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近所のおまつりにたまたま出店していた犬猫の保護団体の交流ブースで出会ったオスのミニチュアダックスの飼い主になることを決めたのは2023年で最も大きな決断だった。
保護犬は性格が出来上がっている成犬なので、飼い主となる家庭と犬の2週間のお試し飼育にクリアしないと里親になることができなかった。トライアル期間に挫折することもあるかもしれないと思ったけれど、生まれて初めて飼った犬は私が思っていたよりずっと人間に近かった。
好き嫌いもあるし、喜びと悲しみもあるし、時々わがままな主張をすることもあることに、驚きとともにかなりの感動を覚えた。

犬は大好きでいつか飼ってみたいと思っていた。
小学生の頃にそう両親に主張したところ「まずは鳥のお世話をしてみなさい」と言われ、ジュウシマツを飼うことになった。
犬を飼いたい子供に別の生き物を買い与えることが、良策かどうかはわからないが、自分に懐かない鳥にすぐに飽きて父がその世話をしていた。
果たして私は動物の世話ができない子供として、犬を飼うことを許されなかった。成人してハムスターを飼い始めたが、放し飼いという自由な飼育方法で育てたせいか、彼らはハムスターと思えぬほど懐き、私は小動物を飼えるまでは大人になったのだと思った。しかし、犬を飼う自信はいつまでも出来上がらず、犬との暮らしは夢のまた夢だと思っていた。知らぬ間に自分の足元にある越えられぬ低い柵ができていたのだ。
でも犬の不幸な生い立ちが私にその柵を越えさせたのだと思う。

家にきた初日は成犬のダックスなのにひどく痩せて弱々しく、ずっと人間に大人しく抱っこさせる人形のような状態だった。度重なる大きな環境変化で、体重が酷く減ってしまっていた。それでも1週間が過ぎる頃には元気に走り回るようになり、1ヶ月が過ぎた現在では小獣を狩るダックスらしく野性味あふれる唸り声を上げながらぬいぐるみでひとりで遊べるようになった。同一の犬とは思えぬほどだ。
私がしたことは、彼に対して愛着の湧く名前をつけて何度も呼び、適量のドッグフードを毎回計量し、一度に与えると吐いてしまうので規定量を複数回にわけて与えただけだ。トイレの場所を準備し、見事トイレに的中したら手を叩いて喜び、失敗するとしれっと片付けた。朝と夜に犬を探検という名の散歩に連れて行く。雨の日は部屋でクタクタの死体のぬいぐるみ(Amazonで購入)を使って引っ張り合って途中でわざと負けてあげた。
毎日大量に話しかけてもいた。反応する言葉もあるけど(名前、散歩、ごはん)基本的に犬は首をかしげながら私の言葉をじっと聞いている。絶対にわかっていない顔をしているのでそんな時は頭を撫でた。
そんな単純なことで、1ヶ月の短期間で別の犬のように元気になった。
飼育中に何度も怒りと感動とがぐるぐると自分の体を巡った。
もう、なんなの
あなたは人に虐待されて傷ついてきたんじゃないの?
そんなに人を信用しないでほしい
そして、こんな単純なことで生き物とは、命とは、回復していくものなのか…
今もときどきそうした怒りと感動が押し寄せてくる。
誰かに対して責任を持つって、こうした波との永遠の対峙なんじゃないだろうか?逃げる人は逃げるし、逃げない人は逃げないのだろう。

最後に年末だし来年の豊富を語りたいと思う。
犬は安心するとお腹を天井に向けて寝るらしい。
うちの犬は最初は伏せの状態で寝ていたが、最近は横になって飼い主の膝の上で寝ている。あと90度方向転換し180度になるにはまだ時間がかかりそうだ。来年はだらけきったあられもない姿で犬を寝かせたい。
犬の見せる夫と私への態度も、心做しか違いが出てきた。
ときおり厳しさを見せる夫には、膝の上では寝るが飛びつかない。餌の主導権を握る私には無尽蔵な愛情表現で飛びついてくる。犬とは、まるでよくできた恋人のように一緒にいる時間の分だけ愛情が深くなるようだ。約8時間寝て、ふつうに起きただけで生き別れた家族に出会ったかのように喜んでくれる。あまりに喜ばれるので宵っ張りの私ですら早く起きてしまう。
そんな犬と人間の蜜月状態なので、彼はお留守番が上手にできない。
2024年の目標は、犬がひとりでお留守番ができるように誠心誠意サポートしたいと思う。


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