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「パリ13区」「カモン カモン」@早稲田松竹

高田馬場の名画座にて。


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「パリ13区」
ジャック・オディアール監督作品/2021年/フランス/105分/

パリ13区の「オランピアード」(パリ中華街の高層マンション群)は留学中になんども足をふみいれる機会がありました。いただいた試写会のハガキにうつる高層ビル群が、記憶の中の、ドリアンとマンゴーのねっとりとした界隈独特のにおいを発していました。スクリーンをみずにはおられなくなりました(試写会は行かれずでしたが)。

ちなみに、パリに住んでいる間に、パリ13区の中華街の親和性とアヤシイ違和感にすっかりやられ、論文などチョコチョコしらべていました。再開発・高層化と時を同じくして中華系、ベトナム系移民の波があいまって、複雑な成立過程をへて今にいたるようですね。

13区といっても広くて、プラス・ディタリーを中心として、北側にはビュット・オ・カイユなどの歴史地区、南西部のセーヌ川沿いの工業地帯、ミッテラン図書館のあるベルシー地区などの新文教地区があります。そのなかで、南部の中華街はあくまで一部です。

とはいえ、フランス人にとって「13区=中華街」のイメージが強いのも事実で、プラス・ディタリーからイヴリーへ南下していくにつれ、一種の異界、魔界にまよいこむようなトポスでもあります。

映画の中で、主人公が入学したパリ大学法学部はトルビアック地区(中華街隣)にありました。とくに、主人公のひとりで、ボルドーから上京したノラのように、新入生たちにとっては憧れのソルボンヌ地区の華やかさから遠く離れたハズレ感があり、ガックリ感がつたわってくるようです。

台湾系フランス人エミリーの男性観とか彼女に対するアフリカ系男性カミーユとの関係性とか、フランスにおけるアジア女性の一般的イメージってきっとこうなんだろうな、と少し複雑に思う部分もありましたが、社会学的な視点もあるのかもしれないのですかね。パリの中華街の空間的な独特さとか、面白かったです。


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「カモン カモン」C’mon C'mon
マイク・ミルズ監督作品/2021年/アメリカ/108分

https://happinet-phantom.com/cmoncmon/

佳作です。見てよかった、というより、見ないともったいないフィルムかも。

ラジオインタビュアーとしてニューヨークを拠点に全米をとびまわる中年独身男のジョニーが、妹の息子で9歳のジェシーを数日間預かることになります。ジェシーはジョニーをつれて、仕事仲間たちとともにデトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオリンズを移動し、各都市の子供たちに、「未来をどう想像するか」と問いかけていきます。

ミルズ監督の丁寧な取材・構成と息をのむようなセピアの映像美もよいですが、なんといっても。ホアキン・フェニックスら俳優陣の好演が光ります。

「パリ13区」が、独身30代の自分探しの旅だとすれば、「カモン カモン」はむしろ、家庭生活と仕事の両立に悩む40〜50代の子育て世代の物語です。いままで自由に生きてきた中年の兄妹の葛藤と挫折がそこにはあります。親の介護が残した兄妹間のしこり、伴侶の病と子育て、家庭と仕事の両立、自分自身の老い、などなど。自分のことは二の次で生活や家族が優先される場面が増え、一方で、子供にも親にも意思があって他者としてたちはだかります。

「パリ13区」世代にとって、自分の「時間」は自分のものであり、仕事であれ将来であれ、自分自身に没頭することができますし、未来はまだ未確定です。一方、子供と親世代のちょうどあいだに挟まれた「カモンカモン」世代にとって、「時間」は家族のためのものであり、若さの喪失と老いへの接近に向き合わざるをえません。世代間のつながりを通じてみえてくるのは、おのれの来し方行く末であり、そんなかれらの諦念と希望が、緩やかに後退する都市風景を背景とするシークエンスのなかで、丁寧にすくいあげられていきます。

誰もが平等に年をとるという凡庸な現実は、凡庸さゆえの重みがあります。多くのひとがむきあわざるをえない問題をすくいあげて、さりげなく丁寧に描いていています。世代的に共感できるからイイ映画、というわけではないですが、作品作りと丁寧さとか真摯さとが作中のひとびとのしごとぶりとかさなり、いい映画をみたなあ、と思わせられました。

それに。なんといっても、子役のジェシーが可愛いです。叔父からすれば少々扱いにくいエキセントリックな子供、という役回りですが。子供というのは、柔らかくてあたたかくて、やっぱり宝ものです。

9/17(土)~9/23(金)まで年内閉館が発表された飯田橋のギンレイホールで上映しているようです。

https://www.ginreihall.com/schedule/schedule_220910.html

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