ギター弦のテンション(張力)に関するヒント

その弦、ギターに合っていますか?弦をゲージで選んでいませんか?
その選び方、本当に正しいでしょうか。

※面倒だったら実用編以降を読んでください


理論編

弦楽器の弦の周波数は以下の式によって表されます。
F=(1/2L)√(S/ρ)
F:固有振動数
L:弦長
S:張力
ρ:弦密度
※横振動の固有振動のみ表記

さて、この式にゲージ(弦の外径直径)は関与していません。ということは、ゲージ「だけ」を変えても張力に影響しないということになります。
しかし、太さが変われば、弦1mあたりに使用する素材が増える=密度が上昇します。これにより、ゲージが上がったことにより張力が変わったと錯覚します(疑似相関)。

弦は基本的に、以下に示す構造のいずれかで制作されます。
・プレーン弦…芯線1本で弦とする。
・ワウンド弦…芯線1本に、1本以上のワイヤー又はリボンを巻き付ける。
・コーティング弦…弦の上にポリマーを塗布、あるいはナイロン糸を巻き付ける。

さて、プレーン弦は素直です。そもそも芯線しか持たないために、ゲージから算出される密度に対する実際の密度は100%になります。

一方、ワウンド弦を切断してみると、芯線と巻き線の間には隙間が空いていることが見て取れます。円を隙間なく敷き詰めることができないように、弦は外径と素材から算出されるほどの密度を持ちません。
これは巻き線が太いほど密度が下がり、逆に細い線が巻かれていれば線の密度は上昇します。
なお、芯線の太さは出音の大きさに影響を持ちます。ストラトのピックアップの3弦部分だけポールピースが飛び出しているのは、昔の弦は3弦までワウンド弦だったためであり、芯線がプレーン弦の2弦より細かったことに由来します。

コーティング弦に関しては、ポリマー部分は弦に対して誤差程度の重量・厚みしか持たないことから省略します。

以上で示すように、弦の太さは厳密には密度を示すパラメーターではありません。ただし、精度は低いもののパラメーターとして機能することも事実であるため、ゲージを弦の「重さ」として表記するのが主流となっています。

実用編

以上のことを踏まえて、実際の弦を見ていきましょう。
例えば、A社の弦と同じゲージのB社の弦に変えたら張力が変わった、ということはよくあります。これは巻き線の太さが違うことに起因するほか、素材の比率の違いにもよります。
ニッケル弦は鉄にニッケルをメッキしたワイヤーですし、ステンレス弦は鉄にクロムを10.5%以上、炭素を1.2%以下含んだ合金を使用しています。この合金の割合によっても弦の密度は変わってきます。

弦のメーカーごとの特性については、評判を先に確認しておくこと、実際に試してみることが重要です。ただし、ゲージを上げたい場合はナットの溝調整は忘れずに行いましょう。溝に対して弦が太すぎる場合、ナットの割れ・欠けの原因になります。

さて、弦を語る上で欠かせないのが弦の劣化でしょう。いわゆる弦サビが劣化の代表格ですが、同時に弦の「伸び」「ゆるみ」も語らなくてはなりません。
巻き線を持つワイヤーは必ず自転性をもちます。これは弦に張力を掛けると発生する力で、巻き線がゆるむ方向に回転しようとします。これにより、弦が伸びると、弦の密度は下がり、同じチューニングでも張力を下げなくてはなりませんし、癖がついていきます。これに関しては対策の方法がありませんが、弾いたあとに弦を緩めることで多少対応が可能です。とはいえ、楽器に張った弦を何度も張ったり緩めたりするのはナットやサドルを削り、ダメージを与えます。
なお、巻き線が2重に重なっていて、それぞれが逆旋回している場合には自転性が軽減されています。とはいえ、弦自体が伸びていることに変わりはありません。

楽器ごとの選び方について

以下では、ストラト、テレキャス、など、楽器ごとにどのように弦を選ぶべきかを記述しています。ただし、実際にその楽器の仕様に合っているか、出したい音質や求める演奏性に合っているかどうかは、あなた自身が研究してください。

テレキャスター

テレキャスは、ブリッジが3連サドルのものか、6連のものかで話が変わってきます。3連サドルの場合は3弦ワウンドのセットを使用するか、4弦にバラ売りプレーン弦の太いものを使用するという方法で、音痴になりがちなオクターブチューニングを安定させられます。
チョーキングを多用する場合はプレーン弦を、しない場合はワウンド弦がおすすめです。
Gotoh IN-TUNEやWilkinsonの補正サドルを装着した楽器は通常のもので問題ありません。

ストラトキャスター

先に述べた通り、ストラトのピックアップは段差状になっていることがあります。この状態では3弦ワウンドの弦を使用することで、音量の差を減らすことができるでしょう。サドルの高さを変更して音量調整とすることもできます。

ジャガー/ジャズマスター/ムスタング

サドルから弦が落ちやすいといわれる楽器3種ですが、こちらは比較的重い弦を使用することでサドルにかかる張力を稼ぎ、弦落ちを減らすほか、サスティンも伸ばすことができます。
Mastery Bridgeを採用している場合は通常の3弦プレーンのセットを使用しましょう。サドルの構造が2連型になっているため、ここで3弦ワウンドを使用するのは逆効果です。

レスポール/SG(ギブソン系)

Tune-O-Maticを採用したギブソン系ギターは、たいていの場合どんな弦でも使用可能です。音量差が目立つ場合はポールピースを調整しましょう。

セミアコ・フルアコ・エレアコ等

アコースティックなボディを持つものは、通常重めの弦を使用した方が振動エネルギーが大きくなり、伴って生鳴りも大きくなります。音量を稼ぐという意味ではある程度重い弦が必要ですが、ボディ自体の強度はソリッドギターに劣るため、ボディトップやネックエンドが大きく曲がってしまうことがあります。
この部分のバランスは楽器ごとに異なるため、一概には言えませんが、生鳴り音量、出力音量、そして奏法により選択すべき弦が大きく変わります。

アコースティックギター

アコギ弦は80/20ブロンズ、フォスファーブロンズが素材として一般的です。80/20ブロンズはいわゆる青銅であり、フォスファーブロンズは青銅にリンを追加した改質合金です。フォスファーブロンズは導電性や加工性が改善されていますが、重量でいうとそこまで変わっているわけではないため、純粋に音質と弾きやすさで選んでしまって問題ありません。

ベース類

エレキベースでプレーン弦が登場することはほとんどないでしょう。7弦(High-F)を超える場合に使用されることがありますが、実際に挙げるには非常に少数なので割愛します。
ワウンド弦は、芯線をほぼ同じ太さに取っており、音量差が出ることは少ないでしょう。ただし、ラウンドワウンドに比べフラットワウンドは同ゲージでも密度が高いこと、ナイロンワウンドは普通の弦の上にナイロン糸を巻いた構造で作られていことに留意して弦を選択します。

バラ弦でセットを組む場合

超多弦楽器や創作楽器となると弦セットでは対応できないことがよくあります。このような場合はメーカーが公開している弦のテンションを基に計算することが簡便です。
また、簡単な計算方法として、「同じスケールで1オクターブ上にチューニングする場合、ゲージを約半分にする」と、本来のテンションと近い数値を得ることができます。


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