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10分間の甘いキスだけ

マッチングアプリを使っている生活は、マッチングアプリを使っていない生活と比べて、かなり色々なことが起きる。もちろんいいこともあれば、心がモヤモヤすることもある。たぶん危ないこともあるかもしれない。でも何もないよりずっとおもしろい。

年上の40代の男性と会った。アプリで連絡をもらい、数日後に待ち合わせてご飯を食べに行った。大抵アプリの写真は盛れているものだから、がっかりする前提で待ち合わせに向かうようにしているんだけど、この人は逆で、写真より実物の方が印象がかなり良かった。

話もおもしろくて、聞き上手。気を使ってくれるし、要所要所でさりげなく、『君のことを気に入ってますよ』というアピールを入れてくるのもうまくて、楽しい。「あ、ここ日本酒もありますよ?日本酒飲みます?」という僕の問いに、「うちにおいしい日本酒あるので、ここ出たらうちで飲みましょう」と答えるのもスマート。モテそうな人だなあと思う。

そのまま部屋に上がらせてもらい、ネットフリックスを適当にかけながら、日本酒を飲む。スツールに腰掛けて飲んでいる彼に、僕が「背もたれないところ座らせてすいません。隣座ってください」と言うと、隣に来てそのままの流れで抱きしめられる。

すでに二人とも結構飲んでいて、気持ち良い酔いの中で深いキスを交わす。日本酒の味がする彼の舌。服の中に滑り込む手。汗で濡れた彼の襟足を撫でる。「あーかわいすぎる。こんな予定じゃなかったんだけどな…」と言って笑う彼。酔っているはずなのに隙がない。うまいなあ。

甘いキスを10分ほど続けた。彼は「泊まっていきなよ」と言ってくれたのだけど、終電の時間が迫っていたので僕は「駅まで送ってください」と言って一緒に家を出た。暗い道を手を繋いで歩く。駅に入る前、誰もいない暗闇で、また抱きしめられ、キスをする。僕の体を確かめるように撫でる彼の手。「また遊びに来てもいいですか?」と僕が言うと「本当に来てくれる?」と言う。

帰りの電車に乗るとすぐにアプリを開き、お礼のメッセージを送った。すぐ返事が来るかと思いきや、返事はなく、翌日の朝に「寝落ちしてました。無事に家に帰りましたか?」とメッセージが届いた。僕がまた会いたい旨を伝えると、そこからまた返信がなくなる。

誰かと出会い、付き合い、生活が変わり、お互いに適応し、影響し合い、別れ、また生活が変わり、一人に適応する。これには、ものすごいパワーが必要。だから甘いキスとドキドキだけを残して、冷静に距離を置く彼の大人な対応が、理解できるし、スマートでかっこよくて、僕は彼のことばかり考えてしまう。

マッチングアプリを使っている生活は、こんな具合にモヤモヤするが、それもそれで楽しい。

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