父親の「鳴き声」

11月16日 父親が唸ったり叫んだりを繰り返す。

このところ父親は、鳴き声のような無意味な声をずっと出している。母音だったり「シ、シ、シ...」だったり、その時の口の形のまま、起きている間はずっと声を出している。たまに口を大きく開け、目を見開いて、大声で何かを叫ぶ。だがそれは意味をなす言葉ではない。

以前見舞いに来た親戚はその姿を見て、ショックで崩れ落ちた。片田舎の昔の人だから、「変な精神病の人」に見えたのだろう。精神病も神経病も、出てくる症状は共通のものが多いので、当たり前だ。

夜間になると、父親は唸り声をずっと出し続ける。基本は「アア...オオ...」とクジラのような低い声で唸っていて、時々「キュウキュウ」といった喉を絞った鳴き声のような声を出したり、「アアアー!」と叫んだりもする。叫ぶときはものすごい声量で、同時に全身の反射でバネのように動き、ベッドから落ちそうになる。物音がすれば、こちらもすぐ飛び起きなければならない。落ちて大量に出血でもすれば、それこそ大惨事だ。

この筋肉の不随運動を、父親は「痛い」と表現した。筋肉が勝手な力で引きつっている時、「イタイ...イタイ...!」と叫んだ。歯磨きの際、指示を理解して口を開けていることができないので、看護師が仕方なく無理に口を開ける。その際も「苦しい」と言った。父親は、まだいくつかの言葉を覚えている。「痛い」「苦しい」「眠い」。最近発したのはこの三つだ。ただ、構音障害があるので、なんと言っているかは家族しか分からないと思う。

介護休業を申請する際に必要な書類を、母親が運転するレンタカーで、一人暮らしのアパートまで取りに行った。行き帰りの車の中では、母親な妹と色々な話をし、気が晴れた。ふだん父方の親戚とばかりいるので、父親と折り合いの悪かった私は、意外と神経を使うのだ。

鳴き声や唸り声を発しながら大暴れする父親には、もう人間らしさが無くなってきている。その事実をずっと認めたくなかったが、最近は認めざるを得なくなってきた。今日も私の腕には父親の爪が食い込み、傷ができていた。

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