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『ブレイブ-群青戦記-』 2人の物語

アニメ原作で完全なフィクション映画なのに、リアルな物語が織り込まれているような、不思議な感覚。

新田真剣佑さん初の単独主演。そして三浦春馬さん最後の撮影となった映画。
そんな意味で作ったのではないはずなのに、交差する2人の姿がずしんと来る映画でした。

2つのストーリー

スポーツ強豪校が校舎ごと桶狭間の合戦の直前にタイムスリップ。今川軍の偵察にやってきた織田信長(松山ケンイチさん)の家臣に襲われ、人質を取られてしまう。その後、やってきたのは松平元康(後の徳川家康:三浦春馬さん)。
歴史マニアの蒼(新田真剣佑さん)の提案で、松平元康と取引し仲間を助けに行くことに。運動部精鋭達が部活のスキルを活かして戦国武将と戦い、仲間と未来を取り戻す。というストーリー。

主役の蒼は、中学時代は剣道部、高校からは弓道部。実力はあるのに熱くなることがないので試合にも出ず、どこか自信がなく、当初は仲間が襲われていても敵に弓を引くことに躊躇してしまう。そんな蒼が次々と起こる出来事の中で、仲間や元康に刺激を受け成長していく、というもう一つのストーリーがあり、蒼が変化して行く姿が丁寧に描かれているのですが、特に蒼と元康2人のシーンがとても印象的でした。

オープニングの「時計台と雷」で『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のパロディか?なんて余計なことを考えていたら、突然、残虐シーンに突入しギョッとし(そういえば、PG12指定でした。)ちょっと落ち着いたところで、桶狭間の戦いの歴史確認。

歴史+アクション+ファンタジー+学園友情と盛り盛りな内容ですが、テーマは「継承」(監督談)ということで、仲間や先人の思いを継承して行くということを強く描く意図はあったと思います。

それにしても。。。。

2人のストーリー

数年前、『ちはやふる』の頃「マッケンユー !? ハーフ ??  2世にしてもすごい子が現れた」と思ったお名前とお顔。ハーフではないと知ってさらにびっくり!

この頃テレビを見る暇がなく、若手俳優さんにめっぽう弱かった私が、珍しく一発で覚えた真剣佑さん。

千葉真一さんの長男で、LA育ち。幼少期から空手、水泳、ピアノ、体操、と、役者になるべく生まれ育ったような彼が俳優を目指すきっかけとなったのは、15歳の時にLAで見た三浦春馬さんの映画だったと。

生まれた時から名優さん達に囲まれていたのにも関わらず、きっかけが春馬さんというのも驚きなら、随分活躍しているように思っていたけれど、単独主演はこれが初というのもびっくり。

春馬さんが19歳の時に踏んだ初舞台「星の大地に降る涙」の主役シャチを2020年春に真剣佑さんが2代目シャチとして継承。

今回、初の単独主演の彼を導く松平元康役が三浦春馬さん。
共演の夢を叶えた真剣佑さんに、映画の役の中で思いを託した春馬さんは、これが最後の映画。

こんな縁とタイミングってあるんだなあ、というような2人のストーリー。

監督はじめスタッフさんも一番印象に残っているシーンに、この2人のシーンをあげ「2人だけの空気があった」と仰っていますが、出会いのシーンからずっと、この2人のシーンだけ別物語のような独特の雰囲気がありました。

映画を観ている間は蒼と元康の2人の世界に浸るのに、なぜか映画を観終わった後、記憶に残るのは真剣佑さんと春馬さんのリアルな2人の姿。
出立ちも言葉も蒼と元康なのに、素の彼らが会話しているような不思議な錯覚。

真剣佑さんにとって「星の大地に降る涙」のシャチ役は舞台での初主演。
昨年の春、春馬さんがお祝いのメッセージ動画を贈ったときに「この動画ください」なんてファン全開の姿がありましたが、あれはこの撮影の後のことだったんですね。映画も舞台も初主演が春馬さん絡みだったとは。。。

2人とも、お互いにこれまでの作品とはちょっと違った特別な思いを持って演じていたのでしょうか。

初主演:新田真剣佑さん

映画の主役は明らかに真剣佑さん。
繊細な表情から、ガッチリ体格なのに弱気に見える姿勢や歩き方、変化して行く表情、目力、アクションまで、彼の実力と魅力が余すところなく発揮された作品でした。

元康のセリフじゃないけど、本当に「良き目をしておる」

そしてアクション。
最後の簗田(渡辺圭祐さん)との1対1のシーンは「槍が向かってきた時の恐怖や反応に慣れてしまわないように」あえて稽古をやらず手順を覚えただけで、渡辺さんの動きに合わせて動いたと。

片手で木刀や日本刀を振り回しても全く体幹がブレない殺陣に、空手仕込みの綺麗な蹴り、走りながら体が斜めになっているのにきちんと的を射抜いてそうな弓矢。乗馬も全く腰が弾んでいなく、上半身の力みもなく上級者かと。

「流鏑馬やってるので・・」なるほど、恐れ入りました。
アクションのみならず、武道フルコース堪能なんですね。

才能と環境と本人の努力が揃うと、こういう人が育つんだな、と感心してしまいました。

LAは若手が活躍する作品がなく、日本の方が若手が中心の作品が多いから、と、日本は期間限定の修行の場だなんて、俳優さんでは初めてではないでしょうか。

三浦春馬さん、最後のクランクアップ

3月15日に東宝さんから公開された特番の動画の中に、春馬さんオールアップの時の映像がありました。握手をしようと右手を出した春馬さんに、ハグというより抱きついた真剣佑さん。それを受け止める春馬さんもまた嬉しそう。

「自分がきっかけで役者を目指したとか、エンターテイメントに関わる仕事を始めました、と言っていただけると嬉しい」と以前アイネクライネの学生さん向けのイベントで話していたことがありました。

一方「いつかその方と共演する時が来たら、自分で伝えます」と言って、これまで絶対に憧れの人が誰なのか明かしてこなかった真剣佑さん。恐らく、この撮影中に伝えたことでしょう。

春馬さん、役者冥利に尽きる幸せだったことでしょうね。
元康に今までに見たことのないような、包み込むような優しさ、見守る先輩感が漂っているのは、役柄だけじゃなくて本心も滲み出ているからのように思います。

2019年12月29日が春馬さん撮影最終日だったそう。思えば、春馬さん俳優人生の中で、これが最後のオールアップ。

1月1日のInstagramにブレイブ撮影のための乗馬練習の様子が投稿されているのですが、それ以前の過去の投稿はこの時に消えたと。この撮影を終えて何か思うところがあったのかな、などと思ってしまいました。

「役者のアイデアやアドリブはできるだけ採用した」(本広監督)とのことで、元康と蒼の最後のシーンは、当初台詞があったのだけど、春馬さんの提案で台詞は言わずに刀を渡すシーンに。

伝えるべきことは日々の中で穏やかに語り、信念を貫き、後を継ぐ人に想いを託して、去り際は何も語らず、静かに行ってしまった。

春馬さんの姿と、なんだか重なりました。

「加勢致す」と両手を広げて戦いに挑む時の、ちょっと笑顔にも感じられる覚悟を決めた表情。まるで悟ったような表情。そして、オールアップの時の、あの笑顔。

「我が人生に悔いはなし」という声が聞こえてくるように思いました。

12月のブレイブ完成発表にあわせるかのように、5月から拠点をLAに戻すと発表した真剣佑さん。
おそらく、去り際に発表される『るろうに剣心』はこれまでのシリーズファンを驚かせ、彼が去った後も話題になることでしょう。

道を照らす光を持った人には、奇跡のような偶然が重なるストーリーが用意されていて、いつか伝説と呼ばれるようになるもの。

2人の最初で最後の共演となった『ブレイブ』
その可能性を感じる映画でした。








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