見出し画像

貝殻から波の音は聞こえるのか

その昔、むかしむか〜〜し、大学生の私は60回払いの学生ローンで買ったワインレッドのトヨタ スプリンターマリノを誇らしげに乗り回し、藤井フミヤのCMよろしく当時の恋人と海に行きました。

誰もいない和歌山県白浜の砂浜で、彼女が砂浜に落ちてた貝殻を拾いおもむろに耳に当て「ねぇ、波の音が聞こえる…」と。若い2人にとっては最高のシチュエーション。しかしあろうことか音響工学を専攻していた私は間髪入れずに「それ蝸牛だからwww」と全てをぶち壊す突っ込みを入れてしまい、淡い恋も瞬く間に終わりを迎えました。

さて、多くの方が試したことのある「貝殻を耳に当てる」という行為。「海の声」とか「波のささやき」なんてロマンチックな事を言いますが、その夢を過去の私の黒歴史と共にぶち壊してやりますよ。えぇ。

そもそも貝殻から音が出ているのか

カルシウムが主成分でカチカチの貝殻に音を生成し発振する部位はどこにもありません。でも確かに「波みたいな音」はします。もちろんそこを否定するわけではありません。で、「ゴー」とか「ザー」と聞こえるあの音の正体はなんなのでしょうか。
当初、およそ海辺で耳に当てるので、侵入してきた波の音が貝殻内で反射し増幅されるのだろうと考えていました。ただ、それも一理あり、だいたい静かな波打際のロマンチックな状況でやるもんですから、結果として波の音しか聞こえないから、というものです。

実は、コップを耳に当てても同様の音がするのです。貝殻のように渦を巻いているわけではないので聞こえ方は微妙に異なりますが、「ゴー」という音が微かにしました。ぜひいまお猪口サイズのコップなどがありましたら、試してみてください。波のささやきが聞こえるはずです。

音の正体

実はこれ「自分の体液が流動する音」なのです。前述のように「それ蝸牛だから!」というツッコミは、耳の鼓膜の奥に蝸牛(かぎゅう)と呼ばれるカタツムリみたいなグルグル巻きの器官があります。この蝸牛の中は体液で満たされており、鼓膜から脳へ音の信号を伝える役割があります。その蝸牛の中にある体液が揺れる音は極めて小さいため、普段の生活では全く気になりませんが、静かな空間で貝殻を耳に押し当てると、その微かな音が耳から出て貝殻の中身に反射して戻ってきて聞こえているだけなんです。

ロマンチックじゃねぇなぁ…

でも、自分の体液の音を聞いて「海の声」というのは、エヴェンゲリオンでいうところのリリスの体液から作られたLCLで満たされたエントリープラグの中で懐かしさを感じるシンジ君みたいな感じで、逆にロマンチックなのかもしれません!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?