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忘れたいことを忘れられないのと、どちらが幸せなのだろう


「忘れたいことを忘れられないのと、どちらが幸せなのだろう」

これは、アーバーズという曲の核となる歌詞の一節だ。

忘れることと忘れられないこと、そのどちらにもどちらの辛さがあるなあ、と思っている。辛い出来事に直面したとき、これについて考えなくて済むならばどれだけ楽か、と願ったことはある。だけどもしも実際、Deleteボタン一つ押せば、何が辛かったかもわからないくらい都合よくスカンと全て消去することができたとしたら、それは果たして幸せなのだろうか? とも思う。

どちらに決着をつけたい疑問ではないけれど、いったいどちらが幸せなのだろう? と、ある本を読んだ時に、私の脳裏にはその疑問が浮かびました。

その本は、小川洋子さんの【密やかな結晶】という小説。
それは、こんなお話しでした。

その島では、ひとつずつ何かが、確実に『消滅』していく。

ある朝起きたら、ふと違和感を感じる。ああ、また何かが『消滅』した。そんな胸騒ぎで起きて、何が消滅したかを知るのはそのあとのこと。そして気がついた人たちから、それを川に流したり、燃やしたりして物理的に消滅させる。消滅が訪れれば、それを懐かしがったり、寂しがったりしながらも、2、3日もすればみな、元どおりの毎日を取り戻す。そして自分が一体何をなくしたのかも思い出せなくなる…。
(中略)
ただし『消滅』したものの記憶を失わない人たちが少なからずこの島にはいる。『消滅』したものを持ち続ける人たちは、『記憶狩り』によって強引に拉致されてしまう。主人公の母は、記憶を失わない一人だった。そしてある日記憶狩りに連れ去られ、ほどなくして原因不明の病死として、遺体として帰還したのだった。人々は少しずつ何かを失って行きながら、記憶狩りを恐れながら暮らし、小説家である主人公もやがて、小説を、言葉を、失っていく…。

あくまで架空の島の話だが、その島では人々の記憶の中から何かがある日突然消滅していく。ただしその記憶を無くさない人たちも少数ながらその島に存在していて、彼らは隠れて暮らさなければ危険な目に遭う。
「忘れる」人たちは、自分たちが大切にしていたものたちを失って行くけれど、自身は数日経てば少しずつ失った状態に慣れていく。一方で「忘れない」人たちは、人々が大切なものを失って行くさまを目の当たりにし、それ自体を覚えている。設定自体はSF的ながらも、どこか現実と繋がっているなあ、と思う。

そうしてまた、考える。
忘れたいことを忘れられないのと、どちらが幸せなのだろう、と。

そう思って歌詞を書いたのが【アーバーズ】でした。早くみなさんに聞いて欲しいです。

確か【アーバーズ】をつくったのは2015年くらい…だったかな。気がつけばもう6年ほど経って、ライブなどでは定番の曲でしたが、ようやくリリースできるのでよろこびもひとしおです。

…と言いながらもう少しお待たせするのですが…ごめんなさい。

アーバーズは、Spotify, Apple Music他、各種サブスクにて、1/30(土)リリースの予定です。

小説【密やかな結晶】についてはこちらの記事に詳しく書いています。新装版も出ているし、超絶おすすめなので是非読んで欲しい。

この本自体は1994年の作品で、私も随分前に読んだのですが、昨年になってこの本はイギリスの権威ある文学賞「マン・ブッカー」賞の最終候補6作品に選ばれたというから、驚きです。そしてなんとアマゾンスタジオにて実写映画製作中だとか。たのしみすぎる。

(Vo. あまの)

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