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自由詩

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リーディングや投稿・寄稿で発表済の作品を掲載します。
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2017年2月の記事一覧

白亜の恋文

指先で触れることすらもためらう。
ふとしたはずみで壊してしまいそうだから。
それでも、優しくつかまえなければ
たやすく指先をすりぬけるあなた。

遠い異国の山あいにそびえる
白亜の城からやってきた使い。
あるいは、彫刻家の恋人の忘れ形見でいることに
飽き飽きした石膏の化身。

あなたの姿はたとえば、におやかに濃さを
増していく五月の芝生の色や、
時折小さな星が眠そうに瞬く
藍色の宵闇に、ことによく

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ヘイズバラの海岸にて

飛行機雲が彗星のように白い尾を引きながら、
2月の澄みきった空を行き交う。
その下で海は見渡す限り
深い藍色を広げている。

スニーカーの足が少し沈みこむほどの
ふかふかな芝を頂く崖の上に立っている。
1年ごとに2mずつ
この海岸は削られていく。

白とグレーのまだらの石を
美しく組み上げた600年前の教会も
かつてよりも海にずっと近くなった。
その足許はすでにもろく不確かだ。

崖の下の波打ち際

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高度35,000フィート

海の底に沈む
クジラの全身骨格
のような
山脈が
眼下の
そこかしこに
横たわる

あと2時間もすれば
あかるい夕方の国に
着いてしまうことが
にわかには
信じられない

どこまで
泳いでも
どこまで
進んでも
夜明け前の海
なのではないか
という恐れを
かすかな望みに
変えるとき
高度35,000フィートの深海を
永遠の風景として
再び眠りに落ちゆく
まぶたの
うらに
たたみこむ

(2017年

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