ブックオフ

コンセプトメイクって、いったい何だ?

こういう書籍を読むと、いつも「後付の理屈」のように感じます。本書自体はそれなりに面白くて、コンセプトメイキングの大切さが書かれています。ただ、それはそれで正しくても、「コンセプトとは、こう考えろ」とか、「コンセプトとは新しい価値観の提案だ」とか言われて、過去の成功事例を並べられようものなら、ちょっと反発してしまいますね。
※冒頭画像は、本文事例として登場するブックオフの店頭写真です。文中のリンク先からの借用です。

「ちょっぴり贅沢」というキーワード

当たり前の理想論が書かれている本書から一度離れてみましょう。「古い習慣や既成概念を壊して」と、使い古されたフレーズにもこだわらなくて結構です。そのための事例として本書にも取り上げられているローソンの「プレミアムロールケーキ」を挙げます。知らない人が見ると、ロールケーキを一人分の量に切っただけじゃないかと思われてしまいます。食べてみると本当にうまい。なんだ、じゃあ、うまいものをそこそこの価格で作ってコンビニにばらまけば、ヒット商品になるじゃん。しかも、当時のコンビニは、女性をスイーツで引き寄せるにはあまりに不十分でした。要は、薄利多売で、ちょっぴり高級な一人用デザートを作って、若い女性層を狙おうとした。まぁ、そんなふうに解釈して良かったのかもしれません。本書に長々と書かれているようなことは、後付に思えてしまうものです。

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馴染みのあるものと、新しいこと

大事なのは、これまでこのような商品がなぜ開発されてこなかったかです。実は、その理由を考え抜くことで、本商品のコンセプトは必然的に逆転の発想を得て、一気に飛躍的な変化を遂げていたのです。本書でも強調されていますが、コンセプトとは、大きくジャンプアップして、何かを変えることにあります。ただし、ゼロからすぐ何かを生み出せるわけではありません。もともと着目していたのが、誰もが知るロールケーキだったこと、ここに大ヒットの出発点があり、当初はその改良版を目指していただけなのかもしれません。スイーツがとりわけ女性の楽しみであったらにも関わらず、従来のロールケーキは、大きすぎでかつ「大味」、口の中でモサモサして、お腹を満たすのが目的のような男性向け食品でした。女性向けにするならすべてその逆をやったらどうでしょうか。家に帰って行儀よく座りながら、一品もののロールケーキを上品に食べてもらう。そんなコンセプトにした途端、ナイフで切る必要もない、スプーン片手に味わう、などの発想がもたげてきます。生クリームをスポンジに対して後のせするという生産上のヒントもそこで生まれたようです。ここらが、商品のコンセプトから延伸した部分(骨格)です。血肉としては、スポンジやクリームの品質を一段上げたこと。コンビニだからこそ可能になったものですが、薄利多売ー前提に血肉骨格すべてに大きな変化を与えた時、そのコンセプトは、コンビニスィーツの王者を目指すという言葉に昇華されていました。僕なりの解釈ですが、本書筆者が言う、差別化されたストーリーとは、従来の改良から始めて少しずつモノになっていくのだと思います。

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「中古」だからではなく「立ち読み」で成功した

もうひとつ事例を見ておきましょう。リユース市場の拡大を牽引するブックオフです。もともとは、古本への潜在ニーズを掘り起こすために、駅前出店とチェーン化、そして「立ち読み」に開放的な態度で臨み、急成長したビジネスモデルでした。しかし、書籍やCDの市場規模が縮小に転じる中、同社もその流れに抗えませんでした。その結果として、商材を変えてみるのですが、最初にチャレンジした中古家電はイマイチでした。決して間違いのないコンセプトだったはずですが、裏目に出てしまったのです。僕なりの解釈は、中古本には「立ち読み」があったのに、中古家電には不安しかなかったこと。このビジネスの価値は、「中古=安い」ではなかったのです。本書に書かれていた「捨てない人のためのインフラ」になるという目論見(コンセプト)は、失敗に終わったかに思われました。

「中古」で、「地元に必要なもの」と加えてみると

コンセプトだけでは意味がない。それが僕の一貫した主張です。コンセプトはストーリーにならなければならない。そのためには、コンセプトを核にした骨格を築き、できれば血肉を作り変えた方がいい。その上で、もうひとつ、何らかの価値を加えてみるといいでしょう。ブックオフの事例で言うなら、「(リユースの)インフラになる」と宣言していたようですが、それで中古家電を手掛けたのでは、メルカリ(他者)との差別化にすらなりません。言葉通りに解釈するなら、小売業としての立場を宣言すべきでした。小売はローカライズが最も重要で、現地の人が何を必要としているか、商材を見出してその買取を強化する。そんな地味な努力が必要です。ブックオフは徐々にそのことに気づいたのでしょう。ホビー、特にフィギュアだったり、サーフボードであったり、地域ごとのニーズと商材に寄り添うようになりました。結果的に、メルカリなどのネット勢力に競り勝ちました。小売に舵を切り、地元に最適なリユース商材を集めることで、日本全土のリユース市場統合を目指したメルカリとは決定的な差別化を果たすことができたのです。小売宣言ですからもちろん、その店舗効率を考えて、駅前出店を見直したり、郊外出店を強化したりにも踏み込みました。血肉の入替えです。もし、ブックオフが、本やCDなど再生可能コンテンツのリユース革命という当初の立ち位置にこだわり続けたとしたら、商材を変えたとしても、今日とは別の骨格や血肉が必要だったかもしれません。

コンセプトで飛躍するためのステップ

本書のステップを応用して、僕なりの提案をしてみます。コンセプトを見出すとは、既存ビジネスの改善や、社会課題への取り組みでいいと思います。革命だとか、ジャンブアップだとかは、後で考えればいいことです。
1)まだ実現されていない、コンセプトを思いつく。
2)それがなぜ実現されてこなかったかを調べてみる。
3)どのように実現するか、複数の選択肢を考え出す。
4)そのために何を変えるのか、明確に言語化する。
※価値観、意識、視点、習慣、ルール、常識、領域、方法などを変える?
5)ちょっとこだわって質=価格を上げてみる。
これらの、骨格づくり、血肉の入替えを行う中で、コンセプトが徐々に革命ストーリーへと進化していく。そのステップを楽しめることが重要です。本書は若干頭でっかちの説明になっていますが、ブックオフの事例では、小売・ローカライズで商材を大きく変えた具体的かつ地道な努力が、業績の復活につながったのだと思います。

最後に、「だから売れる!ずっと売れる!」という本書・帯のキャッチフレーズにも苦言を呈しておきます。間違いです。本書には、各商品・事例の本当の成功ポイントは何も書かれていません。単に後付けのロジックが付されているだけです。成功事例がザッと書き並べてあるので、それを個々に参照するのには便利でしょうが、深堀りはされていません。ただし、コンセプトを見つけるための作業には、フォーマットがあり、本書の記述も参考にできます。そのフォーマットあるいはアイデア創出シートなどを使ってみれば意外と難しくはありません。簡単に言えば、変えるんだという強い意識をもつことが、ヒット商品の根源であるのだと思います。もしかすると、本書の役割は、何かを教えてくれるのではなく、読者に、自分で考えろと言って、ヒントをくれているのかもしれませんね。

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