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ステージが恋しい話

 初めてステージに立った日のことは、あんまり覚えていない。アヒルの衣装を来て、ライトを浴びた瞬間だけ、切り取られて記憶に残っているくらい。4歳の誕生日を迎えてすぐのことだったと思う。児童合唱団の、初めての定期演奏会。年少組恒例プログラムであるオペレッタで「みにくいあひるのこ」を披露したときのことだった。
 地元の児童合唱団に入団したのは3歳。それからずっと、毎年何かしらのステージに立ち続けた。高校2年生で合唱団を卒団した後も、OG合唱団の一人として、大学進学で地元を離れたあとは、サークルで始めたジャズのバンドで、社会人になってからも、社会人ビッグバンドのメンバーとして、25年以上、ステージに立っている。
 あんまり、ステージに立つことの意義みたいなことを考えたことはなかった。とにかく音楽が好きで、自分たちが演奏する、お客さんが幸せそうに聞いてくれる、私たちももっと楽しく演奏出来る、そうやって作り上げる空間がとにかく好き。それだけだった。

 この新型コロナウィルスが流行り出して、ステージはすっかり遠くなってしまった。毎年恒例だったイベントは全て中止。それが去年。年末に一回だけ、同時配信もしながらのコンサートができた。本来ならばそれももっと大きなステージと抱き合わせの企画だったはず。でも、去年そのたった一回だけだったステージが、私の心を守ってくれたと思う。ああ、私はステージが好きなんだな、って心の底から思った。ステージで音楽をすることができて、それを見に来てくれる人がいるということは、とても尊い営みなんだ、と。本当に幸せだった。
 去年、来年こそは、と思いながら、そうやってステージに乗ることができない日々を過ごした人はたくさんいたんだと思う。私もその一人で。「この状況が落ち着いたら」って、もう10000回くらい言ってる。ワクチンが広がって、感染者も落ち着いて、そうしてまた大好きな音楽空間を作ることができる、そう思っていた。
 でもそうはいかなくて。決まった先から予定は流れていく。今年の方が結構堪えるなあ。

 それでも、感染対策を十分にしながら、安全にステージを成功させる人たちの話を聞くと、救われる。本当によかったと思う。早く私の目の前にも、見に来てくださるお客さんたちと作り上げる大好きなステージがかえってくると良いなあ、と思う。
 楽しみにしていたステージが1月に延期になってしまって、感情の赴くままに言葉にしてみました。