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小説 カフェインpart10

わたしは緊張しながらいつもより若干高い声を出して尋ねた。
「私、大野と申しますが、インキョドーレコードさんですか?そちらはレコード会社さんであってますか?チラシを見てお電話しました。」
「インキョドーレコードなんて存在しません。それはおふざけフライヤーですから。」
「ン?」
「あぁ懐かしいな。真に受けられたんですね?自分は隠居堂というバンドをやっている木下と申します。そのチラシはライブ会場でふざけて配ったものです。あのー、ライブに来ていただいた方ですか?それともメンバーの知り合いかな。客なんてほとんどいないから。」
「池田千穂さんの知り合いです。」
わたしはカフェインの本名を告げた。
「あぁ池田の知り合いですか。元気でやってますか?全然会ってないからな。最近は。」
カフェインはどうやらバンドを組んでいたらしい。そんな話は聞かされていない。
「池田、まだベース弾いてますか?池田の曲で好きなの結構あったんだけど、何も言わずに練習に来なくなっちゃってそれきりなんですよ。」
「今は元気でやっています。」嘘も方便、死んだなんて言って色々尋ねられるのは勘弁だ。
「池田さんはいつ頃バンドを抜けちゃったんですか?」
「五年前…ぐらいになるかな。」
五年前のカフェインはバンド活動をするほどの元気はあったということだ。バンドを辞めたのはそうかうつが悪化したのだろう。
「いらいらどめって曲ご存知ですか?」
「あれは池田が作ってきた最初の曲です。自分が唄っていたんですが。あのー今仕事中なもので、これ以上はちょっと…。すみません。」
 木下とやらはそそくさと電話を切りやがった。あれはカフェインの処女作なのか、で、さわやかな木下君のために作った曲。

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