PAS TASTA - peanut phenomenon ft. ピーナッツくん感想
音楽アーティストとしても活躍するVTuberピーナッツくんが、PAS TASTAとコラボした楽曲「peanut phenomenon」のMVが先日公開された。
最初にこの作品を観た時、難解だと感じた。コロコロと曲調が変わり、ノイズのような叫びと共にネットミームのオマージュが展開される。ゴダール映画のように、何を指し示しているのかが一度観ただけでは分からなかった。しかし、何十回か聴き込む中でじわっと味が滲み出てくる。ピーナッツくんとはどういう存在なのかが的確に描かれた楽曲であった。
先に曲の内容についてみていく。
流鏑馬の弓を何回回想しても誰も貫けず、謎の武器を放ったらカモメに当たる。砂漠ではなく海であり、魚影をストーカーしていくと独特な世界が語られる。これは混沌とするインターネットの世界だろう。混沌としている中、人の影を追って通り過ぎていくヴァーチャル空間を詩的に表現しているといえる。
実際に、ヴァーチャルな世界であれば物理的世界ではあり得ない場所に住むことだってできる。それは「おまじない」のようであり、それを操ることで消えない落書き、つまり自分が自分である存在を残すことができる。
これらの詩的表現の正体はピーナッツくんが現れ次のように語ることで顕となる。
「きみはヒトゲノム ぼくはフェノメノン」
我々は、たくさんの情報(ヒトゲノム)から構成される存在である。ピーナッツくんは、様々な現象、事象(フェノメノン)から構成される存在であると。ピーナッツくんは配信者とアバターが重なり合って、「ピーナッツくん」という存在が浮かび上がっている。ピーナッツくんは、物理的世界と仮想世界を行き来しながら、世界を作っていく。消えない落書きがピーナッツくんの存在を構成している。自己とは何かを考えた際に、自分の中にある多くの情報が集まり唯一無二の存在としての自己が浮かび上がる。ピーナッツくんを介して語る。そして、「ふたりケロベロス」「パトラクレオも」と細かい情報のビートを刻むことでヒトゲノム、フェノメノンの一要素を抽出していく。
この理論を裏付けるスパイスとして映像が刻まれる。ピーナッツくんをベースにスプーの絵描き歌やマクドナルドのCM、キーボードクラッシャーなどのネットミームオマージュが展開される。さらにはピーナッツくんの楽曲「DUNE!」の非公式PVを引用する。異なる質感が混ざり合い、でもピーナッツくんの像は存在し続ける。アイデンティティとは、フェノメノンが複雑に絡み合いできていることが示されているのだ。
このように考えると、ピーナッツくんの歌でありながら、人は誰しもが個性的なものであることを語った人間讃歌といえよう。だから、聴き込んでいくごとに、感傷的になり泣けてくるのだと思う。
最後に、ピーナッツくんは映画好きであり、楽曲に『狂い咲きサンダーロード』や『グリーン・インフェルノ』といった作品を引用するのだが、今回は『アンダー・ザ・シルバーレイク』を引用していた。本作はある女性の失踪が原因となって、主人公が様々なヒントを元に彼女を探すのだが、段々と陰謀論に陥るような沼にハマっていく作品だ。あまり関係していないようなものを関係しているかのように錯覚し迷宮入りしていく様子が描かれている。それを「全て関係しぶつかり合う」と語り割と肯定的にこの映画を語っているように見えるのは印象的であった。確かに、「我思う、ゆえに我あり」といった感じで、物理的世界だろうが、仮想世界だろうが、目の前の現象を取り込んで自分を形成している状況は現実だと捉えるところはピーナッツくんの世界観ならではだなと感じた。
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