はんなり？？？！！！着付師物語　第７章①上昇気流

　未来のビジネスセンスなのか、運の良さなのかは分からないが、未来は人との出会いから、チャンスを掴んでいった。
例えば、ある撮影チームのイベントに着付けの依頼で出向いた。その時にとあるお笑い芸人がゲストで来ていて知り合った。その芸人を自分が主催するクリスマスパーティーの司会として呼んだ。その芸人の伝で写真スタジオのオーナーと知り合うことになり、ブライダル撮影のレギュラー着付師の依頼を受けるようになった。ここでの撮影のセンスと、もちろん未来の衣装選びと着付のセンスが相まって、素晴らしい写真が出来上がる。それをSNSで投稿していると、その特別感のある花嫁たちの写真のように自分も仕上げてほしいという依頼が殺到した。だから、逆に未来からの依頼で撮影チームが動くことも増えていった。お互いウィンウィンの関係だ。
　そして未来は、どこへでも出かけていくことがブログやSNSから見てとれるから、本当に遠方からも着付けの依頼が入る。そして実際に、未来はすごい予定の入れ方をして日本中を駆け巡る。例えば、ある一週間の予定はこんな感じだ。群馬、
東京、横浜、大阪、岸和田、松江、大阪、芦屋、大阪、泉大津、大阪、京都、神戸、大阪。効率が良いのか悪いのかよくわからない予定の入れ方だが、自分の動ける時間に目一杯の予定を組み、それをこなす。それをまたブログやSNSに載せると、あちこちから声がかかる。「未来先生は、どこへでも来てくれるよ。」という口コミがまた仕事を呼ぷ。未来は着付師の仕事と着付け教室の仕事で大忙しとなった。
　これだけの仕事をこなせる理由の一つは、未来はいわゆるショートスリーパーで、一日三時間しか眠らない。それ以上寝てしまうと頭痛がするらしい。だから、家にいる時も、ゆっくり寝て休む時間を取ることはなく、外出のための作り置きご飯の用意やその他の家事をしたり、犬猫の世話、さらに捨て猫を拾って保護活動までやっている。未来は生身の人間だけれど、その体力や気力、幼い頃の喧嘩の強さや打たれ強さ、全てにおいてまるでアニメに出てくるヒーローのようだ。
　上昇気流のスパイラルを作ってしまった未来は、本当に頑張っていた。三年間は、全く海外旅行に行くこともなく仕事に集中していた。初めて渡米して以来、一年のうちに一度も海を越えないことはなかった未来が、大好きな旅行もストップして集中していたのだ。
そのことを知っている生徒たちが、ある時未来に内緒で素晴らしい企画をしてくれた。有志の生徒たちでお金を集めて、なんと海外旅行に行けるだけの旅行券をサプライズプレゼントしてくれたのだ。
「えーっ！！？嬉しすぎるー！！こんなに幸せな着付師っていないよね。ほんと、わたしって恵まれてる！」
未来は、感動し、三年ぶりの海外旅行で、台湾に出かけた。
　でも実は、生徒たちからプレゼントされた旅行券は大切すぎて使えないからと、未だに大事にに保管しているのだ。いつか特別な時に使うかもしれないけれど、未来の一番大切な宝物として一生持っていても良いと思っている。
未来は、生徒さんたちの気持ちが嬉しすぎて、それを使うとか使わないとかはどうでもよくて、そのプレゼントこそが、未来が生涯大切にしたいと思っている人との繋がりなのだ。

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女流作家　風乃音羽