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風鈴 ✎

縁側で一人夕涼みをしていた。

少しだけ冷たくなった秋の風が吹く。

軒下の風鈴がチリンと鳴った。

ふと人の気配を感じて振り向いた。

でも誰もいない。

いるはずがない。

この家には私一人。

あの人は戦に行ってしまってそれっきり。

もうわかってるはずなのに…まだ諦められない自分がいる。






陽がすっかり落ちた後もぼんやりしていた。

「晩ごはん…食べなきゃ」

一人での食事はもはや義務だった。

台所へと向かおうと立ち上がろうとしたその時、強い風が吹いた。

風鈴は千切れんばかりに風に吹かれ、騒がしく音を立てている。

(あっ…風鈴の紐が千切れちゃう)

風鈴を抑えようと届くはずもないのに手を伸ばした。

背後に気配を感じた。

緊張で体が硬くなった瞬間、誰かが風鈴に触れた。

「誰?」

恐る恐る振り向くと信じられない光景があった。

「…ただいま」

ボロボロの軍服を着た貴方がいた。

「うそ…」

「嘘じゃない」

涙が溢れて目の前がよく見えない。

「帰りが遅くなってすまん。まだ待っていてくれていただろうか…自信がなかったが一番に立ち寄った」  

「もぅ…遅すぎです」

「すまん…」

「もぅ…」

謝ってばかりの貴方は苦笑いをするばかりで

「おかえりなさい」

泣いてばかりの私は、そんな貴方の胸へ飛び込んだ。




ꕀ꙳

2021年8月15日にアメブロにて公開したSSを少しだけ手直ししました

たぶん日付的に見て、終戦記念日を意識して書いたのだと思います

終戦記念日または終戦の日とは日本での呼称

前日に決まったポツダム宣言及び日本が降伏したことが玉音放送で国民に発表された日であり、けして戦争が『終結』した日ではありません

戦争とは長い長い戦い

荒れた地に生命の息吹が訪れるには、長い年月が必要なのです

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