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ヒップホップのすてきな三にんぐみ①鎮座DOPENESS×環ROY×U-zhaan│ひとりアドベントカレンダー#9

三人組というのは何かと魅力的だ。映画やアニメの主人公たちが三人組だと、なんかおもしろいことが起きそうな気がしてくる。なお、タイトル表記をあえて「三にんぐみ」にしているのは、絵本『すてきな三にんぐみ』が好きなので。

ヒップホップの世界にも、魅力的な三人組はたくさんいる。USヒップホップならRUN DMC、A Tribe Called Quest、De La Soulなどが有名どころだろうか。日本語ラップでも、KGDR(キングギドラ)、KICK THE CAN CREW、GAGLE、SOUL SCREAM、LUNCH TIME SPEAXなどなど、三人組クルーは多く存在する。

今日と明日は、日本語ラップ界の「三にんぐみ」の中でも、私が大好きな2組の三人ぐみを紹介したい。ということで今日紹介するのは鎮座DOPENESS×環ROY×U-zhaan

これは、日本語ラップの生ける伝説的三にんぐみスチャダラパーによる「サマージャム'95」のカバー。日本語ラップの夏アンセムの代表格に対してしっかりリスペクトを払いつつ彼ららしく自然体のテイストで再構成している。それにMVの、三人それぞれの夏の過ごし方がめちゃくちゃいい。

この三人にとくに固定されたユニット名はないらしい。

鎮座DOPENESSと環ROY

唯一無二の声と独特のフローを駆使し、数々のMCバトルでも戦績を上げてきた鎮座DOPENESS。名勝負と名高いVS黄猿戦VS晋平太戦をYouTubeの動画で見た人も多いと思う。KIRINJIリスナーでもある私は、「Almond Eyes feat.鎮座DOPENESS」の鎮座さんパートのラップにもしっかり撃ち抜かれた。

環ROYは、爽やかさと翳りの両方を兼ね備えた声が特徴的だ。アンビエントなトラックの上で、自由自在に泳ぐようなラップをする。美術館や博物館などの展示空間の中や、里山の野外など、文脈強めで独創的な場所でライブしても空間に負けない。むしろそこでライブをするのが似合っていたりする。

KAKATOとして聴く

三人組状態を知る前に、鎮座DOPNESSと環ROYの二人によるKAKATOというユニットを知った。テクニカルでときにゆるくて愉快な曲に私はドはまりした。Dragon Ashが使っているサンプリングネタ(Eric B & Rakimの曲)をバッチリかっこいいトラックに仕立てつつ「俺は東京生まれ地球育ち 大体の奴は大体友達」というすっとぼけたパロディをかますあたり、油断がならない。

「わーい」はタイで撮影したらしきMV。だいたいなんか食ってる

そしてU-zhaan

日本語のポップミュージックでタブラの音が聞こえてきたらだいたいU-zhaanが演奏している。インドの太鼓タブラとは何か、U-zhaanはいかにしてタブラ奏者となったかは本人にきいたほうが早いのでこのインタビューでも読んどいてもらいたい。U-zhaanの公式サイトもやたらカラフルでかわいくて楽しくて読みごたえがある。

U-zhaanの叩くタブラを「この不思議な音階つきの太鼓はタブラといって、これをたたいているのはU-zhaanという人なのだな」と私が初めて認識したのは、椎名林檎の「神様、仏様」あたりからだと思う。

さいきん七尾旅人のアルバムを聴いていたら、タブラの音とともに「デレディナゲダゲナ……という声がとつぜん聞こえてきたときは、別段驚きもせず「あ、U-zhaanだ」と受け流した。(デレナゲ云々はたしか口三味線ならぬ口タブラみたいなやつ)


からの鎮座DOPENESS×環ROY×U-zhaanとして聴く

タブラの音は不思議である。太鼓だからビートの基本要素を構成するし、音階があるからメロディーも和声もいける。その音の出方や消え方が独特なせいか、複数の楽器のアンサンブルかと錯覚する瞬間もある。あれ、和楽器かな?とさえ思ってしまうような鳴りをすることもある。

そこに、鎮座DOPENESSと環ROYによるかけあいのラップが乗る。言葉をつめすぎずゆるめ過ぎず、絶妙な間と緩急で聴かせる。

タブラとラップ 仲良くやる 仲良くなるとなんかよくなる」のフックが印象的なこの曲は、この三人の作る「アメリカ発のヒップホップ・日本語のラップ・インド文化圏の楽器タブラのミクスチャー」そのものを題材にしている。異文化を無理やりかけ合わせてみた!という背伸び感はまったくなく、自然体で、様々な文化に敬意を払ったうえで、この三人にしか体現できないちいさな”文化”をやってみている

文化ついでにそのものずばり「BUNKA」という三人の曲も紹介しておこう。鎮座と環ROYが高速ラップでUSヒップホップの歴史を教えてくれている……と思ってたら「一方そのころムンバイでは」とU-zhaanが偉大なるタブラ奏者の系譜をこれまた高速で語りだす。いやわかんねーよ!とツッコミを入れながらも聞き入ってしまう。U-zhaanの語り口の妙な真顔感がくせになる。そしてここでも「先人たちの偉業 リスペクト」とリリックにある通り、様々な文化や人への敬意がしっかり根底にある。

この三人の、「ゆるい」「楽しい」「かっこいい」だけではない、どことなく心地よい謙虚さと知性を感じられるところが私は好きなのだと思う。

ということで、最後に、最近YouTubeに上がっていた鎮座DOPENESS×環ROY×U-zhaanの新曲「おでん」を貼っておく。おでんの具たちが無類に可愛く、いとおしく思えてくる一曲だ。やっぱこの三人の名義、書くと長いし、何かユニット名つけてくれないかしら。


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