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小説 カフェインpart13

そういえばうちの施設の音楽教室の時間にカフェインが即興で歌をつくったことがあったっけ。カフェインの言う通りに馬場君がギターで伴奏してさ。
「タイトルは施設です。」
そのまんまじゃーんとみんなに突っ込まれていたんだけど、
「へへへ、この施設のこと唄ってんだからタイトル施設でいいじゃないですか。」ってにやにやしていた。カフェインの声は低くてハスキーだったが柔らかだった。みんなでその歌を聴きながらちょっと涙ぐんでしまった。名曲誕生!カフェインはふざけながら歌詞をさらさらとイラストロジックの用紙の裏に書いた。あの紙はたしか涼子さんがもらったはずだ。
カフェインの曲に感動した涼子さんは、どうしてもその歌詞を持っていたいとあの子に頼んだのだった。
施設では、カフェインの死は表向き内緒になっているが、こういったことは風のうわさですぐに伝わる。わたしも涼子さんも馬場君も周知だ。施設に通っているほとんどの人が知っていることだ。職員さんに聞いても池田さんは退所されましたという答えしかくれないけれど。
涼子さんを新松戸駅前のコメダ珈琲店に誘ってみる。カフェインが死んでから涼子さんのうつ病は悪化してしまい、施設をずっと休んでいるみたいだ。わたしも、意気消沈している仲間の憂鬱な表情を拝んでいたくなくて行ってないんだけど。涼子さんは友達やペットの死に喪失感を物凄く感じてしまい病状が悪化してしまうのだそうだ。
わたしはどうしてもカフェインの施設の詞を読みたかったので持ってきてもらうことをお願いした。涼子さんはコピーを取ってもいいと了承してくれた。
二人でカフェインの愛したコメダ珈琲店で彼女を弔おうと約束した。
 

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