見出し画像

旧時代は終わるも中国の「日系時代」は終わらず

JPINS/文 先日、日本の飲料大手のキリンホールディングスは、中国企業の華潤集団と合弁した華潤麒麟飲料(China Resources Kirin Beverages)の40%の株式を約10億元で中国の投資機関である普拓(プラトーコンシューマー)に売却すると発表した。
同様に日本のもう一つの飲料大手アサヒグループホールディングスも、しだいに中国の飲料業務から手を引きつつある。過去数年の間にアサヒHDは、中国の農業、牛乳会社、そして康師傅飲品公司の株式を続けざまに売却したばかりか、さらに所持していた青島ビールの株式も譲渡している。中国における経営の過程で、アサヒHD傘下のビール業務の発展は順調ではなかった。2014年から、ビールの生産量はずっと大幅な減少を続けている。
1980年代、中国は改革開放をスタートし、グローバル企業が大挙して中国に押し寄せて投資や工場設立を行ったが、中でも日本企業が最も多く、「メイド・イン・ジャパン」は中国市場で高品質の代名詞となり、80~90年代はまるまる「日系時代」だったといえよう。しかし、2008年以降、日系企業は続々と一部の生産能力を中国から撤退させ、松下・東芝・シチズン・村田製作所などが相次いで一部の中国工場を閉鎖した。最近の比較的有名な例では、2021年9月、中国に進出して30年になる大連東芝工場が生産停止を発表、今年初めには日本のカメラメーカーのキャノンが珠海で32年間操業してきた工場の生産を終了した。

日系工場の閉鎖と中国の産業アップグレードの歩調は一致

電子業界から日用消費財業界にまで蔓延し、日系企業の「撤退」は幾度もメディアの注目を浴びている。これらの日系企業の撤退状況を整理してみると、はっきりとした筋道がみえる。それは日系工場の閉鎖と中国の産業アップグレードの歩調が一致しているということだ。

撤退の理由を分析してみると、主に以下のいくつかのタイプに分けることができる。一つは、中国の労働コストが低いという理由で中国の投資を行った日系企業で、中国の労働力価格が絶えず上昇していくにしたがってその維持が難しくなり、労働力価格が中国の五分の一ほどの東南アジアへと移転せざるを得なくなった。例えば2013年には、ユニクロの製品の90%が中国で生産されていたが、2021年になると、中国の代理工場が提供する製品は50%に減っている。二つ目は、産業技術のアップグレードやモデルチェンジのためで、例えばキャノンは、レンズの交換できないデジタルカメラがスマホに取って代わられたことにより、珠海工場を閉鎖した。

この二つの状況は産業アップグレードの必然的法則に属するものといえ、大部分が一種の主動的な撤退・調整で、日本国内でも発生する可能性がある。本当に注目に値するのは三つ目の状況であり、それはメイド・イン・チャイナの勃興により、日本製品が逐次市場から追い出されるというものだ。

その典型が家電産業だ。家電はかつて日本の誇りともいえるもので、1980・90年代には、松下・ソニー・東芝・日立・三洋・シャープなどを代表とする日本家電製品が中国市場を埋め尽くしたが、2000年の時には美的(ミデア)・格力(グリー)、海爾(ハイアール)、創維(スカイワース)、海信(ハイセンス)、TCLなどの一連の中国家電ブランドが市場の主役となり、日本の家電メーカーが全面的に敗退したばかりか、そのブランドと技術すら中国企業へ売り渡すことになり、例えば中国の美的(ミデア)は、東芝家電業務の主体となるテレビ業務を買収した。『日本経済新聞』はかつてこれを一種の悲哀と表現した。

日本の家電メーカー敗退の理由は多くあるが、中でも最も本質的な理由は、中国の超巨大市場という大きさが、異なるルールをもたらしたためで、これは日本企業がいままで遭遇したことのない状況であった。超巨大市場の需要は中国企業に未曾有の規模の効果をもたらし、彼らは製品単価を日本企業がまったく受け入れられないところまで引き下げ、高品質も、「価格キラー」の前ではまったく太刀打ちできず、日本家電はまずミドル~ローエンド市場から排除された。のちにハイエンド市場での競争のなかで、松下は巨額を投じてプラズマテレビに布石し、中国企業は液晶路線を選んだが、後者は大規模経済の助けを借りて前者を打ち破った。

家電だけでなく、ほとんどすべての消費品で、日本製品はかつてコストパフォーマンスに優れるという利点をもっていたが、今のような薄利時代には、それはほとんど消え去っている。家電からビールまで、すべてこの筋道で見ることができる。

中国の産業構造のアップグレードがまさに日本企業が新市場を開く余地となる

それならば、中国の「日系時代」はすでに終わっているのか?この言い方は正しくない。産業構造という角度からみれば、中国の産業構造のアップグレードはまさに日本企業が新たな市場を開拓する余地となる。主動的な変革を行い、中国の産業アップグレードと市場変化リズムを正確に捉えた日本企業は、今まさに黄金時代を迎えていて、そうした企業にとって、中国市場は成長が最も早く、利潤が最も大きい市場となっている。

オムロンは2003年に中国市場に参入し、主に液晶バックライトパネルなどの光電子機器を製造していたが、スマホ市場の革新につれ、2018年には蘇州オムロン工場が正式に破産を宣言した。しかしこれと同時に、オムロンは上海コントローラー二期工場の拡張を行い、生産能力を倍増させた。それはオムロンが「中国製造2025」計画で光電センサ、近接センサなどの工業用コントロール設備の需要が爆発的に増えるとみたからだ。今では中国のインダストリアルインターネットの波の到来により、オムロンのPLCなどの製品は供給が需要に追い付かず、それも中国国産品の3倍以上の価格で、さらに今年1月、オムロンは商品価格を全面的に10~20%引き上げるという発表を行っている。中国の一部の業界メディアは、オムロンの製品は他に代えるものがないため、中国ユーザーは値上げを飲まざるを得ないと致し方なげに記している。

昨年末、東芝(中国)有限公司の宮崎洋一理事長兼総裁はメディアの取材に対し、東芝の大連工場閉鎖は中国撤退を意味しているというような話は、完全に事実無根だと語った。ここ30年、中国企業の製造能力は飛躍的に向上し、製品の質もとてもよく、驚くべき進歩があったが、中国と日本のメーカーは異なる分野でいまだそれぞれの優勢をもち、今後己の優勢を発揮し、相手の不足を埋めることができると宮崎理事長は考えている。現在東芝グループの中国における売り上げに一番貢献しているのは電子部品で、売り上げのほぼ4割を占めている。

中国の産業アップグレードの需要のため、新世代の電子情報産業は爆発的な成長をみせると考えてよく、特にハイエンド半導体分野では、ますます多くの日本企業が中国に配置されている。

注意すべきは、米国の圧力のため、日本の大型半導体の大手企業の中国での足取りは「恐る恐る」といったものだが、フェローテックホールディングスやRSテクノロジーズなど一部の中小企業は、この機を狙って中国で生産を拡大させていて、中国投資者から熱い視線を送られていることだ。例えばフェローテックHDの精密石英製品業務は中国大陸で約40%の市場占有率をもち、さらにフェローテックが株式を保有する寧夏盾源聚芯、杭州中欣晶圓という二つの会社は、中国A株市場上場の準備をしているところだ。2021年12月1日、海通証券は杭州中欣晶圓半導体股份有限公司の紹介レポートを発表し、A株上場を予定している。2022年1月18日、光大証券は寧夏盾源聚芯半導体科技股份有限公司の状況紹介広告を行い、A株上場を予定している。

中国では、「日系時代」が終わったのではなく、古い時代が終わったのだと言うことができるだろう。しかし、日本企業がちゅうちょして決められず、タイミングを誤り、中国市場の潜在力や未来を十分に認識していなかったら、完全に「ゲーム・オーバー」になる可能性もある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?