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「大人になったら何になるの?」12フィートの木材を持ってあるく36日目

2020年4月23日(木)

曇り。気温13℃。体温35.9℃。木材の長辺2390mm

尾道のゲストハウスで言われた「広島では大きな開けた街に出るには、30〜40km間隔なので徒歩の人は結構きついと思います。」という話、本当だな。と思う今日この頃。あえて付け加えるのならコンビニを見つけて次のコンビニに到達するのに20kmはかかる。「コンビニを見かけたら最後のコンビニと思え。」という教訓が生まれた。ちょっと店がちらほら見えてきたな、と思い1キロ歩くとガラッと景観が変わる。急に何もなくなり、民家もなくなり、畑と共にとにかく広い道路に車が行き交うのみの空間が現れる。広くて歩道も備わっているのに街灯がないので、とにかく日のあるうちに目的地につかねばならない。時間勝負で緊張感のある土地である。

普段から歩いている人すら珍しいようなところなので、こんな大荷物と長い木材を持っていると、側から目立つようで、ゴミ収集車のおじさんに声をかけられ、激励の言葉をもらう。

東広島市に差し掛かると、反対側の歩道からおばあさんがこちらをみて手を振っている。「まぁ、大変じゃろ。」と言いながらおばあさんはこちらの歩道まで歩いてきた。私はようやくはだしのゲンでしか聞いたことのない、なんとなくな広島弁のイメージの言葉が、おばあさんの口からネイティブに発せられるのに感動した。
よく道中で質問される、どこから来たのか、何をしているのかのような話をひととおりした後、おばあさんに

「あなた、大人になったら何になるの?」と聞かれた。

私は24歳である。もう社会人だ。お婆さんから私って何歳に見えてるのかな、学生だと思われてるのかな、と思ったが、
もしかしたら「社会の中で成熟したときどんな人間になっていようと思うのか」みたいなことを問うているのかも…と思い、急に壮大な問いで考え込んでしまった。

私は大人になったら何になるんだろう、そしておばあさんは何になったのだろう。


この時のおばあさんに発した私の回答はここには書かない。むしろこれを読んでいるあなたも大人になったら何になる、あるいは何になったのかについて考えてもらいたく思うからだ。


そしてまた少し歩くと山になった。坂道。何もない、誰もいない、と、思ったら目の前から金の指輪や天然石をはめ込んだ指輪をたくさんつけた高級思考のような、でもどこか人懐こい感じのするおじいさんがゴミ拾いのトングを持って歩いてきた。「まあ、こんなところで人に会うとは!ここには長く住んでるから、みんな知り合いみたいなもんじゃけ、あなたは見かけない人だね。」と言われる。私は愛知から来たこと、今は引越しの途中で福岡に向かってずっと歩いていること、この活動をアートだと思って行っていることなどを話した。「まあ、何と、面白いじゃあないの!この戻った先に自販機があったでしょう。そこでジュースを奢るよ、ついて来んさい!」とおじいさんは私の歩いてきた道の方を指す。とりあえず、すべての荷物を持って、来た道を戻るのは大変なので、大きな荷物と木材はその場に置いていった。「まあ、こんな場所で誰も盗みはせんよ!ついてきんさい、ついてきんさい」とおじいさんはノリノリだった。おじいさんに連れられるがままに自販機に向かって歩く。おじいさんはもともと関西出身だったことや、病気の余命宣告をされたにもかかわらずそこから20年は生きていること、その恩恵があるから毎日願掛けも込めて地域の周辺をゴミ拾いしながら歩いていることなどを話してくれた。

自販機の前に着くと大量の小銭を金額も確かめずに自販機に投入していくおじいさん。「好きなもん選びんさい。」と言われたので水を指差し、「じゃあこれで、すみません、ありがとうございます。」と言った。昨日買った2リットルのウーロン茶があるのでこれくらいがちょうどいいなと思った。するとおじいさんは「もっと選びんさい!こんな機会ないんだから遠慮しなさんな!」とさらに小銭をガンガン自販機に投入していった。「あ、えっとじゃあ、このスポーツドリンクで。すみません、こんなに貰っちゃって…。」と言うと、「ああ、これもいいんじゃない?あれも飲みたいだろう、こんなのもあるよ」とおじいさんは私の後に矢継ぎ早に自販機の上の段のボタンを片っ端から押していく。え?おじいさん?しかも自販機の上の段のドリンクといえば基本500mlのコーナーだ。どんなにドリンクがありがたくてもその500mlは500g。2本で1kg。増えるほど重さは増していくのだ。私が慌てていると、「いーの、いーの、遠慮しなさんな、遠慮しなさんな」と言いながらペットポトルだけでなく、大きな缶の炭酸ジュースのボタンも押していく。誠にありがたいが一番怖いのは炭酸の缶ジュースで、一度開けたら飲み切らないといけない上に、このいつトイレにありつけるかも分からない状況。炭酸が歩いて揺られているうちに爆発して液漏れする可能性もある。おじいさん!もう十分だって!手を止めて!と心の中で思ったが、おじいさんの好意をむげにもできず、結果500mlのジュース類を6本奢っていただいた。元々の2リットルペットボトルもあったので合計5kgのウェイトトレーニングをすることになった。まだ超える山が一山ある…。

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ともかくおじいさんにたくさんお礼を言って別れた。おじいさんが少し跳ねるかのように歩いていく後ろ姿を見送った。


教訓に沿って飲み物を十分に用意しても、思わぬ展開によって水分を大量に獲得し、むしろウェイトトレーニングになってしまうこともある。予測不可能な出会いもある、ということを知った。声にならないうめきを発しながら、むげにできない水分を運び、山を超えた。明日は呉に着く。

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