観光振興の価値を拡大するトライアングルハッピー(事例つき)
トライアングルハッピー。
ちょっと聞きなれない言葉だと思うので、意味をご説明しますね。
トライアングルハッピー(以下TH)とは、江戸初期の陽明学者で近江聖人と言われた中江藤樹が唱えた「三方良し」の精神に似ていますが、多少違うところもあります。THは「三方良し」との違いを見ると、ご理解いただきやすいのでそのあたりから解説しましょう。
■「三方良し」と「トライアングルハッピー」の違い
中江藤樹の「三方良し」は商売の心得です。「売り手良し」「買い手良し」そして「世間良し」の商売をしなさいと言ったとされています。この三番目に「世間良し」と置いたことこそが、中江さんの真骨頂で、ここが現代のビジネスパーソン間で喧噪されていて危うささえ感じる「WIN-WIN」とは決定的に違います。近江の商人の気高い社会倫理を感じさせる言葉です。
一方で、㈱リクルートで私が慣れ親しんだ「トライアングルハッピー」は、同社が就職情報誌や観光・結婚・住宅など幅広く日本人の「生活」を支えてきたマッチングサービスの草分け的性格をもっていたるため、「三方良し」とはちょっと違った発想があるように感じています。 あえて置くとしたらその「三方」とは、「消費者」「サービス・商品提供者」そして「世間」ではなくて、世の中をもっと良くしたい「私」なのです。
■私? 「世間」とは違うのですか?
そうなのです。私の個人的研究によると、この「世間」というワードはわりと表面的なのかなと思います。そもそも世間ってなんですか?
たぶん、誰も答えられません。人によって世間は違うからです。
世間とは、主体である私を取り囲む生活世界だと考えます。私を取り組む生活世界と、 アメリカに住む別の誰か、たとえばメアリーさんの生活世界とは、まるで違うはずです。
そう、「世間」という言葉はおさまりがいいので、誰も表立って意義を唱えませんが、もっと突き詰めて考えると「世間」とは、主観である私が自分を取り巻く世の中をどう見ているか、そのような主観の志向に拠るところが大きいはずです。
そして、そのような「世間」におもねることなく、自らの「志向」を大事にして倫理観高く仕事を組み立てていきましょうよ、というのが、トライアングルハッピー精神の原点であり特徴であると私は見ています。
ちなみに中江藤樹の「三方良し」は、商売人である「自分」と、その商い先の「客」と、その取引の結果、あらたに身の回りの生活世界に生まれ生じる価値を「世間良し」と呼んでいるはずで、そこには「自利だけを考えずに世の中のために」なる商いをすべきことと、自分を戒めることに役だっている点ではTHと非常に似ています。
■提供価値を自省するきっかけに
さて、THは「売り手(サービス・商品提供者)」「買い手(消費者)」そして「自分」ですから、中江さんが「売り手=自分」としていたのに対し、私が重視するTHは「売り手=自分」ではなく、いわば、「売り手」と「買い手」の関係性を規定し、より高める方向にもっていく第三者として仲介役・コーディネーター・プロデューサーとしての「自分」がいて、それが「世間」の替わりとして第一に在るのです。これこそが「提供価値」を創出する主体者としての「自分」です。
さて今私は「より高める」という言葉をさも自然に使っていますが、ここでひとつ問題が生じています。「より高める」って具体的にどういうことですか?ポイントはそこです。それこそ価値の最大化と同義語ですが、その価値を決めているもの、それが主体である「自分」に他ならないのです。THは、いわば仲人みたいなもの。仲人だったら、紹介した二人がうまくゴールインに至り、それがおお互いに理想とする伴侶であり、その結果、彼らが幸せ度がましたらいいですよね?さらに、仲介した私としても、彼らが幸せであり、彼ら二人の存在が周囲(生活世界)にいい影響を与え、その生活世界の一員として自分までもその良い恩恵を被れたら、いいですよね?
このように自分の理想とする「形」として私たちが生きる生活世界に少しでもプラスになっているのであれば「自分良し」にあたります。
大切なことは、「世間」を決めるのは「自分」であるという考え。つまり、企画発想を「世間」からは始めずに、「自分の志向」から素直にはじめること。そして、自分の介在価値を高めることで、生活世界の幸福度を増していく信念を揺るがさないことなのです。もちろんだからこそ自らの精神を陶冶していくべきなのです。
THとはそのような、企画発案、アイディアの源泉になりうる座組みですので、得体の知れない「世間」などというふわっとした言葉で終始するのではなく、本来自分が目指している理想世界に近づけるものでありたいですね。
■観光振興におけるトライアングルハッピー
2つの異質のものをつなぎあわせて価値を創出する「仲介人=魅力発掘プロデューサー」と規定すれば、THの3者のひとつに必ず入っているのは、「自分」ですから、自分がぶれない限り、自分が「関わる人、世界をちょっとでも良い方向に持っていくのだ」という志があるかぎり、THの他の2者はいかようにも入れ替えられるし、そのトライアングルから生じる幸せの質は担保されます。
TH内の「自分」以外の顔ぶれ組あわせは、観光振興の場合は、「対象エリア」と「訪問客」でも成り立ちますし、「対象小売店」-「消費者」のマッチングでもかまいません。それぞれ自分の志のステージの大きさで、THの影響範囲は大きく変わるでしょう。
■具体例(古代ハスの開花を集客の資源として活用)
ひとつ具体例をあげます。
ある技術力に定評がある個人経営の製鞄屋さんのプロモーションのご相談に乗っていた時のことです。
私は、その近くの公園の集客プロモーションも兼任していました。
その公園は池で開花する古代ハスの花が名物で、ハス祭りも例年開催されていて、その期間は来訪者が増えます。
そこで、ご主人に提案したのは、ハスの花が開花するシーズン限定でハスの花をシンボルにしたマークロゴを描いて鞄を作っていただくことや、その体験を訪問客に提供することです。
さらに、「鞄屋さんだけではなく、地区全体で動いたほうが効果が大きいし、公園に人が来ただけでは経済効果もお慶びの質も向上しない」と感じていた私は、「花が開く喜びを地域全体でお祝い事としたい」というコンセプトを立て、「それがやがてはシビックプライドにつながる」と主旨と目的を明確にし、最寄りの駅から公園に向かう商店街の方にご協力をいただきました。ある割烹店ではハス(レンコン)を使った料理に加えて珍しい「象鼻盃(ぞうびはい)」というハスの葉に酒を注いで、管をストローのように使って飲む呑み方を楽しんでいただく食事プランを作っていただいたり、
別のケーキ屋では、ハスの実をいれたクッキーを作ってもらったり。
先の鞄屋さんの鞄作り体験プランに加えて、それらを刊行していた体験型観光プラン集に盛り込み、さらにまちあるきも企画し、公園も、隣接する商店街全体も個店も「ハッピー」になれるように集客とプロモーションを推進しました。
さらに開花時期が毎年不安定で早朝短時間であるため、訪問者にリアルでタイムリーな開花情報を提供しようと、公園管理者と観光協会と観光情報サイトのWEB編集長にご協力をいただき「今日の開花状態」を毎朝時間を決めて掲載し、読者の便宜を図ることもできました。
これらはすべて
「地域(公園、商店街、個店)」
「来訪者」それぞれの喜びを、
自分が「ハス開花時期にハスにちなんだ商品・サービスを創出する」と決めたからこそ、生まれたトライアングルハッピーでしょう。
下記は、商店街の動きをご紹介したレポートです
第30回 千葉公園で市のシンボル「大賀ハス」を楽しもう!!の1:BayWave
■THの価値を拡大するのはほかならぬ「自分」
「三方良し」とは意味するところが違い、WIN-WINでは全貌が語られない、「自分」が三者のひとつ(当事者そのもの)となって、ハッピーの輪を拡大する「トライアングルハッピー」。ぜひ、みなさんも、自分の価値観に基づいてトライしてみてくださいね。
(画像提供:BayWave、SUDO-BAGS)
【2022年のバッグ制作体験プラン(参考)】
【千葉あそび(2022夏号)No.14】オオガハスデザインオリジナルバッグ制作オオガハスがアクセント!使い勝手最高な帆布サコッシュを作ろう♪ | 千葉市観光協会公式サイト/千葉市観光ガイド (chibacity-ta.or.jp)
最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。
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