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世界遺産・国立西洋美術館に行ってきた話

こんにちは、チェ・ブンブンです。

今週末、いよいよ世界遺産検定マイスター試験を迎えます。試験に対する士気を高めるために台東区・上野にある国立西洋美術館に行ってきました。

国立西洋美術館とは?

国立西洋美術館入り口

1959年、実業家である松方幸次郎がヨーロッパで収集した「松方コレクション」を展示するために建設された美術館である。設計を依頼されたル・コルビュジエは1955年にたった8日間の視察のもと、設計図を書き上げた。しかしながら、具体的な数値が入っていなかったため、弟子の前川國男、板倉準三、吉阪隆正が実施設計を行なった、

ル・コルビュジエは近代建築の五原則

1.ピロティ
2.水平連続窓
3.屋上庭園
4.自由な平面
5.自由なファサード

ピロティ

を打ち出しており、国立西洋美術館ではピロティが特徴的な建築となっている。また、この美術館は世界でも珍しい「無限成長美術館」となっている。中心から渦を巻くように展示がされており、理論上は外周に沿うようにして拡張することができる。このような設計を行なっている美術館は他にインドのチャンディーガル市立美術館、サンスカル・ケンドラ美術館だけとなっている。

国立西洋美術館は2016年に世界遺産「ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献」の構成遺産として登録された。これは世界初のトランス・コンチネンタル・サイトでの登録となった。

世界遺産は、時として国境を超えて登録されることがある。特に自然遺産の場合、人為的に引かれた国境よりも生物多様性や自然美の連続性が重視される。例えば、アメリカとカナダにまたがる「アラスカ・カナダ国境地帯の山岳国立公園群」を想像してみれば分かるだろう。このトランスバウンダリー・サイトの概念は段々と文化遺産にも適用されていく。文化や歴史的背景、自然環境など共通する資産を全体として顕著な普遍的価値を有する遺産とみなし世界遺産登録を行うシリアル・ノミネーション・サイトの概念も生まれていく。これは「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼・造船・石炭産業」のようにひとつの国の中で点在するものもあれば、「ベルギーとフランスの鐘楼群」のように国を跨ぐものもある。これらは、1978年以降、世界遺産が数を増やしていく中で「点」から「線」、そして「面」と捉えていくベクトルが変容する中で生まれてきた概念である。

しかし、トランスバウンダリー・サイトとして登録する際には関係締約国が共同で登録推薦書を作成し、管理・監督していく必要がある。アルゼンチンとブラジルが別々で「イグアス国立公園」を申請しているように、世界遺産によっては共同での申請を回避し、別々に登録するケースがある。確かに、共同での登録推薦状の作成や管理は非常に難しいものがある。ただ、2016年に7ヶ国17構成遺産からなる「ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献」が世界遺産に登録された。これはトランス・バウンダリー・サイトの枠組みを超えてトランス・コンチネンタル・サイトとしての登録となったのだが、2ヶ国間での運用ですら難しいのに遺産全体として管理できるのかといった問題がある。

入り口には世界遺産登録証が展示されていた

さて、そんな構成遺産のひとつ国立西洋美術館の中へ入るとしよう。

中に入ってみた

入り口からしてユニークな構造だ
全体的に円柱を意識させる内観となっている

美術館の中へ入るとスロープ状の空間が広がっている。ひと目で複雑な構造を持った建築であることがわかる。空間を支配するように配置された円柱。これは国立西洋美術館のコンセプトともいえ、奥へ進むほど、円柱を意識せずにはいられない構図となっている。

映画だと映えそうな空間の中にフレームが生まれる構図
こういうの好きである
メインとなる展示エリア
階段上のスペースはスタッフ専用であった
ミニ階段の裏側
スタッフ用の階段
なんだかカッコいい

展示の中心となるエリアを見る。ぐるっと四角く回るように展示を観ていくのだが、あまり観たことのないような空間となっている。二層構造となっており、いたるところに小さな階段がある。上層部はスタッフ専用エリアとなっており、観覧客は下層を巡っていく。天井の低いエリアは暗めのライティング。天井が高いエリアは明るめのライティングとなっており異なる世界観が共存しているかのような面白い造りとなっている。

絵を観た

ペドロ・デ・オレンデ「聖母被昇天」

美術館の中を観ていると、いくつか印象的な絵画があった。ひとつ目はペドロ・デ・オレンデ「聖母被昇天」である。棺桶を覗く者と天に召される者との対比が面白い。人々は下を覗き込むが、そこには実体はなく、天に飛び立とうとしている構図に惹かれた。

エトワールト・コリール「ヴァニタスー書物と髑髏のある静物」

次に印象的だったのは、エトワールト・コリール「ヴァニタスー書物と髑髏のある静物」だ。まるで、平面から飛び出して落ちてきそうな書物やラッパの臨場感に魅了された。こういう意外な発見ができるのも美術館の醍醐味である。

前庭リニューアルについて

今回の訪問で知ったことがある。それは2020年10月19日から2022年4月8日まで約1年半に渡って休館していたのだ。これは本館が世界遺産登録された際に、以前行った工事にて前庭の価値が損なっていると指摘を受けていたことによる影響だ。世界遺産に登録されるには、今だけでなく将来に渡って顕著な普遍的価値を有しているかが重要となってくる。その際に重要となってくるのは真正性である。文化的背景や独自性を正しく継承しているかが重要となってくる。真正性が保証される範囲内であれば解体修復が可能となっている。また、伝統的な技術が不適切であった場合に近代的な技法の使用が許される。実際に「姫路城」は昭和の大修理の際に鉄筋コンクリート製の基礎構造物に取り替えられた。ただ国立西洋美術館の場合は、伝統的な技術が不適切というわけでなく、ル・コルビュジエの思想から逸脱した工事をおこなってしまっていたため、コロナ禍に大規模な改修工事が行われたのだ。

これは世界遺産検定マイスター試験前にみておいて正解であった。


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