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笑顔

11月27日 妹が23歳の誕生日を迎える。

妹は、この世で唯一の私の本当の理解者だ。

今まで歩んできた道は全く違うが、家庭に結びつくことにおいての立場は、私と同じだからだ。具体的に言えば、同じ父親と母親を持ち、両親の離婚を経験し、それに付随する色々と不便だったことも共有した。祖父母をはじめとする親戚それぞれの良いところと悪いところを、感じたままにお互い話し、理解しあってきた。お互い大人になっても一緒に風呂に入り、愚痴を言い合えば、その後は楽になった。

出産し子育て中の妹は、まさかこんなことになるとは夢にも思わなかっただろう。妹には、大学卒業、結婚、出産、そして父親との別れと、人生における重要事項が畳み掛けて起こることになる。

妹には、私と父親からプレゼントを用意した。実は最近の楽しみとして、家から施設まで約45分かけて自転車で通っている。道中に大きなショッピングモールがあり、助かった。

明後日、妹が父親に会いに来る。どうか父親がなるべく起きていて、笑顔を見せてくれれば、と思う。


11月28日 母親と父親と私で、親子3人で大笑いする。

今日は母親が仕事帰りに父親に会いに来た。母親はここ最近、毎日夜にはこちらに来ている。父親ははっきり分かるときもあれば、ぼーっとしているときもあり、状態はまちまちだ。

先日も私が幼稚園生のころに子供番組でよく流れていた歌を口ずさんだら、父親がとてもはっきりした目で笑ったことがあった。今日は、父親の汗を拭いている濡れタオルが臭くなってしまい、臭いに気づかずずっと使っていたのが面白くて、母親と大笑いした。すると、父親も大笑いした。母親が洗面所でタオルを洗っている間も、ずっと声を出して笑ったままだったし、私の方を見てはにかんだりもした。落ち着いてから「楽しかった?」と聞けば、はっきり頷いた。

あの時、点滴をせずに自宅で自然のまま看取る選択をしていたら、今日の笑顔を見ることはできなかった。自分のエゴで今も父親を苦しませている、と私は思い込んできたが、父親はきっと苦しいだけじゃないな、と思った。それくらいに、今日は心からの笑顔を見せていた。

母親が帰った後、父親を抱きしめた。「今日も生きていてくれてありがとう」と感謝を伝えた。父親は眠ったままだったが、左手を私の背中に回してくれた。その体は、まだしっかりとあたたかかった。

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