(55/100) 夜と霧

第二次世界大戦(1940-1945年)、ナチス・ドイツが国家をあげて推進した絶滅政策(ホロコースト)。その悲惨な舞台となった強制収容所で生活した1人の心理学者の体験記です。

内容は二部構成で、第一部は歴史書(強制収容所、残忍な事例について)、第二部は心理学書(体験記)でした。

本書によると、この組織的集団虐殺により6百万人もの命が失われたといいます。収容所のなかでは、ある人はひと一人がギリギリ入れる空間に3週間立たされ続け、ご飯も水も与えられなかったり、ある人は伝染病を患った死体とともに、糞尿にまみれたコンクリートの床で寝る生活を強いられ、ある人は人体実験で両足を切断され、骨の一部を別の箇所に移植された、というのです。

死者の数もそうですが、残虐な虐殺の内容を想像することが難しかったです。というのも、あまりに日常とかけ離れすぎて、イメージのもととなる類似的体験をしていないからだと思います。誤解を恐れず言えば、小説を読んでいるような感覚に陥りました。

体験記では、ABC理論を思い出しました。筆者の言葉を借りるとすれば、強制収容所でさえ、人間の精神の自由は奪えないというものです。驚くべきことに、収容所の人々のなかには自我を保ち、空腹のなかで1片のパンを仲間に分け与え、お互いを勇気つける姿があったというのです。彼らを奮い立たせたのは、『未来への希望』でした。つまり、「いつの日か戦争が終わり自由になれる」という希望です。一方で、今に絶望し、過去を回顧してしまうものは、日に日に弱っていったといいます。

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本書は、歴史書というより心理学に重きをおいているように思います。強制収容所の体験を通して、人間はどんな状況になったとしても高貴に自由に感情を持つことができる、という一貫したメッセージ性を感じます。しかしながら、注視すべき点はそれだけではないと思います。屈折した見方をすれば、この集団虐殺という悲惨な事例から学ぶべきは、どんな状況にも屈しない人間のすごさだけではなく、人間の愚かさもだと思います。特に、体験していない側のひとたちは。そういった意味で、論点をずらされているようにも感じました。

どうしたら正常な人間が、集団的に残虐行為をするようになるのか、そのプロセスを、加害者側の意見を知りたくなる本でした。

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