用のウェルスナビなど、本当にさまざまな種類のスタートアップがあります。事業の幅がこれほど多岐にわたっているにも関わらず、どれも成功させている。それは然るべきタイミングで“張った”から。その目利きぶりに驚かされます」。

「実は私も少しエンジェル投資をやっているんですが、これがけっこう難しい。相談に乗ると、なんか応援したくなっちゃうんですよね。断るのもつらいし、受けたら受けたで『こんなこともできないのか』なんてイライラして、精神衛生上もよくなかったり。自分が30歳くらいのころにちゃんとできてたかって言われたら、まぁできていなかったんですが(笑)。エンジェル投資って、ただ応援するだけというよりちゃんと育てる気力とか忍耐力が必要なんですよ。起業家兼エンジェル投資家みたいな人は他にもいますが、やっぱりみなさん本業が大事ですから。そのバランスはとても難しいと実感しています」。

千葉道場は“経営者の孤独”を癒す唯一無二の起業家コミュニティ

第10回目の千葉道場合宿より。前列中央が重松さんです

ーー起業家コミュニティ「千葉道場」には初期の頃から参加されているそうですね。

「鎌倉で行われた“伝説の合宿”から参加しています。千葉さんが投資した先の企業が参加するコミュニティという立て付けなので、当時はまだ10社もいなかったんじゃなかったかな。今はいろんなステージの会社がいますが、当時はみんな本当に同じステージでした。2015年当時はまだシリーズAで、トップラインもたしか数百万円くらい、社員数も10名程度でした」。

「千葉道場では投資先企業との合宿が目玉なんですが、起業家同士で学びあう環境があることにとても感謝しています。先ほどお話しした幹部採用などの組織づくりに関することや、IPOを含めたファイナンスまわりの話って、なかなか表立って相談できないんです。でも、ここで話したことは口外しないという「血判状」文化のある千葉道場では、同じような悩みを抱えた起業家同士が、それを乗り越えた先人と語り合える。そんな環境は他にはありません」。

ーー起業家同士の横のつながりが生まれるということでしょうか。

「経営者ってとても孤独な存在なんですが、それをどうしたらいいか教えてくれる人って意外といないんです。人にもよりますが、ベンチャーキャピタルの方はあまりそういうことを言いませんし、そもそも投資家やベンチャーキャピタルにも相談できないようなことだってあります。会社のナンバー2にすら相談できないことだと、本当に孤独になっちゃうんですよ。だから千葉道場が経営者同士で相談できる環境をつくってくれたのが本当にありがたくて」。

「私が相談してよかったと思えたことをひとつ例に挙げると、シリーズBの資金調達に必要な資料づくりに関して、先行してリボン型ビジネスで成功されていたLoco Partners の事例が参考になり、非常に助かりました。こういったマーケットプレイス型のビジネスでの好事例があまりなかったこともあって、千葉道場内で相談できたのはありがたかったですね」。

「現在は千葉道場も株式会社化して、専業のベンチャーキャピタリストがチームで行うという体制に移行しましたが、コミュニティを作った上でちゃんとサポートしているベンチャーキャピタルって本当に少ない。この道場は本当に稀有な起業家コミュニティだと思います」。

星をつかもうとしなければ、指先すら届かない

千葉道場の第12回目の合宿より

ーー千葉道場のビジョンは、高く掲げた視座からの逆算思考を意味する「キャッチ・ザ・スター」です。重松さんはこのビジョンをどのように捉えていますか。

「『キャッチ・ザ・スター』、つまり星をつかめということですよね。高い視座を持って、どんどん高みを目指していくという。私がよく話しているのは『健全な嫉妬』を抱くということです。山で例えるなら、まずエベレスト登頂を目指す。その高みに向かって全力で登った結果、富士山くらいの高さにたどり着いたとしても、富士山なら日本で一番高い山ですよね。最初から富士山を目指しただけではたどり着けなかったかもしれない」。

「私たちの会社も上場はしましたが、まだ時価総額は百数十億円の単位です。数千億円を叩き出す会社の創業者のエピソードなんかを聞くと、自分なんてちっぽけだなと感じるんですね。こんなところで満足しているなんて恥ずかしい、あいつには負けられない、もっと高みを目指す。そういった良い野望を体現する言葉なのかなと思っています」。

「お金って、意外と使いどころが限られていますよね。美味しいものを食べるといっても胃袋には限界があるし、遊びに使ってもいずれ限界がくる。自分の承認欲求を満たすだけならそんなにいらないんですよ。自分はせっかくチャンスをもらって可能性のある大きなマーケットで勝負できるのに、さらなる高みを目指さないのはどうなのか。何より、高みを目指したほうがおもしろいじゃないですか。それをおもしろいと思える人たちが集まっているのが、この起業家コミュニティなんだと思っています」。

時価総額を100倍にする打ち手の考え方

ーースペースマーケットではどのように「キャッチ・ザ・スター」を実践されていますか。

「日本に必要不可欠なインフラ、それが私の考えるスターです。例えばメルカリや食べログは、みなさん当たり前のように日常使いされていますよね。時価総額で年間1000億円くらいあればインフラと呼べるかと思いますので、私たちはそれを目指していくということですね」。

「では、このスターをつかむために逆算的な実践の仕方には何があるか。スペースマーケットは上場したことで、株主や機関投資家にはこれからどのように成長させていくのかを問われ続けます。当然社内のステークホルダーにも方向性を示していかなければなりません。そのために、2025年にはどうなっているかをロジカルに言葉で積み重ねていく。突然コロナウイルスのようなものがやってきたりもしますから、どうしても読めないことはありますが、登るべき山をどのように登るかを常に考えること自体は必要です」。

「時価総額が10倍、100倍になっている世界というのは、これまでの延長線で考えていてはたどり着けない境地です。マーケットを広げてみたり、金額を上げてみたり、これまでまったくアプローチしていなかった層を一気に取りに行ったりと、ゲームチェンジがどこかで必要になります。役員クラスと話しているとどうしても近視眼的になってしまうので、10倍や100倍にするには現実的にどういった打ち手があるのかを考える機会が必要なんですが、それが千葉道場だという認識ですね」。

「当社の事業は人が集まる時に利用するサービスということで、このコロナ禍は本当に厳しかったのですが、大人数で使うイベントなどの利用が減った一方で個人でのビジネス利用を増やす施策を多く打ち出しました。テレワークをするにしても自宅にスペースのない方が、集中した作業場所やテレカンの用途として借りると。こういった需要があることに関して、コロナ禍になる前は正直予想していませんでした」。

「その延長線上で、今当社では『おうちスペース』と呼んでいるんですが、自宅のように使えるスペースの提供を広げています。このように、『場所』の開発にはまだまだ余地があることがわかりましたので、スターをつかむための伸びしろを見つけていきたいと考えています」。

千葉道場が起業家コミュニティ界のFirst Mover Advantageを取る

ーー起業を目指す人は年々増えているように感じます。起業家コミュニティとして、これからの起業家に何を提供していきたいと考えますか。

「私は2006年からスタートアップにいるんですが、その頃は『大企業でうまくいかなかった人が仕方なくやってる』というイメージの業界でした。でも今は優秀な人たちが自らの意思でやってくるようになりました。スタートアップの事例やノウハウも体系化されてきたので、起業しやすくなっていることもあるんでしょう。母集団が増えれば必然的に成功事例も増えていきますし、それは喜ばしいことだと思います」。

「起業の基礎トレーニングの部分って、一定程度はインストール可能だと思うんですね。以前合宿のときにもちょうどそういった議論がありまして、『これだけは事前に学習しておけ』みたいなパッケージをつくって、千葉道場に参加する起業家に3日でインストールしてもらうプログラムがあればいいんじゃないかと。エントリー版は一般開放してもいいかもしれません。コミュニティにナレッジは溜まっていっているんですが、起業家の実例にはシビアな内容も多いので、ネットで調べても情報が出てこないことが多いんです。それを見える化して提供していくのは、こういった起業家コミュニティが率先してやっていくべきことなのかもしれませんね」。

「千葉道場の課題感としては、発足から7年ほど経つこともあり、参加する起業家のステージのばらつきが大きくなってきたことが挙げられます。千葉さんのおっしゃる『経営者の孤独』問題を解決するために全体で集まって議論するような環境は引き続き必要ですが、一方でステージごとの勉強会や座談会的なプログラムも必要なんじゃないかという話が出ています。コロナ禍もあってオンラインでやりとりすることが増えましたが、コミュニティにはオフでのイベントも重要です。オン・オフを混ぜた取り組みを今後も考えていかないといけませんね。千葉道場は起業家にとって唯一無二のコミュニティなので、『起業家コミュニティ界のFMA』を示していければと思います」。


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