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フランスのアニメ映画『ジュゼップ 戦場の画家』

今夏公開されるフランスのアニメーション映画、『ジュゼップ 戦場の画家』の試写会に行きました:

『ジュゼップ 戦場の画家』ビジュアル


8月13日(金)、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

■監督:オーレル
■脚本:ジャン=ルイ・ミレシ

2020年/フランス・スペイン・ベルギー/仏語・カタロニア語・スペイン語・英語/74分/シネマスコープ/カラー/5.1ch/原題:JOSEP/ 日本語字幕:橋本裕充

配給:ロングライド
公式サイト: longride.jp/josep/

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主人公、ジュゼップ・バルトリ(Josep Bartolí, 1910−1995)はバルセロナ(カタルーニャ)出身の画家でイラストレーターです。1930年代後半のファシズム陣営の伸張を背景に、スペイン内戦(1936-39)を逃れてフランスに亡命したバルトリは、亡命先であるフランスで強制収容所に収容されます。映画内では、捕虜であるバルトリとフランス人憲兵のセルジュが有刺鉄線をこえて、友情をはぐくみます。

ところで、唐突ですが、なぜ、本作は、実写ではなく、アニメーションなのでしょうか?監督がイラストレーターだから?そもそもなぜ、イラストレーターが映画を監督したのか?

フランスはアニメーション映画の発祥の地(のひとつ)ですが、『ファンタスマゴリ』1908を創作したエミール・コール(エミール・クールテ)が風刺画家caricaturisteであったように、アニメとジャーナリズム、批評が歴史的に密接な関係を結んできました。

ジュゼップ・バルトリもまた風刺画家です。スクリーンにうつされるバルトリのスケッチは、人間の内面の真実をえぐりとり、権力者の矛盾や愚かさをあらわにするもので、反民主主義的なフランコ政権を逃れざるをえなかった状況を浮かび上がらせます。

一方で、『ジュゼップ』内での狂言回しは、フランス人憲兵のセルジュがつとめています。セルジュ青年は、地面に絵をかきつづけるバルトリに手をさしのべて、鉛筆やスケッチブックをこっそり渡したり、みずから買って出て、行方知れずの恋人マリアを探そうとします。

このセルジュ青年。実在の人物であるかどうかは、映画をみるかぎり定かではありません。ただ、実在、架空をとわず、「自由・平等・博愛」をかかげながら、スペインから逃れてきた亡命者たちに残酷な処遇を与える自国の強制収容所に疑問を抱き、捕虜であるスペイン人に、人間として、共感をおぼえます。のちに自身がレジスタンス活動に身を投じることになるセルジュ青年は、フランスの「良心」のひそかな象徴として、映画内で重要な役割を担っています。

後年、年老いたセルジュが自分の孫に語ったように、自分自身は「絵は描けない」人間でした。ただ、セルジュにとっては、蹂躙された人々に手をさしのべて、自由や愛を守ることは市民として当然であり、また、レジスタンス運動へ参加したことがフランス市民としての矜持であったことを、回想を通じて明らかにします。こうしたセルジュの存在が、物語の救いであり、大きなモティーフとなっています。

こうした展開には、やはり、本作が映画初監督となるフランスのイラストレーター、オーレル(1980年生まれ)の存在が大きいと思われます。


オーレルは、フランスを代表する『ル・モンド』紙のイラストレーターであり、自由な言論を表明するカリカチュリストの系譜にある人物です。

スクリーンをみる観客は、新聞画家としてのオーレルの姿を、スペイン内戦中にフランスへの亡命を余儀なくされたバルトリに重ね合わせると同時に、バルトリに手を差し伸べるフランス市民の良心としてのセルジュ青年に、みずからを重ね合わせるのだと思います。

ただ、おそらくそうしたふたつの立場を、もっとも痛切に、じぶんの身に引き受けえる人物は、やはりオーレル自身以外にはなかなかないのだろうな、とも想像されます。

そうしたイラストレーターとしての意思と決意こそが、この74分のフィルムが、単なる「史実にもとづくアニメ映画」を超えた力強さを獲得させている所以だと思います。アニメーションという媒体により、自国における捕虜の強制収容や虐待、国内、植民地間の人種差別という歴史の暗部を明らかにしつつ、フランスにおける風刺画の伝統、反ファシズム、レジスタンス活動への矜持をバックボーンに、想像、創造の自由さや楽しさを伝える稀有な作品となっています。


ちなみに、ジュゼップ・バルトリはメキシコ亡命時代に出会ったフリーダ・カーロとの恋愛でも知られています。当時、ふたりの間でかわされたラブレターが、1995年にオークションに出品されたようですね。

https://www.finebooksmagazine.com/news/frida-kahlo-love-letters-sell-137000-doyle-ny

https://en.wikipedia.org/wiki/Josep_Bartol%C3%AD#cite_note-20


2020年にはバルトリの作品やスケッチのコレクションが、フランスのリヴサルト収容所記念館に寄贈されたそうです。リヴサルト収容所記念館は、フランスのスーパーアーキテクトであるルディ・リッチオッティ先生がデザインしたことでも有名ですね。




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