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アマガエルセラピー 16

幸せなベランダ

 愛妻と暮らす15階建てのプール付きリゾートマンションはビーチから徒歩5分の海岸沿いに建ち、津波避難ビルにも指定されています。なんにも邪魔されず広大な太平洋が望め、青い空と青い海を分ける水平線が視界いっぱいに広がります。ただし、その地球が丸いことがわかるオーシャンビューを享受できる特権は7階以上のベランダ限定です。うちは4階なので、砂防のための松林が邪魔して海はまったく見えません。

 海のそばに住みたい人は一定数いると思いますが、実際に住んでみると予想だにしなかった厄介なこともあります。特に湿気と塩害は頭痛の種です。下駄箱の湿気対策をこまめにしないと、すぐに革靴はふわふわの白カビに覆われます。北向きの書斎は、梅雨どきから秋口まで除湿器をかけっぱなしにする必要があります。天井や壁の隅に黒カビがはびこり、写真集や雑誌のページがくっついてしまうからです。

 オーシャンビューが売りの物件に住んでいながら海も見えず、屋根付きの自転車置き場に置いてあっても、引っ越して1年も経たずに新品のミニベロが錆びだらけと化す羽目に。そもそも地元民は海辺には住みたがらない事実をあとで知ったり、一時は貧乏くじを引いてしまった感ありありだったのですが、実は大当たりでした。海が見える階まで上がっていくカエルはほぼいませんから。

 どうしてベランダにカエルがいるのか、ふと思うことがあります。1鉢から増やしたカポックの鉢が4つあり、その葉っぱのあちこちで、ちっちゃなアマガエルが身体を丸めるように行儀よく休んでいるのが目に留まります。もうめちゃめちゃかわいくてたまりません。見ているだけで癒されます。日本全国津々浦々を探してもカエルの住処になっているベランダはなかなかないでしょう。海なんか見えなくても、平和で幸せな気持ちでいっぱいになるのです。

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