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STAY HOMEの家庭料理がアフターコロナのヒントに|HOUSE NY 谷祐二さん

緊急事態宣言が発令され、外出自粛が呼びかけられた5月。STAY HOMEでおうち時間を過ごす方々に、少しでもCHEESE STANDらしいメッセージを届けできないかと考えて、私たちのチーズを使ってくださっているシェフの方々をお招きしたインスタライブを企画しました。テーマは「with coronavirus 飲食店の未来を語りましょう」。
 手前味噌ながら、自由な感性で料理を創造するシェフにご愛用いただいていることもあり、コロナ禍でもしっかりとしたビジョンで、芯のあるお話を聞くことができました。
 全7回のシリーズの第1回目は、ニューヨーク(NY)で「HOUSE NY」の新店オープンの準備をしていた谷祐二さん。ロックダウン(都市封鎖)という日本とは異なる状況のなかで谷さんは、どんなことを考え、どんな未来を描いているのか、CHEESE STAND代表の藤川真至が話を聞きました。
(インタビュー日:2020年5月5日)

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根本にたち返ってナチュラルな人が増える

――コロナ以前以後で、変わることと変わらないことがあるとがあるとしたら、どんなことだと思いますか?(藤川、以下同)

世間が変わるか変わらないかは、僕には判断できないけど、僕自身としては、素直で本物で基本的なものしか残らないんじゃないかなって思っています。おそらく、いろいろなことが淘汰される世の中になると思いますね。

日本に比べて海外では、自分の意見を主張する人が多い。だから「いらないものはいらない」「いるものはいる」っていう個人の意見の強まりは、さらに加速しそうな気がするよね。その一方で、保守的だったり、国家主義に向かったりするんじゃないか、という意見もあるよね。たしかに物理的な閉鎖はあるとは思うけど、僕としてはすごくナチュラルな人たちが増えていく気がしている。根本に立ち返るってことかなぁ。僕らが東日本大震災で感じたようなことを、全世界の人たちが、コロナによって感じているんだと思うんだよね。

――たしかに、東日本大震災では、飲食業界が横に繋がるようになりましたよね。

そうだよね。勝ち負けでなく横に広がって繋がりをつくっていくみたいな。あのときのように物理的な問題よりも、内面的な繋がりを充実した方が良いというふうになると思う。そうすると人が優しくなっていくような気がする。優しくないと、逆につまらなく感じる世の中になるんじゃないかな。そういうことが、へんな言い方だけど「コロナのおかげ」で広がるような気がする。

――飲食店の営業が再開しても、すぐには人が戻ってこないように思っていますが、谷さんはどう感じていますか?

飲食店に限らず「リモートでほとんどできるじゃん」とか、「こんなに人がいなくてもよかったよね」、「この作業はなくてもよかったね」というように、いろんなことが発見されていっていると思う。そんな中で飲食店は、以前と変わらずにお客様がいらしてくれて、ビジネスをしていけるという固定概念を変えていかないといけないよね。

――レストランは、いろいろなことをオンラインでやって、最後に集まる場所になるのではないかって感じています。

そうだよね。レストランは、専門性が強くなっていくんじゃないかな。「ここでしか食べられない」というものがなければ成り立たなくなるかもしれないね。そうすると、より経営者とかシェフの考えが大切になってくるよね。どう考えて、どんな思いでやっているかが大事になってくる。

一方で、ひと昔前のちょっと大箱くらいのレストランで、みんながワイワイガヤガヤしているようなレストランというのは、そういうお店もあると思うんだけど、今はあんまりイメージがわかない。

あとは、レストランとアートがいっしょにポップアップしたり、世界中の人とセッションしていくとか。そういうのは海外でもすでに行われてビジネス化されているんだけど、日本でも同じようになっていくんじゃないかな。僕たちがレストラン以外のことにも目を向けていった方がいいよね。

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YouTuberに気づかされた料理の原点

――長い自宅待機期間で、何をしてらっしゃいますか?

西麻布のHOUSEと連絡を取りながら、資金繰りをどうするのかということなどは、ひんぱんにNYと東京をオンラインでつないでやっています。あとは、せっかくこんな時期なので、今まであまり手を出してこなかなった商品開発などもやってみようと思っています。調理器具をいっぱい買い込んで、スイーツとかペイストリーなんかをキッチンでやっているよ。今まで積み残していてやれなかったことができるというのは、すごい有意義な時間であるよね。

あとは、時間があるのでYouTubeを見るようになった(笑)。そうしたら「きまぐれクック」さんにハマっちゃって、ずっと見てるんだよね。普通のシーフード系の動画なんだけど、チャンネル登録者数が300何万人(348万人、2020年6月8日現在)もいる。やばいよね。

きまぐれクックさんは、近所の人を大切にしていたり、食材を大切にしていたり。もったいないことを絶対しないとか、家のキッチンが毎回メチャメチャきれいとか。彼は料理人じゃないらしいから、あんまりゴテゴテした料理もしない。

料理人のように料理を編集していく技術もないから、ふつうに魚をさばいて、シンプルに料理をして食べていることに徹している。たいていは料理を続けていくとゴテゴテしたりするんですが、そういうことをしないんです。「俺はこれでいいんだ」と、やりきっている。きまぐれクックさんを観ていると、これからは、料理が上手いとか下手ということが関係なくなってくるかもしれないって感じるよね。その動画を見ていると、僕も自分の原点に気づかせてもらえる。

それとこれは、ビジネスにも精通していると思っていて。ここまでやり切れる人が、飲食でも成功するんだろうなと思っている。

CHEESE STANDもYouTubeやったらいいんじゃない? チーズの作り方以前の話、たとえば牛乳まで遡って、生産者ごとにこの牛乳だったらこんなチーズにしたらどうなるだろうとかも面白いかもね。

――コロナ禍で料理人としての気づきはありましたか?

家では、晩御飯を作るのは僕なんですが、メニューはぜったいに同じものを作らないと決めて、1カ月半くらい続けています。これまで50食分くらい作って毎日違う。ひと晩で3種類は作るからトータル150種類。もちろん、簡単な料理も当然あるよ。

たとえば今日の夜は、食後にMTGが入っていたので早くご飯を食べなきゃいけなかったので、作りおきの牛肉の佃煮と余っていたお野菜でチャーハン。それに、スイートチリとマヨネーズで和えたブロッコリーと芽キャベツのゴマ和えでした。和洋、なんでもあり、家庭料理だからね。

お店のメニューだったら一回決まったら、しばらく同じものを作り続けるけど、家庭料理だとメニューが毎日違うから楽しいよね。頭付きのホールフィッシュをわざわざ1、2週間に一度買って帰ってきて捌いたり。洋食も和食も関係なくオールジャンルをやっているから、レストランにいるときよりも料理をしているかもしれない(笑)。

当然、誰も手伝ってくれないので、洗い物を少なく、調理器具も少なくして、この鍋とこの鍋をうまく使いながらみたいなことも考えているし。やってみると主婦の方はとても大変なんだなってことにも気づきました。それと食べ終わったら、毎日娘の評価を聞いてるんです(笑)。

――娘さんの反応はいかがでしたか?

日本にいたときは、僕は家庭で料理を作らなかったんです。だけど今は、僕が作って一緒に食べているから、残さず食べなさいと娘に言いますし、基本的にまずいものは作らないから(笑)。無理して食べてくれるようになりましたね。好き嫌いはあるけど、何でも食べてくれるよね。

じつは日本にいるときは、洋の食材を和に使うのに抵抗があったんだけど、その抵抗がなくなった。なぜかというと、家庭料理をやっていると、洋食を食べたら次の日は和食を食べたいなというふうに、バランスよく食べたくなるわけですよ(笑)。でも食材は、NYにいるのでとうぜん洋食材になる。そうすると、自然と洋食材を和テイストにするようになって、そこからの発見はたくさんありましたね。

――家庭での料理からも発見ができる谷さんがすごいです。

何でも固定概念は取っ払った方がいいよね。とくに僕たち料理人は、この食材はこうだと決めつけていることが多い。家庭に入った瞬間、誰かに評価されるのではなく、自分がおいしいものを食べたい、自分がおいしいものを作りたいという発想になる。家にいると自然体でものごとができるからいいよね。

だって西麻布HOUSEのメニューを考えていて、セロリをちょっとだけボイルしておひたしにするなんて考えないからね。だけど、「セロリをおひたしにすると、こういう味が伝わってくるのか」みたいなことが発見できたりするんだから、おもしろい。

「生活すること」がじつはとても大切なことだった

――コロナ禍の経験で、オープン予定のお店にも影響を与えませんか?

NY店の構想は5年。西麻布HOUSEと同じようなことができるといいなと、今は思っています。やっぱり「素材を活かす」というフィロソフィーは変わらないと思います。食材はとうぜん日本とは違ってくるけど、日本人特有の味付けとか、日本人特有の技法とかも強調してやっていこうと思っています。

NYに和食の料理人さんはたくさんいるけど、フランス料理出身の僕のように洋食出身のシェフがそれほど多くない。でも、日本人の洋食の料理人ってすごいからさ。日本には、こんな料理を作る料理人がいるんだということをNYでできたらなと。西麻布HOUSEよりも、自分らしいことができたらいいな、と思っています。

けど、藤川くんが言うように、コロナによってレストランへの考え方が変わってきているので、店も変わってくるかもね。コロナのおかげで、いろいろなことを見直すようになった。食べることとか、食材に対して見方が変わってきたよね。

生きることとか、食べることとか、「生活する」ということが、じつはとても大切なことだったんです。同じように仕事に明け暮れて家族に向き合えなかったことで、見落としていたことが、やっぱりたくさんあった。そういう根本への気づきは料理でも同じで、ミシュランやさまざまなアワードを意識して、過剰に色をつけようとするマインドをちょっとセーブしてもらえた。もちろん星はもらえたら嬉しいけど、食に対してもっと素直に向き合いたいし、おいしく食べてもらいたいと思うようになった。そういうことを大切にしたいという考えが芽生えてきているのは確かです

だから、じつはNYのお店は内装は決まってるけど工事が途中なので変えたいって思いはじめてる(笑)。でもそれはじっさい難しいからね。以前に考えた工事内容で進めないといけないとは思っています。オープンは、最短でも今年の秋ぐらいになるかな。

今は、がんばるしかないよね。僕は、NYで日本の洋食をいろんな人に広めるために頑張るしかない!

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Yuji Tani
株式会社Gather Inc.代表取締役。21歳から京都のフレンチレストランにて7年間修業。2000年、株式会社ウェルカム入社。1店舗目の料理長、フードサービス部門のゼネラルマネージャー、西麻布HOUSE、TODAY’S SPECIAL 自由が丘などの飲食店の総料理長を務めた後、独立。HOUSE NYをオープンさせるため、2019年9月に渡米。2020年秋以降の開業に向けて準備を進てめる。

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with coronavirus 飲食店の未来を語りましょう」の第2回は、東京・青山一丁目のレストラン「The Burn」のシェフ米澤文雄さんを予定しています。CHEESE STAND公式noteをフォローしていただいて、次回もお見逃しないようえにしてくださいね!

文・構成=江六前一郎

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