CHANELの香水に見る景色

人間の五感は自分が知覚しているよりもはるか昔のことも記憶していることがあります。小さいころ聞いていたCMソングをたまたま聴くとその当時の記憶が呼び起こされるし、アルバムをめくると写真の中の僕が見ていた景色が目の前に広がったりします。
僕はこの感覚がとても好きで、昔の記憶を辿れるように、その時その時にハマっていた音楽や映画、小説を記録に残すようにしています。これを「記憶のしおり」と自分で名づけて呼んだりしてます。

(ちなみに今の僕を何年か先の僕が思い出す時のしおりになるのはおそらくこの曲になりそうなのでここにも記録しておきます)

「記憶のしおり」を作ることで、過去の自分をふりかえるというなかなかない機会を、少しだけ増やせる気がして、それが嬉しくてずっと続けています。
こういう話をすると、ある人は過去のことばっかり見ずにもっと未来を見ろよなんて言うかもしれませんが、僕からしたらその人が見てる未来も、これまでの過去の延長線であって、今見える未来は思い出の寄せ集めでしかないと思うわけです。

最近はそれでも大きく環境が変わり、否が応でも自分の将来や半年後や明日の行動を描きながら、想像しながら生きなければならないことが多いので、そんな毎日に疲れる時は、自分が作った「記憶のしおり」を開いて懐かしさに浸る時間を作ったりします。もともとアルバムとか写真とか記録を残して見返すのが好きな質なので、この時間はこれからも大事にしていきたいです。

そんな僕なんですが、よく考えると「記憶のしおり」には「匂い」を残せてないなと気がつきました。
当時聴いていた音楽は聴覚、思い出の写真は視覚による記憶です。あと味覚とか触覚とかは僕の中であまり記憶とリンクしてないので一旦置いとくとして、嗅覚って記録しようがないものだなと気づきました。だけど、匂いってめちゃくちゃ強烈に当時を思い出すしおりにはなってるなと同時に思います。
 例えば、休みの日に布団を干した夜のベッドの匂いは、中学生の頃家族みんなで家の片付けをしながら布団をベランダに干したあの日の記憶を鮮明に思い出させてくれます。
 例えば、水戸の京成百貨店のCHANELの前を通った時の匂いは、お父さんが外出する時にインターホンの下に置いてある銀色のよく分からないスプレーをシュッとした時の匂いとリンクします。今考えるとあれはCHANELの香水だったんだなと思い出しながら、子供の頃、これから出かけるんだとワクワクしていた感情が蘇ってきます。

こんな感じで「匂い」は「記憶」と強い結びつきがあってしかも、歌とか映画とか写真みたいに記録することができないものだからこそ、不意にその匂いを感じた時のフラッシュバックの仕方が尋常じゃないんだと思いました。
急にこんなことを思ったのは、上述の通り、先日CHANELの店の前を通った時に昔父がつけていた香水の匂いを思い出したっていう経験と、新しく仲良くなった友達がつけていた香水が、大学の頃仲の良かった友達がつけていた香水と同じ匂いがしたという経験がババッと重なったからです。しかも多分その香水もCHANELでした。

過去をふりかえることは僕の中で、今の自分の所在地を認識するための一つの手段になっていて、これからどうしたいか、どうありたいかを漠然と考える材料になっていると思います。そういう意味で、あの時感じた感情を思い出させてくれるCHANELの香水は、僕の中ですごく特別なものになりそうです。これからもっともっと長い時間を過ごす中で、未来の自分が、思い出したくなるような、懐かしいと思えるような人生を歩んでいきたいなと思います。
そんでいつか、自分を思い出すしおりがCHANELの香水になればいいな。

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