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アマガエルセラピー 20

浮かないクリスマス

 師走に入ると、自宅マンションのエントランスホールを始め、スポーツクラブやスーパーマーケットや農産物直売所や釣具店など、行かなきゃいけない場所にキラキラしたクリスマスツリーが飾られます。べつにクリスチャンでもないし、サンタからのプレゼントを待ちわびる子どもでもないので正直クリスマスなんてどうだっていいのですが、華やいだ演出とは裏腹に、なんともやるせない気持ちになります。あーあ早いな、またこの時期が来てしまったのかと。

 ベランダのカエルたちは例年、クリスマス前後に水苔に潜り、もうかわいい姿を拝むことができなくなります。葉っぱの上や、風除けのシェルターとして設置した竹筒の中でエネルギーを温存するようにじっと過ごしながらも、毎晩欠かさず水場で腰まで浸かり、気温が高くなれば餌をねだってくる半冬眠状態から完全冬眠へと移行するのです。そして哀しいかな、冬眠が明ければ知らぬ間にいなくなってしまうのが大半なので、事実上のお別れとなります。

 長い子だと半年余りの付き合いになり、それだけ何度も顔を合わせていれば、野生とはいえ警戒心も薄れ、気心の知れた仲になります。具体的には一番重要なコミュニケーション手段である餌やりのときに、あっ今、心が通じ合ったと思える瞬間が飛躍的に増えます。

 口をぐわっと開けて催促されたり、ぴょんと手に乗ってきたり、餌をあげた直後に、おいしかったかなと鼻先を撫でると、くすぐったいからやめてよというふうに顔をしかめたり、カエルたちはただ餌が欲しいだけかもしれませんが、本気でそう感じるのです。

 アマガエルとの付き合いは一年草と一緒だなと、つくづく思います。春に種を蒔いて、夏に花が咲き、秋に実をつけ、冬に枯れてしまう。仲よくなればなるほど別れも辛くなります。そういうわけで、どうにもクリスマスは浮かないのです。

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