花散るらん ✎

俺、土方歳三は色の無い世界に居た。

音も無い、静かな場所だ。

微かに甘い花の香りが鼻をくすぐり、背中には柔らかな何かを感じていた。

そうか…俺は死んだのか。

辞世の句を読む暇もなかったな。

皮肉な笑みを浮かべるものの、その顔を見る者も居ないようだ。

遠くから俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

近藤さんだな。

目を開けようとしたが、瞼はまるで縫い付けられたように動かない。

体を起こそうとしても、まるで鉛のように重く動かない。

近藤さん…

近藤さん!

心の中で叫べども、声はまったく出ない。

近藤さ…勝っちゃん!

勝っちゃん待ってくれ、体が動かねぇんだ。

一人で行かないでくれ。

俺の名を呼ぶ声は一段と大きく響く。

おい…おかしくないか?

勝っちゃんは何故俺の事を副長って読んでんだ?

やがて体がひっぱられる感覚に襲われる。

ふっと体が軽くなり、重かった瞼は開かれた。

無色の世界は色のある世界へと変化した。

「副長!」

目の前には相馬主計の渋い顔があった。

「なんでぇ…お前かよ」

「美しく着飾った花魁の登場を、期待していましたか?」

「おめぇにしては上出来な冗談だな」

体を起こすと、桜の木の下で眠っていた事に気がついた。

眼前の桜は満開で、花の中心が赤くなっている。

「相馬、この桜の花の中心が赤い理由を知っているか?」

相馬は渋い顔をさらに渋くさせ、やれやれといった様子でこう答えた。

「桜の木の下には、死体が埋まっているからです。散り際か近くなったので、散らぬようにと死体の血を吸っているのでしょう」

「現実主義のおめぇしては、上出来な冗談だな」

「副長の好きそうな答えを口にしただけです」

「ふん…」

俺は立ち上がり、枝を軽くしならせて手を離した?

はらりはらりと、桜は風に乗って舞い散る。

「散り際が…ってところは正解。その後は根拠のない創作だな」

「総裁が探しておられます。早くお戻りください」

「はいはい」

俺は桜の木に背を向けて歩き出した。

ふとふりむき、独りごちる。

「俺もお前さんと同じく、散り際なのかもしれぇな」





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以前アメブロに掲載したショートストーリーを少しだけ手直ししました。

動画はこのショートストーリーをイメージして作ったものです。

画像はイメージとして【薄桜鬼】の画像をお借りしています。


5月5日は土方さんの188歳の誕生日

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