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忘れられない患者さん

寒くなるといつも思い出す患者さんがいる。

看護師6年目の冬のこと、珍しく関東にも大雪が降った。

雪かきをしたことがきっかけで脳動脈瘤が破裂し、救急搬送されてきた38歳の男性、山下しんごさん。

(※患者情報は、個人を特定されないためにフェイクをいれています)


山下さんは、搬送されてきた時には治療出来る状態ではなく、あと数日の命であった。

人工呼吸器に繋がれて意識はない。

山下さんは、奥さんと13歳の息子さんがいた。

数日前から頭痛がすると言っていたと、奥さんが教えてくれた。



山下さんが搬送されてきて、3日目に私が受け持ちになった。

夫の死に立ち会いたいと、奥さんは3日間、病院で付き添って泊まっていた。


とても明るい奥さんだったが、3日間も病院に泊まりとても疲れていたようだった。

一度、帰宅することも提案したが、奥さんは付き添ってあげたいと帰らなかった。


愛されていた旦那さんだったんだなぁ、その時強く思った。


それと同時に、患者さんが亡くなった後も、奥さんは生きていかないといけない。

その奥さんが悔いのない最期を迎えてさせてあげないといけないと思った。


家族が1番辛いことは、何もしてあげられないことだと思った。


私は奥さんに旦那さんにしてあげたいことはありますか?と問うたが、

充分、看護師さんにはよくして貰ってるので大丈夫です、と言われた。


人工呼吸器に繋がれた患者に、医療知識のない人が何ができるかなんて、考えもつかない。


私は、奥さんに、私と一緒に旦那さんの身体を拭きませんか?と提案した。

奥さんは、いいんですか?と戸惑いながらも、一緒にやりたいと言ってくれた。


私と後輩看護師、奥さんで身体を拭いた。

足浴も一緒に行った。


奥さんは、しんごくん、どう?気持ち良い?足湯なんて、気持ち良いよね。と明るく声かけながらしてくれた。

奥さんに患者さんがどんな人だったのを聞いたら、とても明るく、少し愚痴っぽくなりながら沢山話してくれた。


子供の面倒をよく見てくれたこと、

几帳面で仕事もしっかりしてたこと、

弱音を吐かない人だったからもうちょっと頼って欲しかったこと、

息子はパパが大好きなこと。



こんなこと言ってたら、怒られちゃうわね、と奥さんは笑った。

山下さんはこの若さで、妻子を残して旅立つことはとても悔しいだろうなと容易に想像がついた。


山下さんが入院して5日目に、私はまた山下さんの受け持ちになった。


山下さんは、その日に息を引き取った。


奥さんは、泣きもせず、たた真っ直ぐにこう言ってくれた。


あなたに看取られて良かった、と。


私は、手が震えた。


看護師はいつも、患者さんや家族にこうしてあげたいという看護観がそれぞれにあって、

でも看護師側の自己満足なのかもしれない、患者さんや家族にとって迷惑になるかもしれないといつも考えている。


この時、初めて私が提案して行ったことは相手のためになったのかもしれないと思った。


そして、今回 #キナリ杯  に応募して、

たくさんの人に私の文章を読んでもらいたいと思った理由はもう一つある。

山下さんの病気、脳動脈瘤は、破裂する前に発見すると、手術で治る病気である。


もしあの日、雪が降らなかったら?

頭が痛かったのをほっとかずに受診していたら?

あの家族は今も変わらず、三人で暮らしていたかもしれない。


救急看護師をしていると、もっと早く病院に来てたらと思ってしまうことが、本当によくある。


どうか、どうか若くても、健康診断を受けてください。


不調に目を瞑らないで受診して欲ください。


患者さんがいつも気づかせてくれる、

健康は当たり前ではないってことを多くの人に知ってもらいたいと強く思います。


気づかせてくたれた、山下さん、本当にありがとうございます。

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