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飛騨の山間で10年。ようやくいいトマトになってきた|松永宗憲さん

FRESH CHEESE Delivery(オンラインショップ)や& CHEESE STANDで取り扱っているプロダクトの生産者をインスタライブにお招きしプロダクトにこめた想いを語ってもらう「&なCraftsmanとProducts」を9月から毎週配信しています。第1回目のゲストは、トマト農家長九郎農園」の松永宗憲さん。義理の兄弟という間柄でもあるCHEESE STAND代表の藤川真至が、トマト農家の歓びや課題などを聞きました。(インスタライブ配信日:2020年9月11日)

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リーマンショックを契機にサラリーマンから農家へ

――宗さん(松永さん)、今日は夜遅くにありがとうございます(藤川、以下同)。

いえいえ。インスタライブが初めてなので、今日1日ドキドキしてました(笑)。

――宗さんは、じつは僕の弟なんですね。といっても義理の弟ですが(笑)。インスタライブが久しぶりなので、まずは大好きなトマトを作っていて、安心して話ができる宗さんにお願いしました。

岐阜県飛騨市という、岐阜県の北端にある市の山間で「長九郎農園」という屋号でトマト農家をやっています。2011年からトマトの栽培を始めて、ちょうど10年目になります。藤川くんとは、僕の就農とCHEESE STANDのオープンが近くて勝手に同志のように思って応援しています。

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――会社勤めからトマト農家になったわけですが、そのきっかけってどんなことだったんですか?

静岡の会社に就職していた2007年に、リーマンショックがあったんですね。アメリカの一企業のせいで静岡の会社もいっぱい潰れていく現状を見て、こういう経済環境にずっといていいのかなって考えるようになったんです。

食べるために働いているなら、食べるに直結したとこで働こうとその時に考えたんだけど、料理は藤川くんのようにできないし、飲食店をやるのは無理だろうなと勝手に思って。

そこでちょっと短絡的なんですが、作るところにいけば死なないなと。もちろん昔から農業に興味があったのもあって、祖父がいる飛騨に移住して就農という選択をしました。

――今はどんなトマトを作っているんですか?

大きいトマトは桃太郎と自家採種ができる「アロイ」というトマトです。ミニトマトは赤と黄色と紫と緑のカラフルになるようにしています。今全部で10種類ぐらいやっているんですけど、毎年藤川くんの意見を聞いたり、他の方の意見を聞いたりして、10年目なのですがいまだに試行錯誤しながらやっています。

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――自家採種ができると何がメリットなんだろう?

自家採種は、成った実の種をとっておいて、翌年蒔けば芽が出るわけです。農業は同じ種を蒔けば同じものができるわけではなく、その土地の気候や土壌、水などにさまざまな条件によって変わってきます。

そこで、樹が元気に育ったトマトを何個かを食べ比べて、おいしいトマトの種を残して翌年植える。それを繰り返して、今10年目にしてやっとちょっといい感じになってきました。

冬は農業ができないので駅で除雪のアルバイト

――トマト農家の生活のリズムってどんな感じでしょうか?

トマトのシーズンが始まるのは4月から。種を植えるのがスタートです。最初のうちは本当にダラダラとやってます。7時とか8時に仕事を始めるみたいな生活なんですけど、最盛期の夏は4時に起きて5時から畑に行ってます。

山奥の飛騨ですが、夏はハウスの中が40℃を超してしまうんです。ですから、とにかく涼しい時間に仕事をするために朝が早いわけです。

だいたい昼の12時頃まで作業をしたら、涼しくなる15時頃まで休憩。昼寝したりして、夕方は18時か18時半までまたやって帰っています。

――ちなみに、今日はどんな仕事をしていましたか。

飛騨だと、今から花が咲くトマトは、雪が降るころに実になるので収穫することができないんです。それなので今から成長を止める摘心という作業をしていました。

冬は、雪が2mぐらい積って、かまくらのなかに住んでいるような生活になるので、まったく農作業ができません。なので、僕は冬の間は駅のホームに積もった雪を除けるバイトをしています(笑)。

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ちなみに、夏と冬で体重が7㎏もちがいます。夏は農作業ですごい痩せて、冬はそのかわり冬眠しているみたいに太ってしまうんですよ(笑)。

――どんな時に楽しいって思いますか?

農作物がどんどん育っていくのを見ているのは、すごい楽しいですね。あとは、藤川くんたちのように、使っていただいている方からの反応も大きいですね。

――そうですよね、作り手は「良かった」っていってもらえると、すごくやりがいになりますよね。

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土のことをもっと知るため土壌医検定に挑戦

――宗さんが考えるおいしいトマトの条件ってどんなところでしょうか?

おいしいって人によってバラバラだから、むずかしいよね。ただ、僕らが考えるおいしいトマトっていうのは、甘いだけじゃないということ。

――長九郎農園のトマトは、「SHIBUYA CHEESE STAND」で東京ブッラータと一緒に出させてもらっています(たっぷりトマトとブッラータ オレガノ添え:1720円)。と味がしっかりしていて、かつ適度な酸味があって僕はすごくおいしいと思っています。今年のトマトはどうでしたか?

今年は、雨が多かったからね。7月は1日の平均日照時間0.7時間とかでした。成長も0.8倍くらいのスピードで、おもうようにおいしいトマトにならなかったというのが正直な思いです。

――農業は、その年の気候に左右されますよね。ヴィンテージによって味がかわるワインに似ているかも。

たしかに。ちなみに、チーズづくりで、季節の差ってあるの?

――ありますよ。たとえば、夏は牛がめっちゃ水を飲むので、夏はミルクが薄くなるんです。逆に冬は、牛が穀物飼料をよく食べるので濃くなる。毎朝ミルクをさわっているとわかりますよ、今日は脂肪多いなぁとか。

牛の品種によっても違って、CHEESE STANDで扱うのはホルスタインのミルクなのですが、一度ジャージー牛のミルクで作ったらまったく脂肪の質が違くて。作る工程を変えないといけなくて、すごく苦労しました。

イタリアのときは、どうだった?

――イタリアではホルスタインが多かったですね。あとは水牛。水牛のミルクはまったく別物でした。山羊のミルクはのびないので、それだけでモッツァレラはできなかったですね。

農家もそうだけど、生き物を扱うって本当に難しいことですよね。

――そういえば、最近は土の資格をとったそうですね。

そう、土壌医検定っていうのをとりました。土壌医の資格を持っている方から、土のことを勉強できるからいいよと聞かされていて、農業をやる以上、土の事を知りたいなっていうのがあって勉強をし始めたんです。

勉強をしてみて、実際にうまくいったりいかなかったりするときに、どこに問題があったのかという原因を考えることができるので、その点はすごく役立ってるなぁと思っています。

――土によってトマトの味が変わってくるものですか?

たとえば、同じ飛騨地方でも、飛騨と高山では土が違います。高山は赤っぽい土で、僕がいる飛騨は灰色っぽい黒っぽい土です。そうすると投入する肥料も違えば、水のやり方もまったく違うと思います。トマトは土からできるので、やっぱり土は大事ですよね。

――土以外にどんなことがトマトの味に影響を与えますか? 

気候も大きいですね。僕が畑をもつ鮎飛というところは山々に囲まれて日照量が短くて、朝20℃だったのが昼になると35℃くらいまであがるので、寒暖差が大きい。寒暖差が大きいと糖度が高くなるといわれています。

だけどここ数年、朝の気温が高くなっていて、今年初めて、朝25℃っていうのがありました。僕が飛騨に移住して以来初めてのことです。

じつは、天候の問題は農業にとっても影響が大きいんです。飛騨は、台風がこないっていわれていたのに、最近は近くを通るようになって、強い風が吹くようになっています。ハウス栽培をしているので、ハウスが倒壊したり、トマトに被害がでることもあります。

町が高齢化していることもあって、荒れた農地が増えてきています。今はトマト農家ですが、そういった農地を活用して何か新しいことができないか、ということをこれから10年くらいでやってみたいですね。

最近は、妻がハーブの栽培を始めたり、10月からは今年もクレソンの栽培に挑戦したりしようと思っています。藤川くんにも送るので、感想きかせてくださいね!

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――ありがとうございます。すごいなぁ。やっぱり、飛騨から離れたくないですか?

そうだね、この土地でずっとやっていきたいとは思う。だけど、そう思っていてもどうなるかわからないからね。「どうしても」と固執していると、本当にダメなときに違う選択ができなくなってしまうのが僕は怖い。だから、いざとなったら違う道というのも考えていないと、と思っています。

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長九郎農園のトマトは、「& CHEESE STAND」で販売していますので、お気に入りのチーズとともにぜひお買い求めください!

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たっぷりトマトとブッラータ オレガノ添え(1720円)

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文・構成=江六前一郎

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次回の「&なCraftsmanとProducts」は、カンボジアのコショウを輸入する「KURATA PEPPER」の倉田浩伸さんです。CHEESE STANDのnoteをフォローしていただいて、次回もお見逃しないようにしてくださいね!

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