永井孝尚

精一杯考え抜くのがマーケティング

ビジネス書ではよく、売る方法論を書いた本や、文書の書き方を指南した本が出版されています。しかし、売るための教本なのに、その本に魅力を感じなければ、その著者の教義の内容にも疑念を抱いてしまいます。
※冒頭画像は、本書のマンガ版表紙から引用したものです。

その点で本書はさすがでした。表紙から中身まで、見事に読者を誘導してくれます。書いてある内容はすべて従来からある知見そのままなのですが、本書が唱えるユーザー視点が本の構成にもしっかり反映されています。

機能が価値ではない、価値こそが価値

まず、最初の事例は時計です。腕時計をしている人の数は減ったはずなのに、なぜ広告が増えているのか。そんな疑問から読者を誘います。よくよく市場を見ると、ユーザー数が激減する一方、平均的な商品単価は著しく上がっていたようでした。100円均一のお店に、精度の高い時計が並ぶ時代です。有名ブランドの商品でさえ、価格の下げ圧力は相当強まったはずです。しかし、各ブランドは不断の努力で、商品価値を防衛しました。一番のポイントは、その価値の重点を適切に移したこと。時間の精度競争という軸から、ライフスタイルやファッションに馴染ませる、あるいは高機能を活かして様々な活用用途に広げるなどの新しい軸を増やし、価格を引き上げることに成功しました。日本製の有名ブランドはいずこも非常に健闘しています。ただ、海外のスイスブランドはさらにその上を行きました。センスのいい広告がどんどん増え、街中が時計ブームかと錯覚してしまうほどです。

買わせる広告、後悔させない広告

広告と言えば、商品の販売宣伝のためと思われがちですが、実は買った後のユーザーのために、彼らのプライドをくすぐるのも大切です。ブランディングのための宣伝とはまさにこれを指しますす。ある人は大金をはたいて買った初めてのベンツ車。時折出くわすベンツのTV-CMを見たりすると、顔がひとりでにニヤけてしまうことでしょう。買ってくれた人を後悔させない(=満足させる)。これが、リピーターを生み出す秘訣です。

ユーザーを適度に「信じない」ことが大切

人が商品に魅了される時、そこには複数の段階があります。リピーターとは、最終到達地であり、それを超えれば、他人にも推薦してくれるプロモーター(応援団)になってくれます。しかし、そこに至るまでには、多くの配慮が必要です。気づいてもらい、使ってもらい、さらに納得してもらう。その各段階に効率的にアプローチすることを「マーケティング」と呼びます。本書は、その基本を身近な事例から学びましょうと書いています。最もよい方法は、「あ~、これこれ」と、消費者に驚きかつ喜んでもらうことです。過去にも、たくさんのヒット商品がありました。たとえば「女性にも加齢臭」「使い捨て掃除モップ」「冬のアイス」。いずれも逆転の発想で潜在ニーズを顕在化させた商品です。ユーザー視点になることで、メーカーの限界を突破できるかもしれません。またユーザーの言葉を鵜呑みにしないことで、ユーザーの潜在的な思いに答えを見つけられる可能性もあります。

ここまでの内容にて、マーケティングでの重要な三点のことを説明してきました。これらの三点を見直してみれば、商品や商売の仕方にあらたな工夫ができるはずです。
1)商品の価値の比重を変えること、
2)買った顧客こそ大事にすること、
3)メーカーの常識を乗り越え、ユーザーの心の声に耳を傾ける。
しかし、もっとも大切なのは価格です。価格を軸にして、メッセージを明確にします。目標とするユーザーの価格観をつかみ、いくらなら何を期待しているのか、そしてそれらをいい意味で裏切る。そうすれば、驚きと感動を与えられるかもしれません。

先ほど、人が商品に魅了されるには「段階」があると書きました。さらに、人も様々です。新しい商品に飛びつく人もいれば、最後まで習慣を変えない人もいるでしょう。最初にどこかで小さな(ニーズの)爆発を起こし、そこから次のターゲットに届ける。これらをうまく設計すれば、マス広告に頼る必要はありません

まとめます。マーケティングとは幅広い概念ですが、すべてにロジックが存在します。深く考えないのは損です。誰に何を、どこでどのように、いくらで仕掛けるのか。最適な組合せで、成功への一筋の光を見つけましょう。

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