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人間を中心に据える観光企画(実存主義的・現象学的観点を活かした実例)

観光振興を進めるにあたり、実存主義および現象学的態度が有意義だと思われる点は、国や地方行政が作る「基本計画」や「グランドデザイン」といった観光振興の戦略の根幹が、現場にブレイクダウンしていく過程において、往々として希薄し、失われがちな「観光客の立場になって考え抜く」という姿勢を一貫したり、新たに加味するなどして、現場で具体的に力強く反映できることです。
現象学や、その中心概念となる相互主観性、現象学的還元については過去にこちらのブログ(リンク先)で論じてきました。
「知覚」力を向上する前に身につけておきたい哲学的態度 フッサールの「現象学的還元」|桜井篤 (note.com)
哲学を採り入れた魅力発掘・観光振興(その1)フッサールの現象学|桜井篤 (note.com)

したがって今回は、具体的な事例を紹介します。
以下、2019年1月のある日に当方が行政からの依頼を受けて実施した企画です。

経緯)
300日の開催期間をもつ県の一大歴史顕彰イベントの最終日である1月中旬のある日。そのメイン会場のパビリオンにおいて、当方がプロデュースをしていた歴史寸劇ユニットにおいて上演の依頼が来ました。

目的)
依頼の目的は、イベントの終わりを飾るのにふさわしく、館内の案内や寸劇をパビリオンの建物内部で一日に何度か上演してほしい、とのことでした。

当方の考え)
パビリオンの外で実施させていただきたいとお伝えして、承諾いただきました。

その理由)
パビリオンの中は展示物がたくさんあり、入場者はそれを目的で来る。そこに当方の寸劇が新たな価値を上乗せして手厚くするよりも、よりニーズがあるタイミングがある。当時地元の新聞で報道されていたのは、イベントの盛況ぶりで「入場ゲートには数時間待ちの行列ができています」とのことだった。時はまさに極寒の1月中旬。パビリオンの外で、会場に入れずに列を作って待っている方々が待ち時間の長さを感じ精神的につらい気持ちにならないように、並びながら観て楽しめるようにしたほうが、トータルの提供価値は高まるし、来訪客の不満を解消することが、最終的には大きな満足につながると考えた

企画詳細)
役者をペアにして4グループ作り、会場の周囲にぐるりと二重にできていた入場待ちの数百人の列に沿って歩きながら寸劇をするというスタイルを実現した。ある場所で一つの劇が終わると、2人の役者をばらします。一人は上手に、一人は下手に歩いていき、それぞれ、そこで出会った別の役者と新たなコンビを作り、その組み合わせで実際にあった史実をもとにした寸劇をその出会った場で行う、という同時多発の即興寸劇でした。

▲「回転移動型同時多発寸劇」を展開して長時間待つ苦痛を和らげる

行列待ちの方々にとっては、まさか並んでいる最中に面白い寸劇が目の前で突如はじまる、そして、それが終わると、次はどこでどんな役者の劇が始まるんだろう、とワクワクしながら、楽しみ、寒空の下、待ち時間が2時間以上もあるということをかたときでも忘れてくだされば、という思いを込めて実施したのでした。
結果は、大好評だったかと思います。多くのお客様の笑顔、歓声が、列のあちこちからわっと聞こえる、感動的な光景。個人的にも一生忘れない光景かと思いました。
主催者にも大変おほめをいただき、このイベントの有終の美を飾ることに貢献できたのではないかと思っています。

▲実際の様子

解説)

「基本計画」や「グランドデザイン」は、あくまで事業を主催する側の目線で作っているものですが、その価値を獲得するには、観光客が集うことが大前提で、彼らがそこで満足度が高めれば次につながります。そのためには、観光客の気持ちをいかに洞察できるか、が求められます。今回は「不満」の「不」が勃発することを予測して解消する形の企画になりました。
計画をもとに事業を具体的な施策として現場で実施する過程においては、「主」「客」を逆転して考えるタイミングが必要です。どこかのタイミングで、「自分たちにとって良い」を「観光客にとって良い」に変えられるか、がプロデューサーの力の入れどころでしょう。
この時に、よりどころとなるのが、実存主義的な姿勢と現象学によって培われる発想です。
 まず実存主義は「具体的な事物」ではなくて、「その事物と関わる人々」に目を向けるように教えてくれます。さらに現象学が「それらの人々がその事物と関わる関わり方は、人それぞれで、決まったルールなどはない」ことを教えて、因襲・常識を退け、企画の発想に弾みをつけるように応援してくれます。

【ポイント】
・事業を進めるにあたりどこかのタイミングで「主」「客」は逆転させる必要がある
・「客」側の心情を洞察し、主催者の事業目的も実現することがプロデューサーの使命
・実存的態度と現象学態度を発揮して事業の意義を人間の視点に沿って再構築する

最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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