& CHEESE STANDがオープン、第2章のはじまり|C.S. STORY 2016-17
「& CHEESE STAND」がオープン
製造量が2倍に
前回の創業4年目の物語でもお話ししたように2016年からの創業5年目は、新店舗「& CHEESE STAND」のオープンが大きなできごとでした。
オープン日は12月6日。SHIBUYA CHEESE STAND(渋谷店)から歩いて3分ほど、渋谷店がある渋谷区神山町のお隣りの富ヶ谷へ。「東急本店通り」と呼ばれている通り沿いで営業を開始しました。
新店舗には、チーズ工房を併設し、それまで現在の渋谷店内にあった製造場所を移転。新設にあたってチーズバットを新調したことで、扱える牛乳の最大量が250ℓから600ℓになり製造量も倍以上作れるようになりました。
このバットは、ボイラーを使って蒸気を作って温度を上げることができます。牛乳を熱殺菌する際にすばやく温度が上がるので、作業が格段に早くなりました。
さらに今まで牛乳の搬入は、店の前に止まったタンクローリーからバケツで汲んで何十往復もして運んでいたのですが、新工房では店前に乗りつけたタンクローリーから直接ホースをつないで工房側に流しいれることができるようになったのです。また、ウォークインの冷蔵庫(チャンバー)も導入したので、商品管理もしやすくなりました。
9月から10月には、製造スタッフも増やし僕を入れて5人体制にして増産の準備を進めていたこともあり12月には、ほぼ毎日牛乳500ℓ分のチーズを作れるようになっていました。
工房移転は、とてもいいタイミングで行えたと思います。
より大きな製造場所を探しての移転
& CHEESE STANDの構想は、4年目くらいからありました。おかげさまで店舗、卸し、ECが順調に成長して、製造量が足りなくなってきていたこともあり、「もう少し大きな製造場所がないかなぁ」と、いうのがもともとの目的でした。
移転を考え始めてからを含めると1年ほどは、物件を探していたと思います。渋谷店の近くでやりたいという条件と、さらに1号店が人通り少ない場所だったので、目についてパッと入って買ってもらえるように商店街がいいなぁと思うようになって、神山町・富谷の商店街に絞って探しめてからは、2、3カ月で今の物件に出会えました。
工房移転がありきで、付随してセレクトショップを併設した工房のイメージが少しずつ出来あがっていくわけですが、そのアイディア自体は、CHEESE STANDがオープンから4年経って、多くの生産者さんやシェフ、クリエイターのみなさんとの出会いや地域とのつながりができてきたことで生まれたと思っています。
はじめは、お世話になっている生産者さんのワインやオリーブオイル、ハチミツといった食材や、シェフが考案した商品、物販などをEC通販で販売していこうと考えていました。
しかし、在庫を置いておくスぺースが渋谷店にはほとんどなく、何かいい方法はないかと考えていくなかで、「倉庫代わりに店頭販売したらどうか」というアイディアが生まれ、セレクトショップの構想ができあがっていきます。
こうして、出来たてのフレッシュチーズはもちろん、軽食のテイクアウトもでき、野菜やフルーツに、ハーブや本など、チーズにまつわる「&」なものを販売する& CHEESE STANDが誕生したのです。
4年間でできた仲間たちとの関りが
「&」というコンセプトを生んだ
オープンに先駆けて、「&」な仲間をゲストに招き、新店舗となる場所を会場にPOP-UPイベントを9月に開催しました。
その後、10月1日と2日には、出来たてのフレッシュチーズのほか、ハーブやグラノーラ、パンケーキミックス、オリーブオイル、チョコレートなどのこだわった食材や商品を集めて、新しくできる「& CHEESE STAND」をプレ体験してもらうPOP-UPマーケットを開催しています。
両日とも、多くのお客様にいらしていただいて、チーズ屋だけでなく小売店として成り立ちそうだし、富ヶ谷という地域にあってもいるなと感じて、自信が生まれまれたのを覚えています。
チーズの楽しさや魅力を発信していくための
オウンドメディアを立ち上げる
もうひとつ大きなできごとは、CHEESE STANDのオウンドメディア「CHEESE Media」を9月16日に開設したことです。
大切にしているものは、オープン当初からずっと変わってなく「街に出来たてのチーズを=チーズを身近にしてもらう」ということでした。
しかし、2012年にSHIBUYA CHEESE STANDをオープンした当時、いやCHEESE STANDの構想を持っていた20代の頃から、僕の頭を決まって悩ませるのは「チーズって、ふつうの人にとっては遠い存在なんだよなぁと」ということ。
オープンして4年経った当時でも、やはりまだまだチーズは嗜好品であり、遠い牧場で作られるものという感が拭えませんでした(もちろん少し変わったとはいえ、今も大きく変わっていません)。
高級品や海外の文化を嗜好する層にありがちな、知識がない人を上から目線で見るような世界にチーズはしたくありませんでした。チーズの楽しさや魅力を発信していき、たくさんの人もっとチーズを好きになってもらい、家庭でも食べる機会をも増やすために、自分たちでメディアを立ち上げようと考えたのです。
オウンドメディアの構想自体は、じつは開設の1年以上前からありました。じっさい、CHEESE Mediaのドメインを取得したのは、前年2015年5月頃で、CHEESE Mediaのロゴをデザイナーに発注したのはその後の8月。開設に喜びならも、同時に自分たちのスピードのなさに情けなさを感じてもいました。
大きくプロジェクトが前進したのは、2016年の夏。チーズのプロであり、雑誌『料理通信』のWeb編集などの経験を持つ佐野嘉彦さんが入社してくれたことです。
佐野さんとは、C.P.A.(チーズプロフェッショナル協会)などでつながっていましたし、以前から渋谷店にもきてくれていました。チーズやワインの資格を持っ人で、食べるのが好きで、チーズ好き。さらに文章も上手ということで、お願いすることにしました。
大きな企業がオウンドメディアを始めだした頃でもありましたが、僕たちのような小さな街のチーズ屋が、ブログやSNSではなくメディアをもとうとするのは、珍しかったと思います。
ですので、「お金の使い方ほかと違うね」と良い意味か、呆れられているのかわかりませんが、そんな声を飲食店の方にかけられたこともあります。僕自身としては、長期的なスパンでファンを増やすために発信していくことは大切だと思っていたし、そういった取り組みの一環という考えでした。
もちろんメディアとして成立・成熟するには時間がかかるものだと思うし、他の飲食業界の方々にある"飲食店の成功"を考えたら、店をどんどん増やしたり、売上を上げていくことが主流でしょうし、理解されづらかったのもわかります。
それでも雑誌の掲載や広告とは違って、オウンドメディアで配信した記事の反響や手ごたえが実際に数値としてわかるのはおもしろかったですね。
CHEESE Mediaは、CHEESE STAND Mediaとして現在も運営を続けており、卸先のシェフのインタビュー「Chef's Voice」やCHEESE STANDの商品を中心にしたレシピ紹介などを配信しています。
「飲食業は、やっぱり味がすべてでしょ」
という言葉がずっと胸の中にあった
会社の成長とチーズ業界への貢献という点で大きなできごとがあった2016年に、もうひとつ嬉しいできごとがありました。
2014年から始まり、2年に1度開催される「JAPAN CHEESE AWARD」(主催:NPO法人 チーズプロフェッショナル協会)の2016年大会でCHEESE STANDの「出来たてリコッタ」が金賞を受賞したのです。
JAPAN CHEESE AWARDは、日本各地で作られるナチュラルチーズのコンクール。全国の65工房から181品がエントリーし、CHEESE STANDからも4品を出品。10月23日の発表ではリコッタのほか、なんと3つのチーズが受賞しました。
CHEESE STANDとしては、初回の2014年大会でリコッタとブッラータが銀賞に入賞しており、2大会続けての評価が前回を上回るものだったのは、とてもうれしいことでした。
話は遡りますが、店をやる前に、経営者の方に相談に行ったことがあります。
チーズはおろか飲食にも全く関係のない職業の方ですが、いつお会いしても言質一つひとつがとてもストレートで真理をつかれていて、尊敬している方です。
当時の僕は、起業家気取りで生意気だったかもしれません。立地や採用の質問や、自分のビジネスプランの話ばかりをしていました。チーズ工房での修業経験がなく、チーズ業界の外からやってきた新参者が必死に強がっていただけだったかもしれません。
その方は「飲食業は、やっぱり味がすべてでしょ」と一言。
その言葉を心にずっと秘め、チーズ作りでは職人としての道を掘り下げていった結果、こうした賞を頂けたのではないかと思います。
やりたいことも変わってきました。経営者としてビジネスと本質とのバランスを常に考え、規模は求めず、本質を極めていく。東京でチーズをつくるということ。本当においしいチーズを広めるということ。これらが不可能ではなかった、という自信を得ることができました。
しっかりとスタッフにチーズ作りを教えながら、チーズ文化を広めていこうと改めて強く思ったことを覚えています。
「出来たてリコッタ」が金賞を受賞したことで、翌2017年6月にフランスで開催される、国際コンクール「Mondial du Fromage 2017」に出場することにもなりました。その内容は、次回にお話ししますね。
さまざまなバックボーンをもつ人が
仕事する会社に成長した
店舗メニューや卸限定だったリコッタサラータや、催事限定商品だったモッツァバーガーが& CHEESE STANDができたことで販売できるようになったり、イタリア菓子のスフォリアテッラやモッツァレラのピンチョスも新商品も販売したりと、新店舗ができてさまざまなアイディアをどんどんと形にできるようになりました。グリークヨーグルトやプリンの販売。& CHEESE STANDでは、ピタサンドを販売したりもしました。
一方で、2017年3月2日に渋谷駅に直結した高層複合施設「渋谷ヒカリエ」ShinQsのB2フードフロアの一角に3号店をオープンさせましたが、こちらは6カ月で撤退。実は、オープン3カ月で撤退を決めていたほどでした。
卸先が増えて、製造量も増えてきたなかで、さらに認知を拡大して販売数も増やそうとしていたのですが、「街に出来たてのチーズを」というコンセプトをきちんとお伝えしながら販売することができず、最後の方は、商品がおいてあるだけのスペースになってしまいました。人材不足といってしまえばそれまでですが、お店を増やすことの難しさを痛感するできごとでした。
チャレンジや評価、失敗とさまざまなことがあった創業5年目。スタッフも圧倒的に増えて、2017年4月には渋谷店に2名の新卒社員も入りました。若い人も増えたし、異業種を経験してきた人が同じ職場で働いています。
さまざまな人が仕事する会社になったことは、会社として成長してきたことの証でもあったと思います。CHEESE STANDの第2章が始まったのです。
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新店をオープンした記念に撮影してもらった写真。この年70歳になった親父の遺伝か、あごが出てきて(え?以前から?)、しわも目立ってきました。そして母方の叔父さんにも似てきました。
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語り=藤川真至
文・構成=江六前一郎
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