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[PROJECT 2022] わたしが訳した本:Q&A(矢能千秋編)

 2022年4月23日、日本翻訳者協会(JAT)主催「GLOBAL PROJECT 2022〜キャリアの初めから知っておきたかったこと〜」が開催されました。本記事は、同イベントで行われたパネルディスカッション「わたしが訳した本」における質問への矢能千秋の回答をまとめたものです。当日は時間の関係で割愛した部分があるため、一部加筆修正してあります。

矢能千秋
 レッドランズ大学社会人類学部卒、英日・日英翻訳者。共訳書『世界のミツバチ・ハナバチ百科図鑑』ノア・ウィルソン=リッチ著(河出書房新社)、訳書『きみがまだ知らないティラノサウルス』『きみがまだしらないトリケラトプス』『きみがまだ知らないステゴサウルス』ベン・ギャロッド著(早川書房)

Q1:子育てが落ち着いて、仕事のペースまたはスタイルが変わったタイミングはありましたか? どのように変化しましたか?
 開業して21年が経ちました。最初の10年は子育て期。次の10年は子離れ期。これからの10年は、また自分中心の生活に戻る第3フェーズです。10年一区切りと考えています。
 わたしはSNSを始めたのが2011年で、長男が小4(10歳)のときでした。2001年の開業から10年くらいはSNSもやらず、同業者のセミナーに出ることもなく、当時は月刊誌の「通訳翻訳ジャーナル」を読むくらいで、家で翻訳をするかたわら、かなり子ども中心の生活を送っていました。2005年に日本翻訳者協会(JAT)に入りましたが、イベントに参加するわけでもなく、いわゆるROM専門(Read Only Member)でした。積極的に同業者と交流するようになったのは、2011年、東日本大震災の後です。ちょうど長男が10歳で、そろそろ子離れの準備と思い、それからの10年はかなり積極的に外に出るようにしました。とはいえ、高校受験、大学受験(2年間)の期間は少しペースを落としました。長男が大学に入学した後は、コロナ禍で遠隔授業が続きました。それもあって20歳を過ぎても大学生という感覚があまりなく、21歳になって最近ようやく落ち着いてきました。子ども中心の生活から、自分中心の生活へ戻しています。その1つの動きが、出版翻訳の仕事を増やすことで、向こう10年間の目標でもあります。今回、日本翻訳者協会(JAT)での出版翻訳分科会(JATBOOK)を立ち上げたのは、この目標を踏まえた行動の一環です。
 やっと子育てが一段落したところですが、「育児が終わると介護が始まる」と言われています。わたしもそうなる可能性がありますが、次のライフステージで、ご縁がある本を訳したいです。

Q2:実務翻訳から出版翻訳への転換を目指したとのことですが、そのきっかけは何でしたか?
 実務翻訳者になって10年をちょっと過ぎた2013年のころでした。次の10年の柱を考えていたときに、出版翻訳との二足の草鞋をしている先輩方が羨ましくて、自分もやりたいと思ったのがきっかけです。振り返ってみると、同業の人が「羨ましい」という気持ちが原動力になってきたと思います。

Q3:理由になる読書体験があればお聞きしたいです。
 これが理由になったという読書体験は特にないのですが、講座に通うようになってから講師である方の訳書を読むようにしています。コロナ禍では、ミステリを読んで読書会に参加する機会を多く持つようにしていました。最近はヤングアダルト・児童書を読んでいて、読んだ本の感想を書いて共有しています。

Q4:最初から訳してみたいジャンルはありましたか?
 訳書の話が来る前から訳してみたかった、というジャンルは特にありませんでした。導かれるままに現在のところへ来たと思っています。1冊目は『世界のミツバチ・ハナバチ百科図鑑』であり、「図鑑ができるなら」と別の出版社(三省堂)から『科学大図鑑』の翻訳協力の話をいただきました。その先に恐竜の児童書『きみがまだ知らない』シリーズ、そしていまは、料理関係の実用書の刊行を待っているところです。

Q5:将来的に訳したい本のジャンルやテーマがあれば、教えてください。
 縁があれば何でも!
 謎解きが好きという性格と、大学の専門が社会学であったことを踏まえ、フィクション、ノンフィクション問わず、社会問題を扱ったヤングアダルト・児童書を訳したいです。

Q6:最初の1冊目がなかなか出ません。最初の1冊目はどのように出せましたか。
 ノンフィクションの訳書を出していた先輩方のつてで、鉄道図鑑のゲラ読みをさせてもらったのがきっかけで、その編集者さんから1冊目『世界のミツバチ・ハナバチ百科図鑑』を共訳する話をいただきました。

Q7:持ち込みが成功したことはありますか?
 鉄道の本を持ち込んだことがあります。その本の企画は通りませんでしたが、のちに同じ出版社から『科学大図鑑』の翻訳協力のお話をいただきました。

Q8:コンテストやコンクールに応募したことはありますか?
 アメリア、トランネットなど、2021年はかなりのコンクールに応募しました。翻訳学校が母体である「インターカレッジ札幌」のコンクールで、一次審査に通ったことがあります。これは自信になりました。一次審査、二次審査を通して、有名作家の小説を3章分訳しました。この経験は、自分にできることを可視化、証明するのがよいのだと教えてくれました。

Q9:訳文を磨くためにやっていることを教えてください。
 現在、ヤングアダルト・児童書の勉強会に参加しています。原書を読み、訳し、先生の訳と比較する、という流れです。
 加えて、自分が訳したい本や勉強会で扱うジャンルの本を読むようにしています。具体的には、ヤングアダルト・児童書、ミステリ、文学などです。
 ジャンルについて、現時点(2022年4月)ではヤングアダルト・児童書の勉強会、文学の講座に参加していますが、最終的にはヤングアダルト・児童書に落ち着くように思います。

Q10:隣の芝生が青く見えるときは何をしますか。
 SNSを閉じて、本を読むようにしています。あとは、脇目も振らずひたすら翻訳します。原文と訳文だけに集中します。そして、お風呂に入って眠り、また次の日から頑張ります。

JAT出版翻訳分科会 (JATBOOK)】
 年3回のオンライン講座、年2回のネットワーキングイベントを予定しています。第1回のウェビナーでは井口耕二さんの話を伺いました(アーカイブ)。
 
委員長 矢能千秋きみがまだ知らないティラノサウルス』(早川書房)
副委員長 月沢李歌子『14歳から考えたい アメリカの奴隷制度』(すばる舎)
委員 関根マイク『通訳というおしごと』(アルク)
委員 中澤甘菜ヤマ・ニヤマ ヨガの10の教え』(ガイアブックス)
委員 玉川千絵子『ブラック・クランズマン』(共訳、パルコ)
委員 岩田香(翻訳者・通訳者)
委員 山本真麻天才はしつこい 突き抜けた成果を生み出す80の思考』(CCCメディアハウス)


 


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