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Mリーグ2019ファイナルシリーズ最終日観戦記

2020年6月23日

2019年9月30日に開幕したMリーグ2019もこの日が最終日。残り2試合を残すのみとなった。

チームポイントは以下。

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4チームで争われたファイナルシリーズは、開始時点でトップだったKADOKAWAサクラナイツがよもやの10戦7ラスで大きく後退。短期決戦は本当に恐ろしい。少し歯車が噛み合わないとガタガタと音を立てて崩れていく。セミファイナルシリーズでのTEAM雷電、KONAMI麻雀格闘倶楽部もそうだった。

セガサミーフェニックスは魚谷選手がエースとしてチームを牽引し、和久津選手、茅森選手がチームを救うトップを獲得。監督の采配、それに応える選手達。レギュラーシーズンで大活躍をみせたチームの大黒柱・近藤誠一選手は苦しい結果が続いていたが、それすらも不安材料にみえないほどフェニックスは充実していた。

渋谷ABEMASは日向選手のトップ、松本選手の箱下からの魂の追い上げトップで盛り上がり、前日はエース多井選手が連闘でトップ・2着。フェニックスを射程圏にとらえている。

U-NEXT Piratesは4位スタートであったが、小林剛選手の大トップで勢いづくと、朝倉選手の大三元アガリなど復活のトップ、瑞原選手のトップもあり、一気に上位との差を詰めた。厳しい条件ではあるが、Piratesも優勝の可能性が十分に残っている。

KADOKAWAサクラナイツはかなり厳しいポイント状況となってしまったため、事実上3チームの優勝争いとなっている。フェニックスが圧倒的に有利な状況ではあるが、可能性がゼロにならないうちは何が起こるかわからない。

Mリーグには魔物が棲んでいる。

※本記事はパイレーツサポーターが執筆しております。パイレーツサポーター目線での記載が多くなる点、あらかじめご了承ください。
※思い込みによる認識違い等多々あるかもしれませんが、ご容赦ください。何かございましたらこっそりご連絡いただけると嬉しいです!

<画像引用について>
出典:
AbemaTV様「【6/23】Mリーグ2019 朝日新聞ファイナルシリーズ最終日&表彰式

1回戦

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出場選手
・セガサミーフェニックス 近藤選手
・渋谷ABEMAS 白鳥選手
・U-NEXT Pirates 石橋選手
・KADOKAWAサクラナイツ 内川選手

フェニックスとしては、この試合をABEMAS、パイレーツより上の着順で終わらせることができれば相当有利な条件で最終戦を戦える。逆にABEMASはトップかつ、フェニックスを少しでも下の着順にしたい。パイレーツはフェニックスと出来ればトップラスを決めたいところ。

東1局

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白鳥選手が25mで先制リーチ。

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ドラ3の石橋選手は前巡リーチの1発目に無筋の1mをツモ切り、ここで1mを手出し。これでイーシャンテン。この手であればリスクを負って前に出たいところ。

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白鳥選手が赤5mをツモり、メンピンツモドラ1で1300、2600点のアガリ。

「まだ、はじまったばかり!」

東2局

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親番を迎えた石橋選手。4トイツから6sがアンコになる形。ここの選択はあらかじめ考えていないと難しい。基本的にはダブ東赤ドラでマンガンを狙う構想だが、チートイツになった時用に中を残しておきたい。

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ここは6sをツモ切った。

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カン7mをチー!このあたりが石橋選手のフットワークの軽さである。ダブ東バックも辞さずの構えで仕掛け始めた。この手は愚形だらけでここから仕掛けないと間に合わないという判断。

序盤に数牌がバラバラと切られ、後から孤立役牌が出てきた場合は「数牌より役牌が必要だった手って何?役牌に頼りたかったの?」となり、役牌バックは想定の範囲となるが、そんなことは関係ない。相手に「ダブ東やドラ持ってるかもよ?大丈夫?」とプレッシャーをかけていく。

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7pをツモ切り。効率的には6s切りがよいが、もしダブ東が鳴けたときに5p待ちを強くする狙いがある。

ポンして7pを切った時点でテンパイが想定できる場合、切り出される牌のそばにトイツがあることが多い。特に2つ離れた牌。必ずしも待ちとは限らず雀頭になっていることもあるが、5pは要警戒牌となる。1つ離れた牌である6pや8pは667pや788pからリャンメンテンパイをとらなかったことになるため不自然。この場合、上家の9pにポンをかけていないため、5pトイツが読み筋に入ってしまう。それを嫌ったのではないだろうか。

相手からどう見られているかを意識して打牌選択を行っていく。このあたりが黒いデジタルと呼ばれる所以である。

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1mを鳴き、ダブ東バックでテンパイ。東でダブ東赤ドラで12000の手である。5pは役なし。
こうなったら他3者から東がこぼれることはほとんどないため、自力ツモ狙いである。まだ山にある。

「お願い、東ツモって!!」

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見事に東をツモり4000オール。大きな加点となった。

「ばっしーカッコイイーーー!!!!」

東2局1本場

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次局も石橋選手はフットワーク軽く、役牌の白から仕掛けていく。今度は前局と違って現状1500点しかみえない。Mリーガーの中で一番打点のレンジが広い打ち手ではないだろうか。1500点の鳴きに毎回対応するのは損だし、12000点の鳴きに対応しないのはリスク。相手からすると厄介な打ち手である。

相手の打牌に制限をかけることができるというメリットはあるが、相手に本手が入った時に押し返されるというデメリットがある。世の中よいことばかりではない。

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2m3mという並びシャンポンでテンパイし、白鳥選手をとらえた。1500は1800点。

東2局2本場

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カン8sで役なしテンパイを入れていた近藤選手。内川選手のリーチに対し、現物の9sを打った後、無筋の4pを勝負。1pを引けばイッツーに手替わる形。

2pと5pが3枚みえていてワンチャンスではあったが、ここは強気モードか。

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2sも勝負し、そのまま8sをツモ。
ツモ赤、500、1000は700、1200のアガリ。
このまま石橋選手に親番を続けられるのは都合が悪いため、苦しい形であったが勝負した。

東3局

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石橋選手、カン7mで即リーチ!よい手替わりが少なく先制しているこの状況であればリーチでよさそうだが、トップ目で少し置きにいく選択をしてもおかしくない状況で、しっかりリーチを打っていった。

こういう場での戦い方を熟知しているキング石橋選手は本当に頼もしい。

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7mをツモり、メンタンツモで1300、2600のアガリ。

「ばっしー、ナイスリーチ!!!」

東4局

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内川選手の親番。サクラナイツとしてはこの親番で少しでも意地をみせたいところ。發から仕掛けてホンイツに向かっていく。

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残りの牌山が少なくなっていくが、まだイーシャンテン。

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待てども待てども有効牌を引かず、永遠にイーシャンテンから進まない・・・。

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流局までにテンパイすることはなかった・・・。
サクラナイツはファイナルシリーズ本当に苦しい展開が続く・・・。

南1局

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石橋選手は字牌を3連打、目いっぱいに広げていく。以前「配牌は16枚あると思え」と自身の著書で書いていた石橋選手。16枚とは配牌+3巡のツモのことである。安全牌持ちたがりで手狭に受けがちな方は参考にしていただきたい。

実際には南場に入りリードをしている局面なので、多少安全牌を残しておく選択はありそうだ。この局はライバルで親番の近藤選手には間違っても振り込みたくない場面。近藤選手の捨牌に6p8pが並んでいることも目いっぱいに構えることができた要因ではないだろうか。

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白鳥選手がペン7mでドラ待ちでリーチ。

白鳥選手としてもここはトップが欲しい。

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リーチの一発目にイーシャンテンから生牌の白をツモ切った石橋選手。手牌に白があり、実質トイツ落としであればそれほど放銃率は高くないという判断か。それでも放銃する可能性はゼロではない牌。

7pを引き、2枚目の白を切って69mのピンフテンパイ。

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これに飛び込んだのが近藤選手。
9mに一度手がかかって、一度離したが止まらなかった。

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ピンフ赤ドラ3900は4200点のアガリ。近藤選手をラス目に突き落とす大きなアガリとなった。

近藤選手はレギュラーシーズンで連続無放銃記録を作るなど、鉄壁の要塞を誇ったが、ファイナルでは苦境が続いている。

南2局

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3s7sの役なしシャンポンでテンパイをしていた白鳥選手。ピンフに手替わって69s待ちリーチ!

白鳥選手は最低でも2着をとりたいところ。近藤選手より着順が下でこの試合を終えると最終戦かなり厳しい条件となってしまう。

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このリーチは実らず流局。

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近藤選手と差が縮まらず、1000点の失点で自身の親落ち成功。石橋選手の目論見通りに進んでいる。思わず口元がほころんでしまう石橋選手。

南3局1本場

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石橋選手が47p待ちでヤミテン。

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親番の白鳥選手が14m待ちのノベタンでリーチ!タンヤオやピンフ、赤、ドラ引きなど様々なうれしい手替わりがある状況だったが、猶予なしという判断か。

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このリーチを受けた近藤選手。白鳥選手の現物7pを打つ。

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これが石橋選手につかまってしまう。ピンフ赤ドラ3900は4200点のアガリ。

パイレーツファンとしては当然うれしかったのだが、近藤選手がここまで簡単に振り込んでしまう展開は想像しておらず、若干心が痛む。

「ばっしー、トップいける!!!」

南4局

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親の内川選手がリーチ一発ドラ1を近藤選手から打ち取る。7700点。
6巡目の5s打ちがきいており、つかまってしまった。

内川選手も厳しい状況ではあるが、応援してくれるサポーターのために、何とかトップを持ち帰ろうとこの親番は必死である。

それにしても近藤選手は苦しい展開になってしまった・・・。

南4局1本場

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石橋選手、あっさりチートイツテンパイ。

パイレーツにとってはこのままの順位で終わると最高の並びである。石橋選手からすると内川選手から2000点までアガることが可能。チートイツのみは1600点。ツモならば800、1600点。石橋選手にとって絶好の手が入った。

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最後の親番にかける内川選手。

サクラナイツはこの親番を落としてしまえば、いくらもう1試合残っているとはいえ事実上優勝は難しい状況となる。チームメイトのため、スタッフのため、ファンのために懸命に戦い続ける内川選手。

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南待ちに変える石橋選手。

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すぐに内川選手が南をつかんでゲームセット。

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石橋選手、値千金のトップ。白鳥選手は2着と400点差の3着。近藤選手は痛恨の大きなラスを引いてしまった。

誰がこんな展開を予想しただろうか。

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誠一さん・・・。

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石橋選手のガッツポーズが印象的だった。
動きがありすぎて、スクショ何度チャレンジしてもボケた。

「ばっしー、かっこよすぎる・・・。さすがキング!!!」

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1戦目が終わり、なんとパイレーツがフェニックスを交わし首位!

しかしその差はわずか8ポイント。3位ABEMASもパイレーツとの差はわずか55.6ポイント。パイレーツとフェニックスはほぼ着順勝負。ABEMASも条件はつくがトップをとれば優勝が手に届くところにつけている。

2回戦

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KADOKAWAサクラナイツ 沢崎選手

レギュラーシーズン破竹の勢いでチームを牽引した沢崎選手。
最終日の最終試合にこの選手が出てきた意味をしっかり考えたい。

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渋谷ABEMAS 多井選手。

ABEMASが誇る絶対的エース。優勝がかかったこの戦いに笑顔で登場してきた。スター軍団の大スター。この男の戦いにも注目である。

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セガサミーフェニックス 魚谷選手

相当気合いが入っている。昨年、今年のレギュラーシーズン序盤、苦しい時に近藤選手に助けられた。今度は私が助ける番。1年の時を経て、フェニックスのエースとして誰もが認める存在となった。そしてこの最終試合を託された。実力を疑うものは誰もいないだろう。

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U-NEXT Pirates 小林選手

1人だけ別の試合に参加しているかのように自然体で入場。いつも変わらない姿。その姿にチームメイトやサポーターは何度も救われてきた。

東1局

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多井選手が自風の南を鳴いた後、カン4mを引いてあっさり14sでテンパイ。

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沢崎選手の4sをとらえ、ロン・・・

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ロンせず見逃し、すぐに魚谷選手の1sをとらえて、南赤赤で3900点のアガリ。

ABEMASとしては優勝するためにトップをとったうえで、パイレーツとフェニックスに対し、素点もしくは順位で差をつける必要がある。そのためサクラナイツを沈めることは自身の首を絞めることになるのだ。

これが決勝だ。最後の聖戦だ。高ぶってきた。

東2局

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魚谷選手がじっくりと手を作り上げ、25m待ちでリーチ。

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親番の多井選手はイーシャンテンをキープしつつも、かなり受け入れを狭める9m打ち。巡目が深いことと、万が一にも魚谷選手に放銃をしてしまえば、それは優勝から大きく遠ざかることになってしまうため、ギリギリの選択。

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魚谷選手が2mをツモり、メンタンピンツモで1300、2600のアガリ。3900の放銃をあっさり回収した。

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親番の魚谷選手。なんと7巡目でダブ東三暗刻ドラ1の12000点のテンパイ。ツモれば6000オールという超ド級のリャンメンテンパイが入る。

「やばいやばいやばい。ごーさんつかまないで・・・」

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同巡、沢崎選手がドラを重ね、西単騎でリーチ!

この日の沢崎選手は本当に自然体だった。特定の相手に有利にも不利にもならないように本当に自然に。先手を取れたらリーチするし、後手を踏めば無理せずベタオリ。レギュラーシーズンでみせたマムシとは違う、ものすごく美しいマムシだった。

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沢崎選手のリーチを受けた多井選手。沢崎選手の異様な捨牌からトイツ手などの特殊手を警戒し、字牌を打たずに前巡に切られた4pを打った。沢崎選手相手に無理に戦う必要はない。将来の他家からの攻撃に対して、危険度を考慮したうえでの4p先打ち。

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なんと多井選手、魚谷選手に痛恨のダブ東、三暗刻、ドラ1の12000点放銃。
これは厳しい・・・。

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この瞬間に4p待ちで12000のヤミテンが入っているのは相当レアケースである。まさかこの牌で12000点を失うことになるとは思わなかっただろう。誰も多井選手を責めることはできない。

魚谷選手が少しでもリーチに対して危険な牌を切ったのであればすぐにたかはるセンサーが反応し、簡単に4pが打ち出されることはなかったはずである。

勝利の女神は魚谷選手を応援しているのか?

「ごーさん、まだまだこれから!!!」

東3局1本場

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ここまで静かだった小林選手。カン5pのテンパイはとらず。

一刻も早く魚谷選手の親を終わらせたいと思えば、勝負がけでカン5pでリーチしてもおかしくないと思っていたが、ここはテンパイ外しを選択した。
多井選手と魚谷選手の捨牌にスピード感があり、1枚切れのカン5p待ちで戦うには厳しいと考えたか。この大一番でも冷静である。

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すると同巡、多井選手から14s待ちでリーチが入る。小林選手がもしリーチをかけていたら、ものすごく寒い状況になっていた。

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5mが早く切れている筋の7m、1枚切れの東を押し、6sを引いてテンパイ。無筋の9sは厳しいか?

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押した。
7sワンチャンス8sツーチャンスで78sのリャンメンターツが入っている可能性が普段より低く、テンパイならば9s押しくらいは見合うという判断か。多井選手が5m4mとリャンメンターツを落としているため、9sのシャンポン待ちや単騎待ちに当たる可能性は低そう。しかしあくまでも低そうというだけで当たらない保証はまったくない。役なしの仮テンパイで9sを押したとして、アガリ切れるかどうかはかなり微妙である。

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なんと6pツモ!ツモ赤ドラ1000、2000は1100、2100のアガリ。
魚谷選手の親を流すことに成功した。

「おおおお!すごい!!!」

東4局

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配牌9種9牌と苦しくみえた小林選手の手がするすると伸び、36p待ちで先制リーチ!
赤とドラがあり、12000点のテンパイである。これはやったか?

「お願い、いて!」←どこかで見たセリフである

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ツモれず流局。1人テンパイ。

勝利の女神は簡単には微笑んでくれない。もっと勝負を楽しもうよ。ドキドキしようよと言われている気がした。

東4局1本場

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多井選手、ドラ4mと中のシャンポン待ちでリーチ!
どちらをツモっても3000、6000である。中は山にはないが、ドラの4mは山に2枚。ドキドキである。

「うわー4mツモりそう…。親かぶりとかやってないよ。やめて・・・」

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リーチがかかった瞬間に、攻めたい手だった魚谷選手から中が出る可能性もあったが、魚谷選手は我慢を選択した。ここはまだ勝負所じゃない。

流局。多井選手の1人テンパイ。
多井選手も山にありそうな感覚はあまりなかったかもしれない。
パイレーツとしては事なきを得た。

小林選手は親番が落ちてしまったが、南場で十分に追いつける点差である。

南1局2本場

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沢崎選手に最後の親番が回ってきた。

サクラナイツはここが正真正銘ラストチャンス。この親番が終わればおそらく沢崎選手はゲームセットまで空気に徹することになるだろう。

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魚谷選手が1巡目に8mをポン、4p7sのシャンポン待ちでテンパイ。タンヤオのみ1000点の手であるが、供託と本場を含めると3600点のアガリになる。これをアガリきれれば相当有利な展開となる。

とはいえ通常は南場のトップ目で守備力皆無の1000点仕掛けをすることはリターンよりもリスクのほうが大きい。魚谷選手はその印象を逆手にとろうと考えたのではないだろうか。「私、勝負手ですよ。オリてくださいね!」というメッセージがこめられている気がした。

ドラの南がまだ顔を出していないため、南を持っていないもしくは1枚しか持っていない相手からは「赤2枚くらい持ってる?それかドラの南トイツ?」と疑心暗鬼にさせる。

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ドラの南単騎でチートイツをテンパイしていた小林選手。勝負に決めに行くためにドラの南単騎でリーチの選択もあったと思うが、ヤミテンにしていた。もしかすると魚谷さんの南トイツの可能性も考えていたのかもしれない。ここで赤と入れ替えて出アガリ8000点の手に。これをアガリきれれば大きい。

「南どこー?」

高打点を演出していた魚谷選手の影響を受けず、このテンパイを組めたのは大きい。

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魚谷選手はドラの南をノータイムでツモ切った。

終盤で生牌の役牌ドラ。単体でみると相当危険度の高い牌である。この時魚谷選手は親の沢崎選手と多井選手が自分の仕掛けにより受けに回っていることを感じ、おそらく南を持っていないか、1枚抱え込んでいると考えたのかもしれない。読みにくいのは下家の小林選手だが、ここまで特に強い打牌はない。この瞬間、南ポンはありえても放銃する可能性はそこまで高くないと考えていたのではないだろうか。

そしてノータイムでドラの南を打ち切ったのは、相手から見え方である。とても愚形1000点だとは誰も思わないだろう。南を持ってきたらどうするかはあらかじめ考えていて、それを打ち切った。

決勝バランス。
タイトル戦の決勝など大きな対局では、思いもよらないことが起きる。攻めていたら勝てたのに、置きにいった選択をしたがために、逆転負けをすることがある。魚谷選手は著書「麻雀が強くなるための心と技術」で「勝負所の見極め」について語っている。

おそらく魚谷選手はこの局を勝負所と踏んで、自身のアガリにかけたのではないだろうか。

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チートイ赤ドラドラ、8000は8600。小林選手の大物手が魚谷選手を直撃。大きいアガリをもぎとった。これで一気に逆転しトップ目に。

「ごーさん!!!!!」←もはや語彙力を失っている。語彙力ノーテン。

魚谷選手は何を思ったか。

南2局

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多井選手最後の親番。優勝をするためには自身がトップ目になり、2着が小林選手もしくは魚谷選手だった場合、素点面で制約がつく。

多井選手トップ、小林選手2着の場合は、素点で15,700点差必要。
多井選手トップ、魚谷選手2着の場合は、素点で7,700点差必要。
多井選手トップ、沢崎選手2着の場合は、そのまま優勝である。
※手元計算です。違ったらごめんなさい!ざっくりこんな感じってことで。

それをふまえてのこの並び・・・。多井選手としてはこの親で連荘しないとかなり厳しい状況に追い込まれてしまう。

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そんな多井選手の苦しい胸の内を知ってか知らずか、小林選手からカン8pでリーチ!5巡目に5pを切っていて出アガリしやすくなっているとはいえ、1枚切れのカン8pリーチはリスクも伴う。

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この巡目で苦しい形の多井選手は自風の東を仕掛けて、8pを打ってしまう。

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リーチ赤、2600点のアガリ。

このアガリによってABEMASの優勝はかなり厳しい条件となり、事実上パイレーツとフェニックスの一騎打ちとなった。

南3局

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この親番でなんとかしたい魚谷選手。7巡目で仕掛けのきかない3シャンテン。相当苦しい・・・。

7巡目といえばそろそろ他家からリーチが入ってもおかしくない巡目である。このまま手を進めると相手のアガリが発生したり、最悪流局になってもテンパイを取れない可能性もある。

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魚谷選手も間に合わないと踏んで、8巡目に役なしで9mをポンしたが、その後も一向に手が進まずに、捨牌3段目に入ってもまだ2シャンテン。テンパイすらあやしくなってきた。

9mポンはケイテン&ブラフがメインで、途中で役牌が重なったり、トイトイになれば最高という形。

おそらくレギュラーシーズンであればこの手で無理にあがくことはしなかったはずである。しかしここはもう優勝を狙うために苦しい仕掛けをせざろうを得なかった。

それほど魚谷選手は追い詰められていた。

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思わず顔を抑える魚谷選手。苦悩が画面の奥からも伝わってくる。

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上家の多井選手は魚谷選手にアシストをして、親番を続けてもらうという選択もできるが、ここで小林選手とテンパイノーテンで差が開いてしまうと、南4局の役満ツモだけでは届かなくなってしまう難しい状況だった。

この点は小林選手がTwitterで考察を述べている。

この時点で小林選手と多井選手の差は実質46000点ほど。南4局で役満をツモると32000点+小林選手の親かぶり16000点で48000点。テンパイノーテンで差が開くと49000点となるため、連荘後の世界で1アガリなど小林選手との差を詰める必要が出てくる。

試合をみているときはそこまで計算できていなかった・・・。多井選手はもちろんそこまで頭に入れていたはずである。

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残りツモこれを入れて3回というところでようやく1シャンテン。テンパイとれるか?

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自身のテンパイを考えて、前巡9pを打ち1シャンテンで粘る多井選手。

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(お願い、鳴ける牌出てきて・・・)

この一連の表情や仕草をノーテンアピールといって批判する論調もあったが、このレベルの戦い、特に多井選手であれば、おそらく表情を見ずともノーテンであることを、間で感じ取っていたのではないだろうか。魚谷選手は決してわざとやっていたわけではないと思う。

これだけプレッシャーのかかる戦いの中で、まったく感情を出さずに戦うことができる選手が一体どのくらいいるのだろうか。小林選手は別として。滝沢選手も出さないか。

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多井選手としては魚谷選手が鳴けそうな牌を出すこともできなくはなかった。しかしそれをしなかった。前述のとおり、魚谷選手の連荘が必ずしも得にならないと考えたのではないだろうか。

魚谷選手、小林選手のノーテンに賭け、オーラスの役満ツモにかけたのではと思っている。真意はわからない。

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全員ノーテン。

麻雀は時として残酷なものである。
魚谷選手の最後の親番が終わった。

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いよいよ、最後の局。

フェニックス魚谷選手はハネマンツモもしくは小林選手からマンガン直撃で優勝
ABEMAS多井選手は役満ツモで優勝
パイレーツ小林選手は上記以外のアガリか、流局時にノーテンで牌を伏せれば優勝である。

パイレーツ圧倒的有利。しかしそう思えていたのはホンの一瞬だった。

南4局

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小林選手は無理にアガリにいく必要がなく、魚谷選手のハネツモやマンガン直撃を警戒をしたい場面。アガるとしたら、魚谷選手から攻めが入ったときに無理なくかわせそうな場面か、マンガン以上の大物手か、よほどのことがない限り、流局ノーテンで終わらせたい局である。

魚谷選手は確実にハネマンツモを狙ってくる。多井選手は役満のチャンスがあれば狙うと思うが、基本的にはこの一騎打ちを見守る選択をするのではないだろうか。沢崎選手も同様である。

となれば魚谷選手がアガるか、小林選手がノーテンで終わらせるかしかない。

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魚谷選手はなんと配牌で南がアンコ。パイレーツサポーターとして嫌な予感がする・・・。

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2巡目にツモった打点の種「發」を重ねる魚谷選手。

「え、これやばくない??」
自分は幾度となく、オーラスで大逆転の手をアガってきた。感覚的にわかる。この手はツモり三暗刻になる・・・。

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小林選手はいちおう手ガタチを維持しつつも、将来魚谷選手に危険になりそうな牌を処理していく。

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あっという間にツモリ三暗刻のイーシャンテン。

「・・・・・」

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魚谷選手、わずか6巡でテンパイ。リーヅモ三暗刻南ドラ1でハネマンツモ条件クリアである。小林選手からの出アガリでも發であればマンガン直撃で条件クリア。2pだと裏1枚が条件となる。

「(もうすでに言葉を失っている)」

パイレーツサポーターとして祈ることしかできなかった。おそらくフェニックスサポーターも同じであっただろう。

泣いても笑ってもこれが最後。パイレーツかフェニックスかパイレーツかフェニックスか。

バブルかエアかバブルかエアか(競馬ネタ1)

河内の夢か、豊の意地か(競馬ネタ2)

競馬ファン以外の方、ごめんなさい。

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ここは当然リーチの局面なのだが、じっくりと時間をかける魚谷選手。

とても通常の精神状態ではなかっただろう。チームメイト、スタッフ、サポーター、家族、友人、知人すべての想いを背負っている。この一打ですべてが決まるのだ。

私、やりきった。

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リーチ。

いつも明瞭な発声をする魚谷選手だが、この時ばかりは消え入るような声を絞り出してやっとの想いでリーチをかけたように聞こえた。

もうこうなったらツモるか、それ以外かである。

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小林選手の手牌をみたときハッとした。東を打った後の安全牌が1枚もないのだ。

決して魚谷選手をなめていたわけではなく、できれば魚谷選手の安全牌を残したかった。しかしツモが意地悪で1枚も引くことができなかったのである。唯一安全な「東」を早くも消費した。

変則手がありそうだから字牌は気持ち悪い、いったん切り順的に7pだろうか・・・。

ハネマンツモや出アガリマンガンを手軽に満たせる手。それはチートイツである。それゆえ待ち頃の字牌や端牌は切りにくい。赤1枚持った状態での赤5狙いもなくはない。

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こんな手詰まりを起こす小林選手を私は知らない。

当たる可能性が低そうなのが1枚切れの7p。7pが絡む手役といえば789の三色やチャンタだが、8pがワンチャンス。トイトイで7pに当たる可能性もあり、絶対ではない。

本当に苦しい・・・。

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ここは7p切り。

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安全牌が増えない・・・。

パッと見は5pも通りそうだが、赤5p持ちのチートイツやトイトイの可能性もある。それよりは2枚持っている中のほうがマシという判断で中切り。いったん次巡まではしのげるが、危険な状態が続く。

「お願い・・・安全牌増えて・・・」

魚谷選手にツモられたのならまだ諦めがつく。しかしここで放銃して終わってほしくない。そう思っていた。

本当に生きた心地がしない。

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この試合の助演男優賞は沢崎選手である。最後の親番が落ちてからはほとんど局面に影響を与えることがなく、誰にも有利・不利が起きないように手を進めている。雀力がよほど高くないと出来ない仕事だ。

美しい散り際である。

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2枚目の中を打った後、5pと6sが通った。

この1枚の6sがとてつもなく大きかった。6sと發の積まれ方が逆だったら魚谷選手のツモアガリで決着していたのはもちろんだが、これが6sではなく安全牌が増えない牌だったら・・・。

小林選手はほぼ發を打ち、魚谷選手のアガリとなっていたはずである。絶体絶命、崖っぷちの状況だった。

たった1巡、1枚の差で明暗が大きく分かれてしまう。
麻雀は時として残酷だ。それゆえ面白い。そこにドラマが生まれるのだ。

この後9mが通り、小林選手に一気に風が吹き始める。

それでもなお、魚谷選手がツモりそうな気がしてならなかった。

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2p。これが魚谷選手の最後のアガリ牌だった。
事実上パイレーツの優勝が決定的となった瞬間である。

「やった・・・やったんだ・・・・」

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魚谷選手の最後のツモが終わる。目を閉じすべてを受け入れた表情で1回2回と頷く。

今、私はこの観戦記を書きながら泣いている。スクショをとったときもこの魚谷選手の表情を見た時、涙ぐんだ。

レギュラーシーズンのパイレーツの最終日の時に、友人に「何で泣かないの?」と言われた。別の友人に「鳴くことしかできない人だから」と言われた。違うよ。すべてが終わったら泣こうと思ってたんだ。

ちゃんと泣いたよ。試合当日も終わった後泣いたよ。みんながいる前だったからさ。大泣きはしなかったけど、ちゃんと泣いたよ。

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試合終了。U-NEXT Pirates優勝が決まった。

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笑みがこぼれる小林選手。シーズン中は試合中に絶対見せなかった笑顔。

ロボが人間に戻れた瞬間である。

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多井選手と小林選手の握手。

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駆け寄るチームメイト。ぴんさんもあきなまんも泣いている。ばっしーは笑ってる。ごーさんもうれしそうだ。

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木下監督はこの日第一子誕生。ダブルでおめでたい日となった。

こんな筋書き誰が用意したんだよ。泣いてまうやろ。

セミファイナル、ファイナルは選手の活躍はもちろんだが、木下監督の選手起用がお見事だったとしか言いようがない。それに応えたパイレーツの選手もすごいの一言。

フェニックスの選手起用や選手の奮闘もすごかったし、ABEMASも決して何かが劣っていたわけではない。サクラナイツは終始厳しいファイナルの戦いとなってしまったが、あれだけずっと配牌やツモがきかないとどうにもならない。

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このMリーグ期間、本当にいろいろなことがあった。

Mリーグ開幕前、友人とパイレーツの優勝を神社にお参りに行った。
公式PV、社内PVも参加させてもらった。ミニPVにもお邪魔した。
気軽に話したり、麻雀を打ったりできる新しい仲間がたくさんできた。パイレーツファンだけではなく全チームのファンの方に仲良くしていただいた。

Mリーグありがとう。パイレーツありがとう。瑞原さんありがとう。笑
すべてのMリーグファン、麻雀好きに感謝!

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パイレーツポーズ。最後まで揃うことはなかった。
パイレーツらしい。笑

優勝おめでとう!!!

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パイレーツの航海はこれにていったん終了。また会う日まで。

おしまい

SPECIAL THANKS

自分と同じくMリーグ2019ファイナルシリーズ最終日の光景を描いたnoteを2作ご紹介。
いたずらな伝説をつんで花束にして(ひだまり)
夢中で生きていられた ありがとう(うー)
両方とも愛が溢れ出ているnoteです。何度この2人の熱いnoteに感化されてきたか。

そして東京・神田にあるステキ空間をご紹介。
大衆酒場なんしゅう家
居酒屋で沖縄料理を中心にとてもおいしいのですが、このお店のウリは麻雀放送をテレビで流していること。Mリーグの観戦もこのお店で行うことができて、自分も何度かお邪魔させていただきました。日曜・祝日はお休みなのでご注意を。

みなさま、Mリーグ2020でお会いしましょう。

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