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自由詩

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リーディングや投稿・寄稿で発表済の作品を掲載します。
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2017年1月の記事一覧

石畳と秋の蝶

石畳にアオスジアゲハがいる
たった一匹で翅を閉じてぴんと立てている
危うく踏みつけそうになる足を引く
飛び立つのを待つでもなく眺める
一枚の紙切れのようでいてはためかず
海原を行くダウ船の帆のごとく
青のパステルで描いたドロップスを
並べた翅を垂直に立てている

隣を歩く人が足を止めた
暖かい秋の日だまりに風が凪いだ
目を細めて何を眺めるのかその人は呟く
――ここ、昔、海だったんだ
その目には石畳

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本を冷蔵庫に入れた話

もう棚という棚を埋め尽くしてしまった。壁じゅうをありとあらゆる棚にしてこれだ。ぶどう棚や藤棚がはたして棚かどうかというもっともな議論はまた別に譲るとして、仕方ないだろう! 本のほうで勝手に増える。減らしたいものほど増えていく、よくある話だ。全部の棚に本が入っている以上、とくに本棚というべき棚ももはやない。

そしてもう床という床も埋め尽くしてしまった。眺めてるとこっちが絶海の孤島の気分だ。ここがの

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きりんの卵

今朝、ベランダできりんの卵が孵った
ご機嫌斜めな秋雨前線がやって来て
しゃぼん玉も飛ばせそうにない空模様で
植木鉢の皿にたまる雨水も濁っている

うっかり卵の殻を脱ぎ損ねたきりんは
頭に殻をかぶったままでぽてぽてと歩き回る
ベランダの隅の植木鉢にこつんとぶつかって
その拍子に殻がぺしゃりと割れた
きりんは植木鉢の縁を見上げながら
雨の中でぱちぱちと両目をしばたたいた
まつげの先で雨粒がぽろぽろと弾

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