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自然派ワインの代名詞フィリップパカレ来日セミナー

DRCの醸造長を務めたプリューレロックと共に90年代ワインを作っていたことで知られるパカレは今なおブルゴーニュワインのトップ生産者として活躍を続けています。2019年の11月に開催された来日セミナーの様子をここに文字起こしておきます。
フィロソフィー、栽培、醸造、多岐に渡って熱く語ってくれた。

歴史1978年から叔父のマルセルラピエールと一緒に過ごしていた ヴァンナチュールを作ることは自然の法則を使って化学物質を使わずワインをつくりはじ めることだ 叔父の影響もあり微生物学、醸造学を学校で勉強した。その時にジュールショーヴェと出会 った。彼は自然に醸造をすることを研究していた 当時徴兵制があったが、兵士の訓練を受けるのではなく、公的な機関で有機栽培を指導する 団体のナチュールプログレムに入ることにした。そこで北ローヌで21か月勤務した 北ローヌではティエリーアルマン、エルヴェスオーと出会い、さらにシラーに出会うことが できた。
ナチュールエプログレム期間中にアンリフレデリックロック(元 DRC 共同オーナー)に出 会い、それがきっかけで10年間ロックと一緒にワイン造りをすることになった。 1980年代はブルゴーニュのグランクリュで有機栽培をする人はほとんといなかったの とても貴重な経験になった 2001年に独立。コートドールの畑は高すぎて買えない(フェルマージュでも)ので、ミ クロネゴシアン(ネゴシアンと栽培の2つにわけて会社をつくってどちらも経営すること によって固定資産税などの税金対策ができる)という新しいビジネススタイルをはじめる ブルゴーニュでワイン造りをするうえで土地や相続税の高騰に対応しなくてはならなかっ たため、このようなビジネススタイルになった。 90年代ならまだいい畑も1ヘクタールあたり1億円近くで買えたのでなんとか買えたか もしれないが、今はできない ブルゴーニュだけでなくローヌやボージョレなど広範囲に植えることによって収量のリス クを減らす。 2006年にボーヌの駅前に自分のカーヴを購入し家族経営でワインを作り始めた 今では年間7万本弱を12人のメンバー(人数が多い)で作業している自然なワインをつくるにはテロワールは個性だ アインシュタインの相対性理論を大事にしている Ec=1/2mv2 3つの重要なことがある
1樹 高密植(木と木の競合が激しくなり根が深くなるので土地の情報を吸収する)
2醸造 発酵によって土地の情報がエネルギーとともにワインの中に入る
3熟成 時間をかけて土地の情報をワインの個性に育てる

ビオディナミは3年間やってみたが腑に落ちないところがあり自分はやらない。ナチュー ルプログラムのころにレポートでも書いたが、有機栽培をすれば美味しいものができると いう考え方はよくない。有機栽培は自然にするためなのに形にとらわれて自然でなくなっ てしまう。形を決めてしまうのはよくない。 肥沃な畑にする、古い樹齢は根が深いので情報が多くなる 収穫は50人近くのチーム。泊るところや食事でいいものを出すと作業のクオリティが上 がる
実際の作業は軍隊のような選果だが 畑の中で選果するので(ワイナリーではしない)スタッフのモチベーションを上げることを 重要視している
醸造
野生酵母で発酵 まず大型の木の解放タンクにブドウを丸ごと入れる。発酵前は二酸化炭素がないので、最初 に二酸化炭素を充填する。ブドウの重さで下のほうがつぶれて発酵がはじまるので、足で踏 んで促す。 ジュールショーヴェが証明したステロール(ブドウの果実の中にある油脂でピノノワール にはエルゴステルが多く含まれている。ブドウをつぶすと壊れてしまうので全房発酵して いる。人間の心臓にもいいし、エルゴステルにはベト病やウドンコ病から守る効果もある。 ステロールは酸素がなくても野生酵母が動くという効果があり、ジョールショーヴェが科 学的に証明した物質)という自然なシステムを使ってワインを作る 発酵はエネルギーで火のようなものだ。ゆっくりと火を入れて料理をしていく。 セミマセラシオンカルボニックは自重でゆっくりとジュースがでて、ゆっくりと発酵が始 まる。 2-3週間セミマセラシオンカルボニックをしてアルコール発酵すると茎が0.5%近く のアルコールを吸収する。全房発酵によりアルコール度数を下げる
熟成
木の樽に入れる 新樽は仕方なく毎年買うが理想は4年目の樽をつかう。樽は卵の形をしているというのが 大事だ
自分の卵を動物は隠すように生産者は自分のカーヴに隠し、生命の始まりを待つ

熟成をしていると下に澱がたまり、液体に触れると澱が酸素を吸い還元状態にする。 澱はうま味をだし(シュールリー)、清澄作用もある。 澱引きは瓶詰前にはしない。年に1回乾燥したカーヴから湿度の高いカーヴに移動させる ときに樽を転がして運び、中の澱を回しバトナージュのように攪拌する。(実際のバトナー ジュは酸素が触れるのでしない)液体に澱のうま味を溶け込ませて還元状態にする。 瓶詰前の3-5か月まえに酸化防止剤を15-20ppm 添加する。ワインの一番成長して 美味しいところで形を整えてあげる(還元が起きていないタイミング)。それはまるで写真 を撮るようなイメージだ。人間は大人になって体の成長が止まる。次に内面が成長していく。 僕たちは体の成長がピークになったときに酸化防止剤を添加して形を止める。これは収穫 と同じでタイミングがとても難しい。オートクチュールの職人作業のようだ。ちなみに赤ワ インよりも白ワインのほうが還元と酸化の変動が激しくて難しい。タイミングを間違える と SO2 を入れる量が多くなってしまう。 その後澱引きをして瓶詰。かならずそれは重力で(ポンプはつかわない)行う。
ブドウでないものを入れる量はできるだけ減らしたい。SO2はタイミングをしっかりと図 ってできるだけ少なくするがあくまでも入れる量に決まりはない。

以下は試飲しながらのコメント
シエナスは花崗岩が風化した砂質の土壌と泥質で力強くスパイシーでフローラルな味わい
ムーランナヴァンは PN っぽさが出る。粘土質がないのでミネラル感がつよくなる。自分の 所有している畑。高級車1台くらいの値段でブルゴーニュに比べるととても安い。
シラーは一度やめたが最近再び作り始めた。仲の良い友人のコンドリューのカーヴでアル コール発酵まで終わらせて安定してから自分のカーヴに運んでいる。これも全房発酵する ことによって茎がアルコールを吸収し0.7%くらい(PN よりシラーのほうが吸収が多い) のアルコールを吸収し力強さのなかにエレガントさをつくる
コルナスは2つの区画をまぜることによりバランスをとる
ジュヴレシャンベルタンは合計3ヘクタールで、7つの区画から収穫しバランスをとって いる。豊でリッチ、凝縮度があるのが魅力的な村だ。
シャンボールミュジニは2002年からつくっている。2つの区画ソンティエールとフ― スロット(赤い石灰岩)2016は霜害にやられて芽が減ったので、そのぶん凝縮度が強くなっているが全房発酵によりアルコールが下がり(0.5%)茎からくるミネラルが感じら れる
2017は何の問題もなかった年ですぐに飲んで軽やかでバランスの良いクラシックでま ろやかな味わい。2016はまだ閉じているので2017を先に使うほうがいいだろう。2 016は力強い
(個人的に飲んだ印象だが、2017のほうがおいしかった)。
以下は2016から手に入れた畑でまだ知名度が低く安い。地理的多様性がある。
ラドワ 赤い粘土質と石灰質の2つの区画
ラドワ 1er cru レジョワイエ コルトンの丘の近くにあるピンク色の石灰岩で粘土質がな い。フローラル。塩気(ミネラリー)うま味、ヨード感があり雲丹と合う
アロースコルトン 1er 2つの 1er cru が入っている茶色い石灰質
コルトン GC ブレッサン 1ヘクタール。1万2千本から1万4千本くらい。南東向きで 樹齢80年。パカレの持っている畑の中で最も古いブドウの木。

質疑応答
ペアリングも自然なワインには自然な料理のほうがあう。世界的に素材を生かす料理をつ くる傾向になってきているのはとてもいいことだ。僕はクラシックな料理が好きだけどね

プリューレロック
通常プルミエやグランクリュで酸化防止剤ゼロというリスクをとらないが、それをやった 唯一の造り手というのは非常に評価されるべきだ。 自分とは考え方が似ていたので喧嘩することはなかった。彼のほうがたくさん酒を飲んで 体も大きかったしね。

2018と2019について。
どちらも暑い年だった。日照量が多く PH も保つことができ た 2018は収穫量がおおかった(特にシャルドネ)が、その反動と春に寒く開花がすすまな かったので2019の収穫量が少なくなった。いつもより15%ほどは収穫量がへった。僕 は周りの人よりも早く9月5日に収穫をした。この時期は乾燥していて毎週水分がどんど ん減っていったのでブドウの熟度が上がった時点で収穫をしたら、周りの人より早い収穫 になった。みんななんで収穫を始めないのか不思議だった。収穫時の雨がすくなく病気の少ない健全なブドウになった。8月末から夜の温度が低くなったので熟成も順調だった。開花 の時期は遅くなったが2019は満足する出来になった。自分の歴史の中でもいいワイン になると思う。
2019はリンゴ酸が低く PH があったので MLF が早く終わった。 2018は凝縮度があってアルコール度数が13前後になった。