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片想いの元同僚の部屋でやった秘密の事

あなたには墓場まで持っていく秘密がありますか?

僕にも秘密はたくさんあるが、どこかの方面の誰かしらと共有していることが多い。家族、友達、恋人、あるいは見ず知らずの人間、行きずりの男。誰かに対しては秘密でも、誰かにはそっと打ち明けると気持ちが軽くなったりするものだ。

それでも、本当に誰にも言えない、墓場まで持っていこうと思っていた秘密がある。親友にも話せないし、行きずりの男にも知られたくはない。けどここでなら、この秘密を共有できる気がして、書いてみることにした。

次に生まれたらこの人だけのために生きたいと思うような人に、僕は人生で二人出会った。そのどちらも完全に僕の片想いで、手を伸ばせば届くような切ない片想いではなく、いわゆる『推し』という概念に近い、自分の脳内で軽く神格化しつつ、しかしいざ会うと平静を装う、そんな人たちだ。

一人はゲイの元親友。『元』が付くのは、一時期近くに住んでいて、よくお互いの家を行き来したり、二人で旅行に行ったりしていた。その後、住む場所が離れて、SNSでお互いの近況は知っているものの、個人的に連絡を取ることはもう何年もしていない。初めて会った時から僕は彼のことが大好きになった。それは恋愛感情でもあり、下心でもあり、人としての尊敬、憧れ、友情、いろんな気持ちを含んだ『大好き』だった。けど、彼は僕が彼を好きなことに少しも気づいていないはずだ。僕は彼とずっと友達でいたかったから、今までもこれからも、大好きな気持ちを少しでもちらつかせることはない。

そしてもう一人は元同僚の男性だ。彼も僕が彼を好きなことを知らないし、そもそも僕がゲイだということすら知らない。二つ歳上の彼とは、一年くらいだけ一緒に仕事をした。最初はちょっと苦手かもと思っていたのだが、二人で出張に行く機会があり、3日間くらい一緒に過ごすうちに、だんだん彼のことが大好きになってしまった。同じオフィスで一緒に働くだけでは分からなかったことをたくさん知ることができた。とても優しくて気配りができること。兄貴気質で頼りがいがあるとこと。綺麗好きで近くにいるといつも良い匂いがすること。寝るときは寝相が良く寝息すら聞こえないほど静かに寝ること(3日間ツインの部屋だった)。体を動かすのが好きで出張中もホテルのジムで汗を流すこと。笑顔がとんでもなく魅力的なこと。

僕のネクタイがスーツケースの中で折れてシワが入っていたのを見て、余分に持ってきていたネクタイを貸してくれた。朝準備をしていると、「香水使いますか?」と言って僕の腕にすごくいい香りの香水をかけてくれた。(その後こっそり同じ香水を買って今も愛用している)出張から帰ってきて僕が急激に彼に懐いて仲良くなった。それからは毎日仕事に行くのが本当に楽しかった。

その後、僕はその会社を退職し、引っ越した。数ヶ月後、彼や他の友達に会いに、遊びに行くことになった際、彼が「ぜひうちに泊まっていってください」と言ってくれて、お言葉に甘えて泊めてもらうことにした。久しぶりの再会で色々な話をしながら楽しくご飯を食べ、少し飲んでから彼の家へお邪魔した。彼は普段寝ているベッドを僕に譲り、床に布団を敷いて寝ると言った。僕は布団でいいと言ったのだが、彼が「布団はずっと使ってなくてカビ臭いかもしれないから」と言って譲らず、結局ありがたくベッドを借りることにした。

ずっと大好きで、いつも職場で目で追いかけていた憧れの人が、毎日寝ているベッドに入れるなんて、夢のようだった。僕は意味もなくドキドキして寝付けなかったが、彼は出張の時と同じように寝息も立てずにすぐに眠ったようだった。

次の日、仕事で朝早く家を出る彼は、僕に鍵を渡して先に部屋を出ていった。「ゆっくりしていって」という彼の言葉に甘えて一人になった部屋でのんびり身支度を済ませ部屋を出ようとした。その時、玄関のドアの横にある洗濯機が目に入った。

変な気を起こしてはいけないと散々自分に言い聞かせていたのだが、洗濯機を覗き込んだ僕の目に彼のパンツが飛び込んできた。「ごめん…ごめん…」と思いながら僕はそのパンツを手に取り、まじまじと眺め、触った。きっと朝着替える時に脱いで洗濯機に放り込んだのだろう。彼の体温と湿気が少しだけ残っているような気がした。

そして僕はパンツの股間が当たる部分にゆっくりと顔をうずめた。清潔感に溢れていて全く隙のない、大好きな元同僚。そこは汗とほんの少し小便の蒸れた匂いがして、頭がクラクラした。大人になってパンツで興奮できるなんて思ってもみなかったし、決して良い香りとは言えないその匂いも、大好きな彼の体から発せられたものだと思うと、たちまち股間が熱くなった。その場で股間にたぎるものを鎮めたい衝動に駆られたが、もう一度だけ大きく息を吸い込み、パンツを洗濯機に戻して僕は彼の部屋を出た。

ゲイの知り合いや、僕がゲイであることを話している友達には、僕がこの同僚が大好きなことは前々からよく話をしていたし、彼の家に泊まること、彼のベッドに入った!など冗談めかして話していたのだが、あの朝彼のパンツに顔をうずめたことは誰にも話していない。憧れの人、そして僕のことを信頼してくれている人だから、ネタのように他人に話すのも憚られた。これを書いていても彼に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。いつも本当に良くしてくれているのに、裏切るようなことをしてしまった。けど、あの朝、彼の部屋を出て駅まで歩く僕の気分は爽やかだった。体いっぱいに吸い込んだ大好きな人の匂い。冥土の土産だ!とすら思った。

このご時世でもう2年ほど会えていないが、今でもよくお互いに連絡を取り合う。元気ですか?お変わりないですか?この前は僕の地元の銘菓を箱にたくさん詰めて彼の家に送った。すごく喜んでくれた。

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