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【映画批評】黒沢清『CLOUD クラウド』二重螺旋のフィルムノワール

 金や欲望のためにプロフェッショナルとして動くが思わぬところで足元をすくわれ窮地に至る。これはフィルムノワールの型である。インターネットが普及した時代におけるフィルムノワールは何か?黒沢清監督は「転売ヤー」問題からフィルムノワールを語って見せた。
 菅田将暉演じる吉井良介は工場で働く傍ら転売ヤーとして日銭を稼いでいた。医療機器からブランドバッグ、ゲームにフィギュア、金になるのならどんな商品でも売りさばいて見せる。大胆さと慎重さを兼ね備えており、同業者からの怪しいビジネスの誘いにも乗らずルーティンをこなしていく。ある程度金を貯めた吉井は恋人と共に郊外の湖畔に拠点を移し、幸せな暮らしを得ようとしていたのだが、インターネット上で結成された転売ヤー撲滅集団に命を狙われるようになる。
 黒沢清はフィクションとしての突っ込みどころを残しながら、社会の本質を捉えようとする作家である。リメイクされた『蛇の道』では復讐のために誘拐を繰り返しながら真実を求めようとする二人組を描いた作品であるが、西島秀俊演じる物語とは関係ないように思える患者、ドンドンと論理が飛躍し、『ヴィデオドローム』を彷彿とさせるフィクショナルな空間へ迷い込むところからポスト・トゥルース時代、陰謀論の本質を掴もうとしたように思える。

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