夜、改札口にて

あれは、新型コロナウイルス感染者が日本で初めて出た頃だっただろうか。

おいしいピザを食べた帰り、私はN駅の改札口付近でスマホを見ながら、電車を待っていた。

「もうっ。どうしたらいいの〜。」
(バタバタバタ・・・・。)

「もうっっ。どうしたらいいの〜〜!」
(バタバタバタバタ・・・・。)

「もうっっっ。どうしたらいいの〜〜〜〜!!」
(バタバタバタバタバタ・・・・。)

何度と大声で繰り返す甘えた声と、走り戻る音で思わず目を改札口に向けた。

大学生くらいの女子が、スマホに入れた交通系ICカードを、読取り部にかざしても改札が開かず、「もうっ。どうしたらいいの〜〜〜〜!!」
(バタバタバタ・・・・。)と走り戻っているようだった。

戻った先は、少し離れたところにいる男子3名。

最初は男子たちも、こうしたら?あぁしたら?とアドバイスしているようだったが、5回以上は繰り返される同じセリフとバタバタに、最後には彼女が乗る電車を見送ることなく、駅を去って行ってしまった。

そんな男子たちをスマホを両手で握り、つま先・かかとを交互につけながら可愛く見送る彼女。

さて、ここから私に緊張が走った。

男子たちが去った今、彼女は無事改札を抜けられるのであろうか。


男子たちを見送った彼女は、クルッと改札口に向きを変え、表情を変えず前を見据え・・・・

スマホを読取り部にかざし・・・・・・

難なくすり抜けてしまった!

・・・・私が見たこの数分間はなんだったのだろうか。

単なる交通系ICカードの不具合だったのか。それともまだ別れたくないオンナゴコロだったのか。

混乱して思わず呟いた。

『もう・・・・どうしたらいいの・・・』

(cherry)


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