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マーケティングの本質入門:「あっ、欲しい」の創り方

マーケティングの講義本としては極めてスタンダード、類書でもたびたび登場する内容・事例がメインでした。講義(対話)形式なので、真面目に読めば非常に分かりやすい。入門書としてはかなりの良書で、お薦めです。さて、その本書を、三枚におろしてみましょう。ちなみに本書は、そのタイトルからして秀逸です。「あ、欲しい!」、このタイトルで僕自身も思わず本書を手に取ってしまいました。よく、類書でありがちですが、マーケティングの本を名乗りながら、みずからを売る工夫が出来ていない本は、読みたいと思えないですね。その点で、本書は合格でしょう。
ちなみに、冒頭画像は、「あ、(こんな商品があったら)欲しい」と思えた絵です。具体的には下記リンク先をご覧ください。面白い(笑)。

誤解だらけの「4P」

市場調査やブランディング、「AISAS」からペルソナまで、主だった用語は網羅されています。しかし、それらの用語を解説するだけなら、本書を紹介する意義は弱いでしょう。肝は、講師の方と生徒たちとの質疑応答にあります。たとえば、お客様に「あ、欲しい」と思わせる。これは新商品でも、既存商品でも、マーケティングの工夫(4P対策)でやり方を見いだせるはずです。
1P=Product:まず、その商品の特徴が、それを欲する方に届くような仕様、あるいは文言で示されているか。
2P=Price:その商品が、目標顧客の買える価格帯で設定されているか。
3P=Place:その商品をどこで知って買うことができるか。
4P=Promotion:その商品を買いたい雰囲気が演出できるか。
教科書的には、これらで間違いないのですが、このまま伝えてしまうだけでは、「そんなことくらい、分かっているよ」となるでしょう。そこで重要なのは、僕らが、その4Pを勘違いしていないことです。

消費者向け商品(B2C)を前提にしますが、顧客はさほども時間を割いて、売り手商品のことを考えてくれません。当然です。毎月数十万円のお給料をもらって、自社商品の販売を考えている僕らと比べて、お客様が数千円あるいは数百円の商品を気に留めてくれる時間など、ほんのわずかです。ましてや、一瞬一瞬で他の商品と比較しながら選択するわけです。コンビニの商品なら2秒くらいだと言われています。プロのマーケターの方もこの一瞬を意識しています。下記は、以前にNHK(プロフェッショナル;仕事の流儀)で放送されていた内容です。

「私のあの時のあのシーンで、このお菓子ピッタリかも!と2、3秒間で思わせる、思って頂けることが大事で。何らかのシーンに合うなって思わないと絶対お客さまに手を出して頂けないですよ」

NHKプロフェッショナル(仕事の流儀)

コンビニの棚の目立つ位置に置かれたり、販売サイトの目につく位置に掲載されたり、そんな「B2B」式の営業でも売上を補いえるでしょう。しかし最終的には、その商品自身の発信力であったり、メッセージ性であったり、あるいは既存客からの評価の高さやリピート率が販売の数字をなしていきます。「B2C」の配慮は、絶対に欠かせないのです。上述の「4P・勘違い」とは、ありふれた商品を作ってしまったり、コストの積み上げで価格設定をしてしまったり、販売力に依存してとりあえず小売の位置を確保するだけだったり、知名度のみを追っかけた非効率な宣伝を続けていたりしていては、やがて競合品や類似品に競り負ける事態を引き起こしてしまうのだと思います。そう言う僕自身も、(頭では分かっていながら)しっかりやりきれず、痛い目に遭った経験があります。

商品の特徴を、顧客の利益に

さて次に、「AIDMA」と「AISAS」。今日ではマーケターの誰もが知るネット時代の変化についての考察です。人が商品を知ってから買うまでの行動プロセスにおいて、中間に断絶が生じると、お客様は買いません。従来のポイントは、商品の魅力を、いかに顧客の興味に沿って、行動に変えてもらうかです。いわゆるAIDMAの「M」のところです。下記に、グロービス経営大学院から引用した図を転載しますが、同サイトはビジネスに必要な情報が盛りだくさんなので一読をお薦めします。そのMとは「欲しいと思うが」ためらっている顧客に、あとひと押しの動機を与えること。一番理想的なのは、顧客が能動的に決められるよう仕向けることです。店頭での時限的なキャンペーンやおまけの配布、お試しセット、無料の会員登録でクーポン配布など、この部分は、ネット時代の「AISAS」に変わっても同じです。念の為に、「Web担当者の知識」というサイトから図を引用しておきます。今日の新しいポイントは、購入に至るハードルが低くなった分、(SNSによる)口コミの重要性が増したことです。せっかく買ってもらえたなら、その方々を活用して、お客様を増やすのが合理的でしょう、というわけです。アイドマだろうが、アイサスだろうが、決して、プロマーケターの秘伝などではなく、ごくごく常識的なロジックにすぎません。

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作戦がマーケティング、実行性が最大の課題

よく、「マーケティングは現場から」という声を聞きます。マーケティングは明らかにセールスとは異なります。現場で戦うセールスに対して、作戦を立案遂行するのがマーケティングです。ではなぜ、「現場から」などと言われるのでしょうか。言うまでもなくそれは、すべての作戦が現場で実施され、現場の顧客によって成否が決まるからです。どれだけ立派な作戦を立てても、思う通りに実行されなければ、それは絵に描いた餅である、当然の論理ですね。現場が喜んでうけいれる、または必要だと納得してくれる作戦であること、その上で現場の近視眼的な意見には左右されないのが理想です。言い換えると、「現場から」思考し、全体最適を図るという意味です。具定例を添えておきましょう、マクドナルドです。新型コロナの影響で一時店舗を閉めましたが、テイクアウトに対応しつつ、いち早くイートインを再開。見事に業績を戻しています。大きな施策(ドライブイン、モバイルオーダー、テイクアウト対応)を行いながら、現場が回せるようにできていること。彼らは現場教育を徹底しているようですから、常に現場視点でその実行性を確認しているのだと思われます。アルバイトの方のレベルが高いのも同社の特徴ですね。

ビジネスのABC(アナロジー・ベネフィット・カスタマー)

最後に、もうひとつ重要な点を上掲書から学んでおきましょう。「売れる商品」にするために、僕らは何をすべきか。第一に「アナロジー」:世の中の売れているモノ、人気のあるモノから、学んでみることです。単なる猿真似ではなく、ヒットした背景や理由を分析し、類推して自社に活かします。第二に「ベネフィット」:買いたい気持ちになるお客様起点のポイントを見つけます。面白そうだし、ハズレはなさそうと思われたらシメたものです。第三に「カスタマー」:要はターゲット顧客のことですが、わざわざカタカナにしたのは、絞り込む必要があるからです。とことん絞れば、誰にどのようにどこで宣伝するかが定めやすいはずです。マスに売ろうとせず、狙いを絞った相手に、「あっ、欲しい」と思わせる。そしてそのロジックがヒット法則に合致していれば、ビジネスとして成功する可能性があります。ただし、注意すべきことは、マーケティングが相手にするのは消費者の「心」です。心では、色々なことを当たり前と思わない方がいいでしょう。不完全な商品でも、紹介の仕方によっては魅力的に映ります。たとえば、ロボット型掃除機。細かいところのゴミが取れないのではなく、目立つところのゴミをいつもきれいにしてくれると表現し直せば、その商品像は一変するはずです。またたとえば、レトルトカレー。最近は高級化が進んでいますが、あえてひと手間かけて、家庭で高級カレーの味わいを楽しもうとしてもいいですね。さらにたとえば、外食店舗のレジに値引きクーポンを置いておきます。当日使用可とあれば、もともとからして値下げしているのと同じですが、消費者の気持ちは違います。クーポンをわざわざ手にして、「お得に感じる」ものなのです。心が満たされることを顧客満足と呼びます。

以上、マーケティングの作法を知っておくことで、商品開発から販売促進まで、幅広く応用できることを知っておきたいですね。アナロジーについてはちょっと馴染みが薄いので、有力なノートを下記にご紹介しておきます。



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